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2008/09/03

麗澤大学開学50周年記念事業  新校舎建設と森の再生

―「里山」の森、「学び」の森-

新校舎設計案(正面)

新校舎設計案(正面)

新校舎設計案(大学校舎1号棟から新校舎へ)

新校舎設計案(大学校舎1号棟から新校舎へ)

新校舎建設のコンセプトは森との共生
麗澤大学は来年度に開学50周年、再来年度に廣池学園創立75周年を迎える。その周年記念事業の一環として、新校舎の建設を計画しているが、そのコンセプトは自然環境の積極的な保護、具体的にはいえば「森と共生するキャンパスづくり」である。
道徳科学専攻塾をその前身とする麗澤大学は、創立者廣池千九郎の道徳・倫理思想を建学の精神とする。その廣池の「仁草木(じんそうもく)に及ぶ」(慈し みの心、人間はもとより植物にも及ぶ)という倫理的自然観は、現在でも、大学の自然環境を維持管理する上の基本概念となっている。その精神を継承する麗澤 大学の廣池千英初代学長も、建物を建てるときなどは、樹木の伐採について、自らどの木を残すべきかを指示されたというし、現在の廣池幹堂理事長も「木を1 本伐ったら2本植えよ」と言っておられる。廣池学園創立以来、自然環境保護のコンセプトには、少しのぶれもない。
今回の新校舎建設も、麗澤の伝統ある自然保護の理念を踏まえたものであり、基本的なコンセプトの一つは、いうまでもなく廣池学園の森との共生である。

廣池千九郎記念講堂の屋根を通してのびるソメイヨシノの幹

廣池千九郎記念講堂の屋根を通してのびるソメイヨシノの幹)

樹木を残すために穴をあけた屋根

樹木を残すために穴をあけた屋根

新校舎建設予定地の森は自然林ではない
現在の新校舎建設予定地が森であ ることから、この森の中に建物を建てることに対し、少なからず懸念もあった。「今の森は、手つかずの自然がそのまま残っている場所なので、人間が干渉せず そのままにすべきだ」というのがその理由である。実際、建設予定地が「原生林」であることから、現状を保護すべきだという声もあったと聞く。
しかし、植物群落の種組成を指標とする植生解析の視点からすると、あの森は「自然林」ではない。ここで言う「自然林」とは人間の干渉が及ばない森林のこ とを指し、具体的にはスダジイ林(ブナ科)を意味する。1986年発行の『柏市の植生解析の報告書』によれば、人間の破壊が及ぶ以前、スダジイ林は柏市の 各所に分布していたという。ところが、江戸時代になって、土地が畑や牧として利用され、森林も用材や薪炭材の供給源である農林として利用され始めると、ス ダジイ林はきわめて少なくなっていったらしい。現在、大学のキャンパス内では、バス通りに面したフェンス内にスダジイが数本見られる(写真参照)。
スダジイ林減少の最大の理由は、この樹木が、他の有用植物と異なり、生産性が低く、人間の生活にとって利用価値が劣っていたからである。この頃から、ス ダジイ林は、アカマツ林や、コナラ・クヌギの落葉広葉樹林へと変貌していった。おそらく廣池学園の植生も、ほぼ同じような経過をたどったものと考えてよか ろう(参考:井田孝著『廣池学園の植生』[平成14年 麗澤中学・高等学校発行]、『麗澤の森』[平成19年 麗澤大学出版会発行])。

麗澤大学キャンパス内のスダジイ

麗澤大学キャンパス内のスダジイ

スダジイ植生地(麗澤大学キャンパス内)

スダジイ植生地(麗澤大学キャンパス内)

発想の転換 放置から、里山として積極的な森の回復へ
厳密にいえば、新 校舎建設予定地は、人を寄せ付けない原生林などではなく、すでに人の手の入ったものが、その後久しくそのままの状態で放置されてきた人工林だと言える。な らば、むやみに樹木を伐採してはならないけれども、より良き状態になるよう森に手を加えることには何の問題もないように思える。  
実際、現在の建設予定地に足を踏み入れてみると、日光がほとんど入らない欝蒼とした場所や、スギであろうか、朽ち果てて倒れたままになっている大木も何本か見受けられる(写真参照)。繰り返しになるけれども、麗澤はこの森の樹木から何ら生産性を求めていない。
であるなら、そのような目的で植えられたスギなどはむしろ伐採した方が、森の環境は向上するだろう。森には光と風が入り、落葉樹の成長を助け、より生態 的な意味で自然の森に近づくことになるからである。植生として「自然の森」に帰るには数百年かかる。それならば、そのまま放置するよりも、積極的に森を管 理することによって、常緑落葉樹の混合林として植生の回復を目指そうというのが、今回のコンセプトである。換言すれば、日本に伝統的な「里山」の発想の現 代的展開といえよう。(伐採した木は有効利用を検討中)。

新校舎建設予定地(大学校舎1号棟6階より撮影)

新校舎建設予定地(大学校舎1号棟6階より撮影)

設予定地の鬱蒼とした森

設予定地の鬱蒼とした森

倒木

倒木

倒木

倒木

森と大学のキャンパスの共生―3つのポイント―
今回の新校舎新築工事の提案書(岡田新一設計事務所)をもとに、新校舎の基本コンセプトをご紹介しておこう。

① 森の回復。今回、建設予定地に「里山林」として回復される森は、今の欝蒼とした、人を寄せ付けない、単色的な森から、季節を楽しめ、景観的にも美しい、明 るい森に変貌することになる。そのために、「木を1本伐ったら2本植えよ」という現理事長の方針に従い、花や実のなる木を、既存樹とバランスをとりながら 補植する。

②建物ではなく樹木優先の建築設計。建物を建てるために樹木を伐採するのではなく、残すべき樹木と伐採すべき樹木をよりわけ、森の回復のために伐採して生じた空間に、建物を挿入するというスタンスをとる。したがって樹木の伐採は最小限にとどめることになる。

③ 学び・癒しの空間としての森。②により、建物と樹木が接近すると、建物から自然観察が可能となり、森は学習の森にもなる。樹木と建物は垂直的に並立するの で、学生は、建物の階ごとに、樹木を根系部から頂上部までつぶさに観察でき、樹木の部位ごとの形態の相違はもとより、生物の棲み分けなども楽しめることに なるだろう。それは学生にとって学びとともに癒しの空間でもある。

このように、この新校舎は、学生が学習する場を提供する建物ということに止まらず、自然環境との共生をコンセプトに、その外部も含めて学習空間を提供しようとする試みである。平成23年4月からの供用が待たれる。

<新校舎の建設状況>