平成22年度 入学式告辞
本日ここに、多数のご来賓の方々のご臨席のもと、平成22年度麗澤大学入学式を挙行できますことは、私どもの心から慶びとするところでございます。
平成22年度の入学者は大学院生、学部生、学部編入生、別科生、研究生、特別聴講生、総計798名で、この中には、世界の12の国と地域からの外国人留学生200名も含まれます。麗澤大学の教職員を代表して、皆さんのご入学を心から歓迎いたすとともに、新入生のご家族や保証人の方々にも衷心よりお祝い申し上げます。
さて、新入生の皆さんをお迎えする言葉として、麗澤大学の特色、今風に申し上げれば、麗澤大学のブランドについてご紹介したいと思います。本学は、創立者廣池千九郎(法学博士)の「高い品性と専門性を備え、自分の考えを国際的に発信できる人材の育成が大切である」との考えをもとに、建学以来「知徳一体」の真の国際的教養人・国際公共人の育成を目指してまいりました。知徳一体とは、知識と道徳はひとつに調和すべきものであり、大学や大学院で習得する学問も、知識と道徳が車の両輪のように機能して初めて社会に役立つものとなるということです。本日は、 このことに関しまして3つのことをお話ししたいと思います。
まず第一に、皆さんの中には、大学教育で「道徳」とか「モラル」とか申し上げますと、違和感や疑問を抱かれる方もいらっしゃるかもしれません。道徳のようなものは大学ではなく、家庭の中や小・中学校の初等教育で行われるべきものだというご意見もおありでしょう。しかしながら、本来のモラルとは、自分と他者、自分と社会、あるいは自分と自然との相互の関係性を見つめ、どのようにしたら、よりよき関係が構築できるかを考えるための心の指針であるはずです。そのような関係性は、場所が変わるたびに、また年齢を重ねるごとに、新しく組みかえられ、それに応じた新しい態度が要求されます。つまり、モラルの追求に年齢の区切りなどないと申し上げたいのです。それどころかノーブレス・オブリージュ(「高貴なる義務」)と申しますように、年齢や社会的地位が高くなればなるほど、その年齢や地位にふさわしいモラルの質と量が必要となるのです。
またモラルと聴くと堅苦しいお説教や厳しい躾を連想される方がいらっしゃるかもしれません。しかし、真のモラルは、人を束縛するものでも、威圧するものでもありません。ドイツの哲学者・エマニュエル・カントは、次のような味わい深い言葉を残しております。彼の心を驚嘆と畏敬の念で満たすものが二つある。ひとつは「私の頭上にある星を散りばめた天空」であり、もうひとつは「内なる道徳律」である、と。まさにカントの言うように、モラルとは、無限の宇宙と同じく、日常に埋没しがちな私たちの心を常に崇高な感情で満たし、限りなく高めてくれるものなのです。
第二に、そのような自分と他者との関係性をまさに表現したのが、「麗澤」という名称でございます。これは中国の古典『易経』からとった言葉で、「ともに並ぶ沢」を指します。『易経』に「並んでいる沢が互いに潤し合う姿は喜ばしい。立派な人間になろうとする者が志を同じくする友と切磋琢磨する姿は素晴らしい」(象に曰く。麗(つ)ける澤は兌(よろこ)びなり。君子以て朋友と講習す)とありますように、一言で申し上げますと、本学は、常にお互いの品性を高めあうことの大切さを教育目標に掲げているということです。本学の創立者はこの古典の精神を敷衍し、「麗澤」の意味をこう表現しました。麗澤とは「太陽天に懸かりて萬物を恵み潤し育つる義なり」。つまり「天にある太陽のごとく、生きとし生けるものすべてを慈しみ育てる人であれ」というのが、麗澤の名称に込められた創立者の願いです。
第三に、そのような教育理念は、キャンパスにもカリキュラムにも生かされております。まず、キャンパスには豊かな緑と自然が息づいておりますが、その基盤にあるコンセプトは、創立者の「仁草木に及ぶ」という理想です。それは「麗澤」の意味する太陽のような温かさを持って、人間はもとより、植物にまで接するということでございます。皆さんは、この会場にいらっしゃる途中、きれいに咲き誇った桜並木を通って来られたでしょう。あのソメイヨシノの桜並木は、今から75年前の昭和10年、創立者自らがステッキで一本一本若木の植える場所を指示されたそうです。それも自分たちが楽しむためではなく、皆さんのように、将来麗澤の門をくぐる人たちに、桜の美しさを楽しんでいただきたいという気持ちで植樹をしたのです。
また現在、本学は五階建ての新校舎を建設中ですが、そのコンセプトも「森と共生するキャンパス」です。建設地は以前は鬱蒼とした林でしたが、今回新校舎を建設するに当たり、生えていた520本の樹木をすべて調査いたしました。その中で、残す樹木と伐採する樹木を注意深く選別し、病気であったり虫食いであったりした樹木を含めて175本をやむを得ず伐採いたしました。そして残した木々の間に校舎をはめ込むという設計を行い、建物が完成した後に、「一本切ったら二本植えよ」という廣池現理事長のお言葉に従い、新たに森を再生する計画です。どうか皆様には自然に囲まれながら学ぶ楽しみを味わっていただくと同時に、3000種を越す本学の植物も同じキャンパスの家族だと思って大切に接していただくようお願いいたします。
さて現代は、環境破壊、経済至上主義、モラル荒廃、教育崩壊など、多くの問題を抱えていますが、このような激しい社会的変化とグローバル化を背景にして、21世紀の大学は、「知」の再構築を求められています。それを多言語・多文化共生の理念で追求するのが外国語学部であり、経済と道徳は一つであるとする「道経一体」の思想に基づき、社会システムとして追求するのが経済学部です。またグローカルな時代の要請にも対応すべく、両学部とも未来を見据え、ユニークで国際的通用性を備えたプログラムを展開しております。外国語学部の2ヶ国語マスターを目指すクロス留学制度、経済学部の排出権取引を想定したビジネスゲームなどは、そのよきプログラムでしょう。このように知識を真に生かすものは品性であり、道徳性であるという「知徳一体」の教育理念を、大学とさらに高度な専門的知識を習得する大学院の双方で展開するのが本学のカリキュラム・ポリシーであると申し上げてよいでしょう。
またグローバル化との関連で、麗澤教育の特色である国際交流についても触れたいと思います。本学は世界26ヶ国の大学と提携を結び、21年度は153名の学生を海外へ送り出していますが、その一方でキャンパスには、世界の24の国と地域から来日した留学生が共に机を並べて勉学に励んでいます。つまり、麗澤のキャンパスそのものが、多文化理解と共存を実践する場であり、文字通り「小さな地球」です。皆さんは重要な「草の根」の国際交流の一翼を担っているわけですから、どうか国の枠組みを越えて、たくさんの友人を作ってくださるよう希望いたします。
最後に、本学の校歌で「日々に孜々、日に新たなり」と詠われていますように、皆さんが本日から新たな一歩を踏み出し、充実したキャンパスライフを送られますことを祈念いたし、告辞といたします。
平成22年4月2日
麗澤大学学長 中山 理


