津田塾大学国際関係学科教授 三砂 ちづる 氏が講演
2014.2.4

麗澤オープンカレッジ特別講演会(後援:千葉県教育委員会、柏・流山・松戸・我孫子・野田 各市教育委員会および柏商工会議所)の平成25年度後期第4回目が1月25日に開催され、津田塾大学国際関係学科教授の三砂ちづる教授が、テーマ「”やり手水と”軒遊び”の復活に向けて」と題して講演されました。当日は123名の方々が来場し熱心に聴講されました。

講演に先立ち、成相 修 カレッジ長の挨拶に続き、今回の講師紹介者である本学外国語学部の岩澤 知子准教授より、「三砂先生は私にとって10年来の大ファンです。今日は私も講演を楽しみにしています」と参加者に向けて紹介されました。

三砂教授はまず、ご自身の専門分野である「疫学」について説明されました。疫学とは、一般的な医療分野でみられるような個人の健康を対象にするのではなく、集団の健康を対象にする「公衆衛生」という分野です。三砂教授は、疫学の中でも「母子保健」を専門に研究を続けてきたとのことです。

まず、今回のテーマである「”やり手水”と”軒遊び”の復活に向けて」について解説されました。三砂教授は、「母親、子供、妊娠、出産などの研究を進めていくうち、無くしてしまった生活の知恵のようなもの、例えば、言葉になっていないことや近代医療は対象とならなくなったものなどが、たくさんあることが分かってきました」と語られ、三砂教授が母子保健を研究するうちに徐々に明るみになってきた「人間の知恵の復活」を軸にお話したいと説明がありました。

次に、”やり手水”と”軒遊び”の定義を示されました。”やり手水(ちょうず)”とは、赤ん坊を後ろから抱えて、縁側などで放尿をさせることの行為であり、現在は死語となっている呼称です。そして”軒遊び”とは、民俗学者の柳田國男氏が提唱した子どもの遊びを分類した言葉で、屋内での遊びから、外での遊びへ移行する間の、中間的な家族の目の届く範囲での遊びのことを指していると説明されました。

三砂教授は”やり手水”について、「おむつと赤ん坊との関係は、高齢者の介護にも結びつくため、”人間と排泄”の関係を指し、大切なことです」と述べられました。

現在の”平均おむつはずし年齢”は38ヶ月(おむつ会社調査)といわれていますが、現代70代以上の女性の方々が育児をしておられた時代では、おむつは1歳の誕生日までに外すものとされ、50代くらいの世代の方々の時代は、2歳までに取ることが普通だったとお話されました。

現在、おむつ外しがますます遅くなる傾向にあることについて、三砂教授は、「おむつを付けていること自体が、自然な子育てとは言えません。それは、大人の文化的生活が妨げられるため、”赤ん坊におむつを付けていただいている状態”にすぎないのです」と注意を呼びかけられました。また、紙おむつが普及している現代の状況についても、「便利で楽な方向に流れてしまっているだけである」と、警鐘を鳴らされました。

三砂教授は、「排泄は人間にとって最も大切なことです。つい二世代ほど前の日本人は、おむつをなるべく使わないで、赤ん坊は外で排泄させていました。しかし紙おむつの普及により、股におむつを当てることで、人間にとって根源的で大切な”何か”に蓋をしているといえるのではないでしょうか」と訴えられ、なるべくおむつを使わない「おむつなし育児」 を提唱されました。

最後に、”軒遊び”について触れられ、「”軒遊び”は昔の家の軒先でよく見られた光景で、母親の側にいつもいる時期を過ぎ、母親の目の届く場所で気配だけを感じつつ、赤ん坊が外の景色をぼんやりと眺めているような時期のことです。その時間はとてもゆったりと流れていて、赤ん坊にとっては、人間の心の豊かさ、根本をつくっている大切な時間なのです」と、述べられました。三砂教授は、現代の都市化によって”軒遊び”の時間がなくなってきている傾向について、「現代では、赤ん坊が心を作る大切な時間が失われています」と、注意を呼びかけられました。

三砂教授は女性の月経についても大きく触れられ、今年度を締めくくる後期第4回目の特別講演会は、「人間の知恵の復活」にちなんだ、たいへん示唆に富んだ解説が興味深く、受講者の方々は熱心に耳を傾けられていました。最後は、活発な質問が飛び交い、大きな拍手とともに終了しました。