工学部
2026.10.29

「もっとゲームがしたい!」から始まった研究人生。ごみ収集車×AIで、社会の「困った」を解決する

「もっとゲームがしたい!」から始まった研究人生。ごみ収集車×AIで、社会の「困った」を解決する

2024年に新設された麗澤大学工学部。その立ち上げに準備段階から携わり、現在は「情報リテラシー」や「機械学習基礎」などの授業を担当しているのが陳寅准教授です。陳先生は、ごみ収集車にAIやIoT技術を活用し、ごみ袋の自動計数などを通じて、家庭ごみの排出、運搬、施策をデジタル化する「排出量廃棄物管理DX」の研究で自治体と連携し、社会課題の解決に取り組んでいます。研究の原点は、幼少期に夢中になったゲームとパソコンとの出会い。「好き」から始まった研究の歩みや、現場の「困った」を解決する技術、そして学生の興味を実践的な学びにつなげる授業やゼミナールでの取り組みについて伺いました。

陳 寅(Chen, Yin)
工学部 准教授
中国・西安市の大学で計算機科学を専攻し、来日。公立はこだて未来大学大学院で博士後期課程を修了。慶應義塾大学を経て、2022年に麗澤大学に着任し工学部立ち上げに携わる。専門は無線ネットワーク、センシング技術、知能IoT。AIを用いた「ごみ排出量センシング」で自治体と連携し社会実装に取り組む。「令和7年度リサイクル技術開発本多賞」を共同受賞。2026年度麗澤大学「学長賞」を受賞。趣味はおいしいものを食べること。
目次

    ゲームへの夢中が、研究の原点に。現場の声から見つけた研究テーマ

    • 私が計算機科学やネットワークに興味を持ったきっかけは、ずばり「ゲーム」でした。数学教員だった父が自作したパソコンで、ゲームばかりしていたため、パスワードをかけられてしまったのです。どうしても遊びたくて「どう解除するか」と試行錯誤するうちに、自然と計算機の知識が身についていきました。大学時代も友人のパソコンを組み立てたり、皆でゲームをするために自力でLANケーブルを引いてネットワークを構築したりと、生活の中から実践的な技術を学びました。

    北海道の公立はこだて未来大学へ留学した後は、数式を使った理論研究に没頭しました。その後移った慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では、多様な分野の研究室に囲まれながら「社会で実際に役立つ技術をつくる」実践的な研究へと足を踏み入れることになります。

    このSFC時代にスタートしたのが、今も続く「ごみ収集車」を活用した研究です。最初は街のPM2.5を測定する研究から始まりましたが、藤沢市のごみ収集車約60台の屋根にセンサーをつけてデータを集める中で、現場の担当者から「各家庭から出るごみの量がわかれば非常に助かる」という切実な声を聞きました。自治体のごみ減量化運動の効果を測りたいが、データが存在しなかったのです。「現場で本当に困っていることを解決したい」と、研究テーマをごみ排出量の可視化へと大きくシフトさせました。

    ごみ収集車×AIで見えてきた、暮らしの課題

    • 私たちが開発したのは、ごみ収集車の後部に取り付けされたカメラの映像を活用し、AIで投入されたごみ袋の数を自動計測するシステムです。手づくりの試作機を初めて収集車に取り付けた際、夏の暑さでケーブルが溶けて「煙が出た!」と現場から電話がかかってくるような大失敗もありました。しかし、その失敗から学び、安全装置を取り付けるなど改良を重ね、現在は藤沢市や鎌倉市などで約40台の収集車が日々の収集と同時にデータを集めています。

    データが集まると、それまで見えなかったリアルな課題が浮かび上がってきました。集積所にごみを出す方式から戸別収集に切り替えた地域では、ごみ袋の数が増加しました。これは、高齢者など、ごみを集積所まで運ぶことに負担を感じていた方々が、小分けにして出せるようになった可能性を示しています。

    一方で、戸別収集にはコストがかかるという課題もあります。データを集めることで、住民の利便性と収集にかかる負担の両面から、収集方法を検討できるようになったのです。情報技術で家庭ごみを可視化するこのアプローチは高く評価され、「リサイクル技術開発本多賞」などをいただくことができました¹。

    私たちが目指す最終ゴールは、技術を社会の中で実際に使われる形にする「社会実装」です。自治体の限られた予算の中でいかに持続可能なビジネスモデルとして成立させるかという壁にも直面していますが、客観的なデータは「エビデンスに基づく政策立案」を強力に後押しします。人口減少や人手不足が進む中で、持続可能な公共サービスを未来へつなぐため、全国の自治体への展開を目指しています。

    ¹ 細粒度ごみ排出量データを活用した地域ごみ管理・収集・減量の デジタル推進基盤「ごみゼロ湘南」(一般社団法人産業環境管理協会)

    「生きたデータ」で学び、「好き」を形にする

    2022年、私は「学んだ技術を使って社会課題を解決する力を育てる」という新しい理念に共感し、麗澤大学工学部の立ち上げメンバーとして着任しました。

    授業で何より大切にしているのは、知識の暗記でなく実際に手を動かす実習と、実社会とつながった「生きたデータ」に触れることです。データ分析の授業では、私がごみ収集車の研究で集めた現場のリアルなデータを使用します。教科書のデータとは違い、自分たちの暮らしの身近にある背景がわかるデータだからこそ、学生たちも技術が現実世界でどう役立つのかを実感をもって理解できます。

    • ゼミナールでは、学生一人ひとりの「好き」や興味をベースにした活動を展開しています。ゲームが大好きな学生が集まった「ゲームラボ」は開発に没頭し、見事に東京ゲームショウへの出展を果たしました。また、災害時にも業務を継続できる独自クラウドサービスを構築する「レジラボ」や、高齢者のごみ出しを助けるロボット・スマートごみ箱の開発に取り組む「ゴミゼロ」など、学生たちは自らの課題を見つけ、仲間と協力しながら社会課題の解決に挑戦しています。こうした活動を通じて、知識や技術を実社会で生かす力を育む、実践的な学びを実現しています。

    「どんな人間になりたいか」を描き、未来への一歩を踏み出そう

    • 私が授業やゼミナールを通じて学生たち、そしてこれから大学進学を目指す高校生の皆さんに伝えたいのは、知識をひたすら覚えることよりも「自分はどんな人間になりたいのか」「どんな問題を解決して社会の力になりたいのか」という目的意識を持つことの大切さです。

      現代は情報技術が飛躍的に発展し、必要な知識にはいつでも手軽にアクセスできる時代になりました。だからこそ、ただ知識を詰め込むのではなく、「自分がやりたいこと」や「解決したい課題」を明確に描くことが人生の道しるべになります。

    技術を使って人の役に立ちたい。社会の「困った」を解決したい。そんな思いを持つ高校生の皆さん、麗澤大学工学部で「生きたデータ」に触れ、実践的に学びながら、自分の興味を社会に役立つ技術へとつなげる一歩を、一緒に踏み出してみませんか。

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