【開催報告】ROCK特別講演会 ケビン・メア氏 『日米同盟の進化』
2017.6.9

(開催概要)

 平成29年度麗澤オープンカレッジ特別講演会(後援:千葉県教育委員会、柏・流山・松戸・我孫子・野田各市教育委員会および柏商工会議所)の前期第1回が5月13日(土)に開催となり、ケビン・メア氏(NMVコンサルティング上級顧問、元米国国務省東アジア・太平洋局日本部長)を迎え「日米同盟の進化」と題してご講演をいただきました。当日は215名の方々が会場を埋め、メア氏のタイムリーかつ示唆に富んだ講演を熱心に聴講されました。

 

 講演前の岩澤カレッジ長の挨拶では、今年度の特別講演会の総合テーマである「変革」について、戦後70年を経た今、日本を取り巻く内外の情勢は大きく変わりつつあり、日本国憲法を含め様々なシステムを見直す時期にあると説明がありました。まさに決断する時期に差し掛かっており、「決断できない日本」の著者であるメア氏から多くの学びをいただきたいと、期待を述べられました。

 

 

 

 

 

 

 

(左:ケビン・メア氏)(右:岩澤カレッジ長)

 

(ケビン・メア氏のご講演内容)

 「日米同盟の進化」というテーマを今回取り上げたことについて、昨今のニュースから分かるように、北朝鮮からのミサイル・核兵器の脅威が目前の脅威として迫ってきており、どう効果的に対処できるか、具体的な問題として考えなければならない時であると、まず初めに氏は訴えられました。

 日米同盟の進化を理解するためには、戦後の日米の歩みについての歴史認識が欠かせません。戦後の日米の歴史とは詰まるところ米軍基地の存在です。在日米軍基地の地理的な配置や各役割について、三沢基地、横田基地、岩国基地、佐世保基地、沖縄基地などに触れ、それら基地が北京・平壌から見ると大陸に蓋をするように展開されている様子が、逆さまの日本の図とともに紹介されました。

 アメリカの基本的な外交政策・安全保障政策は前方展開戦略であり、アジアに前方を展開しようとすると日本しかないことを、スライドや具体例を交え、効果的に説明いただきました。

 日本列島は地政学的に大きな意味がある一方で、日米の役割分担については、長い間アメリカの軍隊が槍、日本の自衛隊が盾として機能しています。とりわけ日本は憲法9条があるので専守防衛戦略であることは戦後から変わっておりませんが、昨今の国際情勢の変化から、もし東アジアに紛争があった時に、日本の自衛隊に何を期待するかという解釈は徐々に広がってきています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(写真:在日米軍基地の役割について解説するメア氏)

 

 そもそも、日本に駐留する米軍の役割は「日米安全保障条約」に明記されています。一つは日本の防衛に当たること。二つ目は極東地域全体の平和の維持に寄与することです。特に後者は国民に知られていないことが問題で、在日米軍は日本の防衛のためだけに存在しているわけではないと強調されました。

 では、日米関係は経年でどのように進化しているのでしょうか。メア氏の視点から歴史を紐解くと、まず湾岸戦争が節目だったそうです。この時日本は後方支援として物資輸送や金銭面での援助を行いました。しかしながらこの日本の働きについて、米政府や米軍内で評価されたものの、一般のアメリカ国民にはあまり評価されませんでした。その時の苦い経験から、日本政府は今後どのように憲法9条の枠組み内で国際安全保障に貢献できるか、議論が始まったといいます。

 その後、1992年PKO協力法、1998年周辺事態法と進化し、同年の北朝鮮によるテポドン発射をきっかけに、ミサイル防衛の面で日米協力が強化され、2005年に「日米同盟:未来のための変革と再編」が日米両政府によって合意されました。「変革」については、憲法9条の枠組み内で日米が効果的に脅威に対処できるよう、情報共有・共同訓練・基地の共同使用などの統合性を高めようという目的がなされました。「再編」については、抑止力の向上と米軍基地の負担軽減が目的でした。当時としては米軍再編の部分が大きく報じられましたが、むしろ「変革」のほうが重要であったといいます。

 未来のための変革と再編の合意は、メア氏にとっても一つの契機だったそうです。このときの実務上の経験があったことで、2006年から安全保障部長から沖縄総領事へ転任することになり、2009年まで沖縄で様々な課題に取り組まれました。特に基地問題について、沖縄の政治・社会の根深い面を目の当たりにしたといいます。基地問題を政争の具とすることで国からの補助金を得ることが目的化するなど、沖縄の政治家や財界人は、本心では基地問題を解決したくないのでは、という印象を受けたといいます。

 メア氏は日本社会をコンセンサス社会と分析されます。「コンセンサス社会の良いところは、根回しして相談して決断すれば実行は早くできるところ。ところが、危機的な状況では誰も指導力を発揮しない。もう一つ悪いところは、ごく少数の団体がコンセンサスを妨害できることである」「コンセンサスを妨害し、迷惑料としてお金で解決してしまう伝統がある。だから沖縄の基地問題は解決しにくい」と鋭く指摘をした際、その指摘がメディアに「ゆすり」と誤訳されてしまい、結果的に東日本大震災の直前に退職することになったそうです。

  “決断できない” 日本に数々の苦悩を経験した氏ですが、現在の安倍政権は珍しく決断力を発揮していると評価されました。特定機密保護法や国家安全保障会議、集団的自衛権などは、今の日本を取り巻く中国や北朝鮮の脅威といった世界情勢を対処する上で、極めて重要な決断だったと訴えられました。

 

 

 (中国と北朝鮮の脅威)

 中国、北朝鮮の脅威とは何か。具体的な説明がなされました。中国の狙いは日本を直接攻撃するよりは、威嚇をして東シナ海、南シナ海の覇権を狙っているとのことです。そのため、南シナ海、台湾、琉球諸島を結ぶ第一列島線への接近阻止・領域拒否が基本戦略だといいます。尖閣諸島についても、中国は日本の施政権下ではない状態をつくろうとしており、そのためアメリカとしても2010年の衝突以来、尖閣諸島は日米安全保障の対象であると明確化しました。また、南シナ海の人工島やサイバー攻撃など、今後中国の問題がより大きくなると氏は指摘します。

 北朝鮮については、技術開発のスピードを過小評価してはいけないと警告されました。今後、1年~1年半程でアメリカに届く弾道ミサイルもできると氏は分析しており、そうなったときに、迎撃ミサイルなど防衛能力だけでは、数の面でミサイルを防ぎきれず、敵地反撃能力が次の問題になると指摘します。反撃能力は、第二次世界大戦のように日本が軍国化して脅威となるのではと懸念する人がいますが、メア氏はその心配はないと断言します。その理由は、日本政府は日米安全保障の枠組み内で運用すると説明していることを、氏は信頼しているからだと述べました。

 反撃能力は国民の生命を守ることに直結する問題で、何年もかけて議論する余地はない、と強く強調されるお姿がとても印象的でした。しかし現実は、軍事的な解決は良いシナリオであるとはいえず、北朝鮮や裏で支える中国への経済・金融制裁も考慮に入れる必要があるといいます。

 

 

(写真:中国の脅威について解説するメア氏)

 

 メア氏の講演は、ところどころにユーモアを交えつつ、緊迫感ある話題を的確な分析を論じる氏の姿に会場は引き込まれ、質疑応答でも、韓国の新大統領と米軍の役割について等、ホットな質問にも丁寧に応えられ、共に東アジアの平和について取り組んで行きたいという氏の思いが伝わるようでした。和やかで親しみやすい語り口調の中にも、真剣さを失わない話の展開に、時間を忘れて聞き入ったという方も多かったのではと感じました。

 

次回の麗澤オープンカレッジ特別講演会は6/10(土)10:00~太田章氏(五輪レスリング2大会連続銀メダリスト、早稲田大スポーツ科学部教授)のご講演となります。是非、ご期待ください。