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平成20年度 入学式告辞

本日ここに、多数のご来賓の方々のご臨席のもと、平成20年度麗澤大学入学式を挙行できますことは、大きな喜びです。また、新入生の保護者やご家族の方々にも心よりお喜び申し上げます。

平成20年度の入学者は大学院生、学部生、別科生、研究生、特別聴講生、総計867名で、この中には、世界の17の国と地域から203名の外国人留学生も含まれます。麗澤大学の教職員を代表いたしまして、皆さんのご入学を心から歓迎いたします。

さて、新入生の皆さんが入学される麗澤大学は、建学以来、創立者廣池千九郎(法学博士)の教育理念、「高い品性と専門性を備え、自分の考えを国際的に発信できる人材の育成が大切である」との考えをもとに、「知徳一体」の国際的教養人および国際公共人の育成を目指してきました。「知徳一体」とは、知識と道徳はひとつに調和すべきであり、大学や大学院での学問も、知識と道徳が車の両輪のように機能して、初めて社会に役立つものとなるという理念です。

この麗澤教育の理念は、名は体を表わすというように、まさに麗澤という名称に表されております。「麗澤」とは、中国の古典の『易経』からとった言葉で、「ともに並ぶ澤」を意味します。『易経』に「並んでいる沢が互いに潤し合う姿は喜ばしい。立派な人間になろうとする者が志を同じくする友と切磋琢磨する姿は素晴らしい」(象に曰く。麗ける澤は兌びなり。君子以て朋友と講習す)とあるように、お互いの切磋琢磨を通して、常に相手を尊重し、互いに助け合いながら、自己の品性を高めることの大切さを謳っているのです。本学の創立者はこの古典の精神を敷衍(ふえん)し、「麗澤」の意味をこう表現しました。麗澤とは「太陽天に懸かりて萬物を恵み潤し育つる義なり」。つまり「天にある太陽のごとく、生きとし生けるものすべてを育てる」人であれ、というのが麗澤の目指す人間像です。

そのように麗澤教育の本義を自然のメタファーで表現した創立者、廣池千九郎は、この「麗澤の森」ともいわれる、かけがえのない教育環境を作りました。広さが46万平方メートル、東京ドームが10個も入る廣池学園は、大学だけでなく、麗澤中学校、高等学校、幼稚園、生涯教育を展開するモラロジー研究所をも包含する広大なガーデン・キャンパスです。園内には、樹木だけも、約1万5千本、300種類の植物があり、その自然環境が作り出す四季折々の姿は、格好の癒しの空間として、これから勉学に励む皆さんの心を和ませてくれるでしょう。皆さんがこの会場にいらっしゃる途中に通ってこられたソメイヨシノの桜並木も、昭和10年に、創立者が植えたものです。塾生に指示し、一本一本苗木から丹精こめて世話をさせたそうです。それも自分たちが楽しむためではなく、将来、麗澤の門をくぐる人たちが楽しめるにようにという慈愛の心で植樹をしたものです。

そのような麗澤の教育理念は、言うまでもなく、学部・大学院のカリキュラムにも反映されています。環境破壊、経済至上主義、モラル荒廃、教育崩壊など、多くの問題を抱える現代において、21世紀の大学は、知の再構築を求められていますが、それは高い道徳性に軸足を置いたものでなくてはなりません。これを外国語学部で展開すれば、多言語・多文化理解・共生の理念の追求であり、経済学部では、経済と道徳は一つであるとする「道経一体」思想の追求です。これは冒頭で申し上げた、知識を真に生かすものは品性であり、道徳性であるという「知徳一体」の理念を高等教育のレベルで展開したものです。

もう一つ麗澤教育の特色をあげるとすれば、グローバル化、国際化の社会的ニーズに対応したプログラムを備えていることでございます。それは麗澤から海外の提携校に派遣している学生数を見ても一目瞭然です。現在、日本には国公私立あわせて756校(国立87校,公立89校,私立580校 文科省19年度)ほどの大学がありますが、留学生派遣の規模では、麗澤大学は全国で第6位にランクされております(朝日新聞2月19日26面)。麗澤は、そのようなグローバル文化に対応したカリキュラムが充実しており、一例をあげれば、外国語学部のクロス留学制度、経済学部のIMCや中国MCなどは、内外からも高い期待と評価を受けています。新入生の皆さんには、このような種々のプログラムを大いに活用するとともに、是非とも海外留学にもチャレンジしていただきたいと思います。 

また、麗澤のキャンパス内には、25の国と地域からの留学生が、皆さんと机を並べて勉学に励んでおり、キャンパスそれ自体が、多文化理解と共存を実践する場として機能しています。

留学生は、国籍、言語、文化の違いだけでなく、その年齢構成や家庭環境においても、日本人学生よりはるかに多様です。今年の3月に挙行されました平成19年度の学位記授与式で、一人の大学院修了生が、感極まり、普段なら流暢な日本語で述べることができたはずなのに、涙で言葉をつまらせての答辞となりました。式が終わってから、私は、ほんとうの涙のわけを知ることになりました。彼女は既婚であり、国にお子さんを残して日本に勉強しに来ていたのです。ほんとうは博士後期課程に進学したかったのですが、このような家庭の事情で断念せざるをえませんでした。それでも、少なくとも6年間、親子が離れ離れになっていながら、勉学に打ちこみ、麗澤の日本語学科を卒業し、さらに大学院博士前期課程を修了して、見事、修士の学位を手にしたのです。それがどれほど辛い体験だったか想像もつきませんが、彼女の支払った代価が大きかった分だけ、喜びもひとしおだったのでしょう。「麗澤で学べてほんとうによかった」という、彼女の心からの感謝の言葉とその大粒の涙には、きっと万感の想いが込められていたのだと思われます。帰国後は、母国の大学で教鞭をとる予定ということですが、待ちに待った親子の再会、ご家庭の幸福、そしてますますのご活躍を祈らずにはいられませんでした。周囲に祝福されながら大学で学べるという、ごく当たり前のことが、どれほど恵まれたことなのか、あらためて教えられた気がします。このような感動的な学位授与に限らず、麗澤大学では、これからも色々な人生のドラマが皆さんを待ち受けていると思います。そして皆さんは、そのかけがえのないドラマの主人公になることでしょう。

すでにご存じのように、麗澤大学は両学部とも改組を行い、今日から新しいカリキュラムがスタートいたします。皆さんは、その麗澤の「新しい学び」の第一期生となるわけです。また、来年、21年には、大学開学50周年を、さらに麗澤大学の前身である道徳科学専攻塾まで遡りますと、その翌年の平成22年には廣池学園創立75周年を迎えます。まさに麗澤大学は、その歴史において、エポック・メイキングなステージを迎えているのです。皆さんは、本日より、私たち教職員とともに、麗澤の新たな歴史をつくりあげる一員になるのです。麗澤の学びの新たな1ページを開くのは、皆さんなのです。それには日本人学生、外国人留学生の区別はありません。

そのような新たな船出に思いをはせると、第35代アメリカ合衆国大統領J・F・ケネディの大統領就任演説の言葉が脳裏に浮かびます。ケネディは、アメリカの新しい歴史の第一歩を踏み出すにあたり、こう呼びかけました。新約聖書の『ローマ人への手紙』に記されたパウロの言葉を引用しながら、専制、貧困、戦争といった人類共通の敵と戦うに際し、「望みを抱いて喜び、苦難に耐えながら」(rejoicing in hope, patient in tribulation)ともに重荷を背負おうと。そして東西、南北、すべての国境を超え、人類により実りある生活を保障する「壮大な世界的同盟」(a grand and global alliance)を作れないかと(John F. Kennedy Inaugural Address, January 20, 1961)。私たちも、この麗澤大学という「小さな地球」で、世界の人々とともに手を取り合い、力を合わせて温かい人間の輪を作れないでしょうか。

最後に、今日から麗澤の新しい学びをスタートするにあたり、もう一度、あのケネディの真摯な問いかけの言葉を、皆さん自身にも投げかけたいと思います。「あなたがたも、この歴史的な努力に身を投じてみないか。」(Will you join in that historic effort?) 
皆さんのご健闘を祈ります。

平成20年4月2日   
麗澤大学学長 中山 理