【開催報告】2009文明シリーズ:第4回比文研セミナー

「草原からみた文明―アフロ・ユーラシア史から世界史へ」

平成21年12月3日、京都大学大学院文学研究科教授・麗澤大学比較文明文化研究センター客員教授、杉山正明氏による第4回「比文研セミナー」が開催された。
松本健一センター長による講師紹介に引続き、杉山氏の講演がスタートした。

導入において、まず松本センター長との出会い、司馬遼太郎賞、隠岐学セミナー、後醍醐天皇の謎等を興味深く話され、「モンゴル帝国と日本国」、「モンゴル来襲」等、日本とモンゴルの関係を述べた上で、「モンゴル時代は世界史の分水嶺」であるとして、大陸との関係から見た日本史の見方を展開された。

Ⅰ 「文明」と「文化」
「四大文明」という区分の問題性、civilizationとcultureを区別する背景にユーロ・セントリスティクなニュアンスが存在することを指摘し、また、古典漢語・日本語としての「文明」「文化」の意味と歴史的発展を説明し、北京オリンピック前の中国で「文明」「文化」が大流行したことにも触れた上で、「文明」も「文化」も「つまるところは人間の営みとその結果のこと」であるとして、「文明文化」と併記することが正しいとされた。

Ⅱ 陸と海
「モンゴル時代」(Mongol Period)、また、「「ポスト・モンゴル時代」という考え方」は、日本発の世界史概念である。対照的に、「大航海時代」という語は、日本だけに通用する言い方であり、欧米では通用しない。欧米は、「西欧の偏見・おごりの語として自覚」しながらも、“Great Discovery Age”もしくは“Discovery Age”という語を使っていること等を述べ、「海」の議論が「西洋至上主義になりやすい」理由、「19c.なかばから」の「海の時代」の歴史を説明された。
引続き、「現在の“アフガニスタン紛争”」を取り上げ、イギリスが「海での優位と陸での苦しみ」を経験したこと、「イギリスのインド亜大陸支配と南下するロシア帝国とのグレード・ゲーム」、「1979年12月30日のソ連軍によるカブール進攻」と「イラン・イスラーム革命」の関係、「1980年モスクワ・オリンピックの西側ボイコット」と「ターリバーン」の誕生、「北京オリンピック」と「グルジアでの戦争」、「南アジア全体の流動化」等をあげ、「「アフガニスタン」は本当に危ない」状況にあると強調された。
次に、モンゴル帝国を取り上げ、「モンゴル帝国とその遺産」、「モンゴル帝国以前と以後のユーラシア」、「モンゴル帝国から生まれた諸帝国」、「「ポスト・モンゴル時代」という近世・近代史」を説明し、「アフガニスタンもそのひとつ」と指摘し、「地球社会」の未来を、「人間・社会・国家・人類としての“常規”のなかの正義を前提」として、「対立よりは、もとより融和」、「なにによらず、多様なあり方への尊重」が大切であるとし、「日本の意味と役割」に言及された。

Ⅲ 遊牧民が創った「帝国」・「国家」
「忘れられたユーラシア国家の流れ」を、スキタイ―サルマタイ―フン―・・・―ロシア連邦に至る「ユーラシアの北側」、匈奴―秦―漢―・・・―中華人民共和国に至る「アジア東方」、ソグド―烏孫―鉄勒―・・・―インド、パキスタン、スリランカに至る「ユーラシア中央域」、アーリア系の諸集団―サカ族(スキタイの南派)―マウリア朝―・・・―インド、パキスタン、スリランカに至る「南アジア」、ヒッタイト―アッシリア―ハカーマニッシュ帝国―・・・―さまざまな中東諸国に至る「西アジア・北アフリカ」を概観し、これらの国家のうち「遊牧民と無縁なものは限りなく少ない」と指摘した。
「ユーラシア国家の基本的パターン」は、「移動・牧畜・交易・軍事etc.」と共に、「定住・農耕・都市もつつみこむ広やかさ」、「薄い人種意識」を持ち、「民族国家」とも「近代国家」とも異なっていた。「近代西欧による野蛮視」によって、「破壊と殺戮という伝説」が捏造されてきた。
「モンゴル世界帝国」の出現で、大領域に大交流が生じ、東西がつながれ、「均一の貨幣・価値」に基づく「“重商主義”」が起こり、「旅人・商人・学者・文物・知識・学術・科学・技術・天文・暦・数学・病気・医学・薬学・書物・宗教etc.」の交流が行なわれた。これは「人類文明・人類文化の大融合のはじまり」であり、「閉ざされたヨーロッパのオープン化」であった。この「巨大な東方からの刺激」は「いわゆるルネサンス」を引き起こし、「まさに資本主義の様相」を呈していた。
「モンゴル命令文の世界」を説明し、「モンゴル帝国で創造・翻訳される文書とその形成」は、「命令書・勅書・外交文書・叙任状・布告書・特許状」などからなり、「モンゴル語と現地語」、つまり「漢語・ティベット語・日本語・ウイグル語・ペルシア語・アラビア語・テュルク語・ロシア語・ラテン語・百夷語・女真語etc.」のさまざまな言語による「おそるべき文化遺産」を形成している。杉山氏の努力によりようやく「総合把握への試み」が開始された。杉山氏は、欧米中心の「これまでの世界史はまちがっている」とし、「これから本当の歴史学が始まる」と述べられた。

 Ⅳ 「文明」をビジュアルにあらわすものとしての帝都・首都・都市・地図・絵など
スライドを示しながらビジュアルな説明が行なわれた。
「北魏の洛陽城」、「隋唐の長安城・洛陽城」は「城壁と坊壁をもった“軍営都市”」であるが、これは「遊牧民の野営形式」を基礎としたもので、「南面して左・中・右の三翼構造」を持っている。これを模倣した日本の「藤原京、平城京、恭仁京、長岡京、平安京」は「囲郭も坊壁もないオープン・シティ」であるが、やはり「遊牧民の野営形式」を基礎としたものであると説明された。
「スルターニーヤのオルシェイトゥ廟の衝撃」として、「美しい色タイルで粧われたモスク・建築」、「ラスター彩」、「鳳凰の図柄のラジュヴァディーナ」、「“ブルー・モスク”」、「青花(染付け)磁器」等の映像を通して、「おそるべき豊かさ」を説明された。

当日のセミナーでは、さらに多くの話題が取り上げられた。杉山氏の深く広い視点に立った説明と、歴史的洞察を踏まえた現代世界情勢に対する鋭い批判が散りばめられた講演は、参加者を大いに魅了し、また、西欧中心に偏向した世界史を人類の世界史に描きなおすことが、いかに意義ある仕事であるのかを、強く印象付けた。大変充実した講演を行っていただきました杉山正明教授と、熱心に聴講いただきました参加者の皆様に、深く感謝申上げます。

杉山 正明氏

杉山 正明氏

センター長挨拶

センター長挨拶

杉山氏 その2

杉山氏 その2

会場の様子 1

会場の様子 1

会場の様子 2

会場の様子 2