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教育・研究
2013.01.08

【開催報告】2012年度第3回公開研究会 樋口 晴彦 氏(警察大学校警察政策研究センター教授)

2012年12月6日、平成24年度第3回公開研究会が校舎あすなろで開催された。今回の研究会では、警察大学校警察政策研究センター教授である樋口晴彦氏をお迎えし、「企業不祥事と組織風土」をテーマに講演をしていただいた。 
樋口氏は組織不祥事に焦点を当て、学際的な立場から研究を進めている。組織不祥事は企業倫理の分野でも研究対象とされる問題である。組織不祥事は制度論の枠組みの中で議論されることが多く、企業倫理を制度化する(すなわち、どのような行動がのぞましいかを明文化する)ことで、実務に対する一定の指針を提供しようという努力がなされてきた。しかし、このような取組みは時に理想と現実とのギャップを生み、そのまま議論が停滞している状況を作り出している。同氏によると、いまこそ上記のような制度が「何故正常に機能しなかったのか」に着目する、いわば機能論として組織不祥事をとらえる研究が求められているという。 
樋口氏の研究はまず、組織不祥事を定義することから出発する。この定義に基づいて、組織不祥事とされる企業の行動を取り上げ、それらを事例研究として詳細に分析する。その結果、組織不祥事の原因に基づく類型が明らかにされる。同氏によると、組織不祥事を引き起こす主な原因は、組織不祥事の引き金となった因果関係の連鎖の最下流に位置する直接的原因と、直接原因を誘発・助長する潜在的原因に分類され、これらはさらに詳細な分類へとつながっていく。同氏は自らの手で18にのぼる事例を詳細に分析し、これらを原因別に分類している。 
樋口氏の組織不祥事に関する事例研究は今後、制度と現実とのギャップを埋めていく重要な役割を果たすであろう。これまで組織不祥事への対策は、組織不祥事そのものの発生メカニズムが学問的に十分に明らかにされないままに行われてきた。しかし、同氏の研究により、より効果的な対策をとるための制度の修正が可能となるはずである。また実証研究としての事例の蓄積は、組織不祥事に関する理論構築をも可能にするかもしれない。 
ここで、樋口氏の研究を形容するために「臨床」という言葉を用いたい。広辞苑によると、臨床とは「病床に臨むこと」を指し、臨床医学とは「基礎医学に対して、病人を実地に診察・治療する医学」を意味する。組織不祥事とは、いわば組織の病が表面化した状態であり、同氏の組織不祥事研究は、組織に対して起こった現実の問題を診断し、そこから得られる知見を制度や理論にフィードバックするものである。医学において、純粋な理論研究だけでなく、患者を目の前にして実際の病気を現実的に分析するという臨床医学研究が必要とされるのと同様に、経営学においても企業のかかえる現実的な問題を分析して理論構築に生かすという臨床研究が必要とされている。樋口氏はまさに、組織不祥事における臨床研究の開拓者である。 
樋口氏は、公開講演会終了後、大学院の授業にも来てくださり、時間の許す限り詳しくお話を聞かせてくださった。組織不祥事そのものの理解を深めるだけでなく、経営学研究の方法論についてもその具体的な内容を理解するに当たって非常に有益であった。同氏の話しぶりからは、「研究を心から楽しんでいる」という態度がにじみ出ており、研究者としての望ましいあり方の一つを見せられた思いである。 
(大学院生記)

講演の様子

講演の様子

講師の樋口氏

講師の樋口氏

講演をする樋口氏

講演をする樋口氏

熱心に受講する参加者

熱心に受講する参加者