学校教育研究科道徳教育専攻 教員リレーエッセイ連載(第1回)
2017.6.21

道徳の教科化の時代を迎え、道徳教育とは何かを科学的、学問的に学ぶ


麗澤大学 学長 中山 理

 エリザベス・キスとJ・ピーター・ユーベンの著書『道徳教育を論ずる―近代の大学の役割を再考する』(2010年)では、ここ30年くらいの間に、現在のアメリカの学会では倫理研究への回帰が起こっており、倫理を研究するセンターや教育プログラムが設立され、その数は100を超えると述べられています。

 しかし現在の日本では、グローバル化の時代を迎えていると言いながら、一部の研究機関を除いて、一般に「道徳」と聞くだけで花粉症のように一種のアレルギー反応を起こす傾向があるためか、大学などの高等教育機関では、道徳教育を対象とした学問領域もなければ、講座や専攻もありません。端的に言えば、大学と大学院レベルでの倫理・道徳に関する理論的研究が不足しているという深刻な現状にあります。

 その影響は、学校教育、特に道徳教育にも及んでいます。戦後の学校教育では、1950年に天野貞祐文部大臣が「修身科」の復活を発言した時から、道徳教育が学校教育自体の問題というよりも、政治的イデオロギーの争点となって久しく、これによって道徳教育は賛成か反対かの二項対立的図式が成立しただけで、肝心の道徳教育の中身については科学的、学問的な考察が十分になされていないような感を覚えます。その間、感情的な道徳教育の否定やタブー視はあったとしても、「道徳教育はどうあるべきか」の本質的な議論はなおざりにされたままなのです。

 「道徳の時間」が教科化されたとしても、道徳を教えるスキルとコンピタンシーを備えた教育体制の準備は整っていると言えるでしょうか。小学校は平成30年度から、中学校は平成31年度から特別の教科としての道徳が教えられることになるので、待ったなしの状況です。

 ただし、これを教員個人の問題だけに矮小化してはならないでしょう。そもそも、高等教育における教員養成に大きな制度上の問題を抱えていることが、このような事態を招いている一因と言えるのではないでしょうか。大学では教育職員免許法施行規則により将来教員をめざす大学生が学ぶべき道徳教育関連の必修科目は「道徳の指導法」しかありません。大学4年間でたったの2単位(90分×15回)、それも小中学校のみで、高等学校の教員免許状は、この2単位さえ不要なのです。要するに「教職に関する科目」にも道徳教育について学ぶ科目がないと言えます。これまでの道徳教育に議論の土台もモデルもないままの状態で道徳を教科化した場合、教育現場で真摯に道徳教育の取り組んでいる先生ほど戸惑いと不安を覚えることでしょう。この現状を打開するためにも、道徳教育を学問的、科学的に追求し、子どもたちを幸せにする道徳教育に真摯に取り組む人々を支援する大学院の設立が急務なのです。