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2012/12/19

バーミンガム大学の「品性・価値ジュビリー・センター」での発表

イギリス・バーミンガム大学の「品性・価値ジュビリー・センター」(The Jubilee Centre for Character and Values)が創立記念に開催した国際会議にスピーカーとして招待を受け、国際交流センター長の堀内教授とともに参加した。

統一テーマは「品性と公共政策」で、小生の演題は「グローバル化と高等教育における道徳教育の再構築」である。発表当日の12月14日は、あいにく冷たい雨が降り、肌寒い一日だったが、朝の9時からのレジストレーションに始まり、夜の記念晩餐会が終了する9時半過ぎまで、中身の濃い、充実した一日だった。

James Arthur教授(Director of The Jubilee Centre for Character and Values)とともに

また当日、今年出版した『グローバル時代の幸福と社会的責任―日本のモラル、アメリカのモラル』(麗澤大学出版会)に推薦文を寄せてくださったバーコビッツ教授、ボストン大学「品性・社会的責任センター」のライアン教授やボーリン教授とも再会し、旧交を温めためると同時に、来年度の新しいプロジェクトに関しても話し合った。

今回の大会を機に、バーミンガム大学の同センターと本学の道徳科学教育センターとはパートナーシップを結び、品性教育と道徳・倫理研究の分野でコラボレーションを深めて行くことを確認できたことは大きな収穫だった。小生の英語での発表原稿がセンターのホームページに掲載されているので、参考にしていただきたい。(http://www.jubileecentre.ac.uk/425/papers/conference-papers/

以下は堀内教授の同行記録です。

 

バーミンガム大学「品性・価値ジュビリー・センター」創設記念国際大会出席報告書                                                                         国際交流センター長  堀内 一史

 

品性・価値に中心を据えた道徳教育に携わる主に英・米の専門家が一堂に会し、バーミンガム大学「品性・価値ジュビリー・センター」創設記念国際大会は、2012年12月14日から15日の2日間にわたって開催された。統一テーマは「品性と公共政策」。筆者は同センターからの招待を受け発表のために参加された中山学長に帯同した。大会についてごく簡単に報告したい。大会の構成は以下のとおりである。


バーミンガム大学

≪初日≫
9時30分から17時30分。記念晩餐会。 
30分の基調講演が3名の専門家により行われ各講演のあと3つのセッションが行われた。18時30分から21時までレセプションが開かれた。中山学長の発表のあったセッションに参加したが、発表後、参加者から好評を博すとともに多くの質問がなされ、充実した意見交換ができた。

 ≪二日目≫
午前10時30分から、4名の講師がそれぞれ1時間の基調講演(質疑応答を含む)を行った。大会は15時30分に閉幕した。


【所見】
今回の国際大会に参加して印象に残った3点について所見を述べたい。

第一に、最大の特徴は何と言っても、切り口が多様な学際的アプローチであろう。教育学、心理学(特に発達心理学)、哲学、神学、社会学などの領域を専門とする研究者や初等・中等・高等教育に携わる教育者がそれぞれの専門領域から道徳教育について知見を披露し意見を闘わせた。こうした多様性ゆえに議論は収斂を見ることなく終わったというのが、率直な印象である。
今後、更なる専門部会が開催されそれぞれの部門で成果を挙げることを期待したい。

第二に、今回の大会で多元主義によって道徳教育が直面している困難な状況が浮き彫りとなった点である。
米国の宗教と政治との関わりを研究する筆者の関心からすると、米国の社会学者ジェイムズ・ハンター教授の講演が印象に強く残った。
同教授はバージニア大学で教鞭を執る傍らホワイトハウスなどの政府機関の顧問や諮問委員を務める著名な研究者である。1992年に、Culture Wars: The Struggle to Control the Family, Art, Education, Law, and Politics in Americaを著し、米社会がリベラル派と保守派にイデオロギー的に分裂し、米国人の生活のあらゆる側面に波及効果をもたらしたとする「文化戦争」論争を巻き起こしたことで知られる。
ハンター教授の講演、「品性教育と多元主義という難問」は、文化戦争の延長線上にある米国の道徳教育に関する悲観論だった。講演の中で教授は、多元主義は個人の生活、政治、文化、人種、教育、宗教、経済などあらゆる社会制度の領域を分断し、「コンセンサス」が欠落した形で道徳教育を困難にしていると訴え、道徳教育の失敗とまで断じた。またこの多元主義をめぐる議論は、たとえば、バーミンガム大学のクリスチャン・クリスチャンソン教授の基調講演にも共通する。
「価値階層におけるギャップ?道徳教育の軌跡、挑戦、展望」と題した講演で同教授は、道徳教育の基盤となる価値多元主義による「異質性の海」に、進むべき方向を見失わないための道徳教育におけるGPSの必要性を訴えた。

では、こうした価値多元主義の問題を克服するにはどうすればよいのだろうか。多様性を克服する一つの道として、最後に、≪比較≫への視座の重要性を指摘しておきたい。
排他的に一つの価値にこだわる立場を固執すると議論は平行線を辿り、コンセンサスは生まれない。≪比較≫という手続きを通じて、こうした一つの価値に拘泥する態度は変化し、他者の価値に対する尊敬が生じ、寛容性が増大する。
複数の特殊主義の≪比較≫という自己の価値に謙虚な態度を保ちつつ、地道な比較の積み重ねの先にこそ、普遍主義が見えてくるはずである。しかし、その道程において常に自らの立場の限界への反省が必要となるのは言をまたない。

クリスマスムード漂う、バーミンガムの街の様子