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2014.10.24|最終更新日:2020.07.29|

国際基督教大学教養学部客員教授の八代 尚宏 氏が講演


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麗澤オープンカレッジ特別講演会(後援:千葉県教育委員会、柏・流山・松戸・我孫子・野田 各市教育委員会および柏商工会議所)の平成26年度後期第1回目が10月4日(土)に開催され、国際基督教大学教養学部客員教授、昭和女子大学特命教授の八代 尚宏 氏が、テーマ「社会保障を立て直す」と題して講演されました。当日は225名の方々が来場し熱心に聴講されました。

八代教授は、社会保障を考えるにあたり、まず人口問題から考えるべきだと述べられ、スライドを使用して分かりやすく示されました。日本の人口は、2008年をピークとして2060年には4000万人が減少すると予想されていることについて、「出生率が低下し、逆に寿命が伸びて高齢者が増えるという日本の将来を、現実問題として受け止める必要があります」と述べられました。

次に八代教授は、国の財政が圧迫されている社会保障問題について、「社会保障給付費と社会保険料収入の差額は、税金で埋める建て前だが、現実にはほとんど借金に依存しています。この借金は誰が払うのか。私達は、子供や孫の世代にツケを負わせているのです」と訴えられ、GDPの2倍の借金を抱えている今の政策は、先進国の中でも日本は最悪の状態であると紹介されました。

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次に、公的年金保険制度について言及されました。八代教授は、「年金は、老後のための積立貯蓄や福祉のように思われているが、正確には『保険』です。保険とはリスクが伴うのです」と解説されました。そのことについて氏は、「例えば、生命保険は病気や死亡などのリスク、火災保険は火事になった時のリスクであるのと同じように、年金保険は"長生きのリスク"への対応といえるのです。長生きするということは、無条件に良いことです。しかし、個人としては望ましいことが、なぜ社会問題になるのか。それは、保険の収支が均衡していないからです」と述べられました。

日本の増えすぎた借金と、予想を上回る高齢化、少子化による人口減少によって、今後ますます大きくなる社会保障負担を解決する方法として、三つの方法があると述べられました。1.保険料を上げること。2.年金給付をカットすること。3.年金給付開始年齢を遅らせることの三点です。八代教授は、1.は働いている世代や企業に大きな負担を強いてしまうこと。2.は高齢者が困ってしまうと解説。そのため、3.の方法しかないと訴えられました。氏は、「日本人は、世界中の国々と比べ、働く意欲が強い民族です。それは隠された国民資産ともいえるものです。健康で働きたい人はいつまでも働ける(エイジフリー=年齢を問わない)社会をつくる必要があるのです」と強く訴えられました。

次に、「医療費」について言及されました。日本は、病院のベッド数や高額医療機器の設置数が、世界の中でもダントツに多いことを示すデータを示されました。氏は、医療費がこれほどまでに財政を圧迫している理由として、医療制度そのものに原因があると言及されました。氏は、「医師が治療するたびに費用がかかる所謂『出来高払』になっています。つまり、病院は収入を増やすためベッドの数を埋めて、高額医療機器の稼働率をあげる仕組みとなっているのです」と指摘されました。

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また、他の先進国の医療は、まず「家庭医」が治療することが一般的になっていると解説されました。八代教授は、「多くの国では、まず家庭医が診察し、その場でほとんどの病気を治療します。しかし重い病気などの専門的な治療が必要な場合は、家庭医が紹介状を出すことによって、専門病院に行ける仕組みであり、緊急治療以外の病院の利用は制限されているのが当たり前です」と解説されました。

氏は、日本の医療制度の根本的な問題について、日本の医療は、患者が多くいなければ収入が増えない仕組みになっていることが原因であると解説しました。多くの国では、家庭医は先払い制度で行っており、患者が重い病気になる前に診療をすることで、病気を防ぎつつ、十分な収入を得られる仕組みになっていると解説。国民が病院に頼らず、健康で長生きすることによって、医療費をかなり抑えることができるため、そうした社会保障制度全体を見直さなければならないと、力説されました。

八代教授は最後に、介護保険制度についても詳しく触れられました。現在の介護は、助成の見返りに多くの規制を強いられており、そうした状態では新しい発想は生まれてこないと論じられました。財政の制約が厳しい中で、規制を緩和して、利用者が余分のお金を払っても良いと考えるような付加価値を保育や介護に付けるよう、民間事業者同士でサービス向上への競争を生み出すことが必要であると解説されました。

八代教授は、「今後、日本は20年間で1200万人の人口が減るが、70歳以上は800万人増えます。それを有効な市場と捉えて、高齢者にターゲットを絞ったビジネスを考えことが大切ではないでしょうか。高齢者の増加は、行政にとっては大きな負担でも、民間事業者にとっては有望な市場の拡大と捉えることこそが、成長戦略の鍵となるのです」と述べられ、盛大な拍手とともに講演会を締めくくられました。