大学の授業
2016.08.09|最終更新日:2022.03.31|

【大学の授業シリーズ】多文化主義(multiculturalism)の理論と実践について学ぶ

【大学の授業シリーズ】多文化主義(multiculturalism)の理論と実践について学ぶ
内尾 太一
国際学部 国際学科 准教授
「人間と災害」をテーマに研究を続け、自然災害の被災地で精力的にフィールドワークを行う。調査地域は日本とチリ。それぞれの海岸部の町や村で津波を経験した人々の声に耳を傾け続けている。災害時における国際協力やNPO・NGO、ボランティアについても文化人類学の観点から研究。
目次

    グローバル化に伴う多文化との共存

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    先進国として名を連ねる日本だが、国際社会の一員として様々な文化を理解しているかと尋ねれば、その答えはNOであろう。単一民族として歴史を重ねてきた我が国では、他国に比べても数多くの文化や異なる人種が交わることはまだ少ない。しかし、これから更に国際化していく社会を知るためには多文化主義の生い立ちを知ることは必至である。今回は内尾太一先生による授業「多文化共生B」に参加させていただき、その内容と学生たちの姿をレポートする。 多文化共生Bという授業は1~2年次の1学期に行われ、計15回のカリキュラムが用意されている。その題目は「多文化主義の理論と実践について学ぶ」であり、グローバル化とそれに伴って活発化する人々の国際移動の時代と、文化的背景の異なる他者と共存するための方法を探究することを目的とする。

    一方通行ではないアクティブな授業スタイルに学生たちの集中力が高まる

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    今回は、授業計画の第3回目となり「多文化主義の歴史的起源と現在の枠組み」について行われた。教室に集まった学生たちは、基本的にはテキストに沿って授業を受けることになるのだが、それだけではなくアクティブに意見交換しながら進められ、その内容は非常に理解しやすいものであった。人と違うこと「差異」は何よりも具体的な現実であり、過渡的な状況であることをテ-マに授業が始まった。 今回の授業は外国語学部にある6専攻から各々が受講している。

    差異を身近な麗澤大学を例にあげて説明することで学生には非常に判りやすく伝わっているようだ。例えば、学部、学科、専攻とマスを小さくすることで差異は感じられにくくなるが、当事者にとっては大きな差異であること、差異は状況によって変化をして行く過渡的なものであることが説明された。一部をご紹介すると、英語2専攻(英語コミュニケーション専攻と英語・リベラルアーツ専攻)以外の学生にとってみるとその違いはあまりよくわからず「英語を学ぶ2つの専攻」として見えていることがわかった。

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    一方で当事者の学生にとって2つの専攻の違いは大きく「ただ英語を学ぶからといって同じ専攻というわけではない」との主張があった。自分自身が関わることを例に挙げることで自分事として"差異"を理解でき、学生同士に話し合う時間を与えることで、より緻密な答えを求めていた。学生自身も自分達にとっては大きな違いが、他専攻の学生にはたいした違いに感じないことに驚きを隠せないようで、授業は大きく盛り上がりをみせた。

    ただ先生の話を聞き、ノートをとるだけでなく、学生が授業に参加し、生き生きしながら意見を言い合う姿がとても印象的だった。その後、映像によって多文化主義の歴史的起源や現在の枠組み、アメリカに於ける奴隷制 度と人種隔離政策、宗教移民、押し寄せる移民と人口構成の変動など、国際社会を構成してきたネガティブな部分がクローズアップされ、学生たちは集中して講義に耳を傾けていた。

    「人種のるつぼ」から「サラダボウル」への変化

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    今、世界に共通している問題は、人種が溶け合う「るつぼ(メルティングポット)」ではなく、人種が各自のアイデンティティを持ち、理解し、調和しながら交わる「サラダボウル」へと変化を遂げている。多文化を認めることは多文化主義の始まりでもあり、差異も大きな過渡期を迎えていることを学んだ。避けては通れない葛藤ではあるものの、グローバル化に伴って活発化する人々の国際移動は日本が直面している問題なのだ。これからの日本社会に暮らすマイノリティ集団との共存・共生は今後の大きな課題になることは間違いない。

    今回のレポートは90分の授業に参加したに過ぎないが、日本が直面する問題、国際社会を担う一人として対峙すべき姿勢など、多くのものを学ぶことができた。世界へと目を向けることの大切さを学べる麗澤大学ならではの講義内容である。教室は将来の日本を支える"学生たちの強い意思"で満ち溢れ、学ぶことの楽しさ、知識を得ることの喜びを与えてくれる。「自分達のことに置き換えて考えてみる」という発想の転換により、学生が世界へ目を向ける際に他人事としてではなく、自分たちのこととして考えられる第一歩となっているように感じられた。

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