予備校でのアルバイトを通して生徒の成長を見守る喜びを知り、英語教育の道へ進んだ西澤先生。ハワイ大学マノア校の大学院では、テストが社会に与える影響を考える「言語評価」と、人の心と脳の働きを探る「心理言語学」を専門に研究してきました。単に知識を教えるだけでなく、学生一人ひとりが「なぜ?」を問い、答えを自ら探求する力を育むことを大切にしています。前編では、英語教育の道を志すようになった原点やハワイでの学び、そして現在の研究テーマである心理言語学と言語評価について伺いました。
予備校でのアルバイトが教えてくれた天職
私はもともと大学へ進学するつもりはありませんでした。父が消防士で、その姿に憧れ、自分も早く同じ道に進みたいと考えていたからです。しかし、親に大学進学を勧められ、「では何を学ぼうか」と考えた時、ふと浮かんだのが中学校の英語の先生の姿でした。毎日楽しそうに授業をされ、その姿に惹かれたことが、教員免許取得を目指すきっかけになりました。
その憧れを確信に変えてくれたのが、大学時代に始めた塾講師のアルバイトです。まだ勉強の面白さを見つけられずにいる生徒たちも多くいましたが、「人と関わること」が好きな私にとって、彼らと毎日顔を合わせることは純粋な楽しみでした。

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最初は点数が上がったり、問題が解けるようになったりする"目に見える成果"が嬉しかったものです。しかし、本当の喜びに気づいたのは中学3年生の受験期です。受験に向き合う中で、生徒たちが将来を真剣に考え、周りへの感謝が芽生え、一人の人間として大きく成長していく。その姿を間近で見られることが、何よりの喜びでした。人の成長に深く関わり、それを支えることこそ自分のやりたいことなのだと、この経験を通して確信しました。
「完璧じゃなくていい」――ハワイでの7年間が、私を自由にした
英語を教えることを本格的に志す中で、私は「今の英語力で、本当に自信をもって教壇に立てるだろうか」と自問自答するようになりました。もっと専門的な知識を身につけたいという思いから、海外の大学院に進むことを決めました。日本の大学のカリキュラムでは、長期留学をすると卒業が遅れてしまうため、卒業後にじっくり専門分野を極めようと考えたのです。
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指導教官に相談したところ、「それならハワイ大学がいい」と即答されました。ハワイと聞くと観光のイメージが強いかもしれませんが、ハワイ大学マノア校の「第二言語研究科」は、英語教育を志す者にとって世界的に有名な場所です。80年代、90年代から日本の著名な研究者が学びに訪れ、「英語教育を専門的に学ぶならハワイ大学」というのはひとつの定説でした。
大学院での生活は想像以上に過酷で、修士課程の最初の1年は、昼夜問わず研究に没頭していました。しかし、博士課程に進み少し余裕が生まれると、サーフィンを始め、研究と趣味を両立したハワイ生活を楽しむことができました。

ハワイは、先住民の方などに加え、アジア系、ブラジル、ヨーロッパなど、世界中の多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる稀有な土地です。大学院にも様々な国から留学生が集まります。最初に仲良くなった中国人の友人たちと話す中で気づいたのは、「完璧な英語でなくても想いは伝わる」ということでした。ネイティブのように話せなくても、伝えようとする気持ちと理解しようとする姿勢があれば、言葉の壁は乗り越えられます。
それまでは「完璧に話さなければ」というプレッシャーがありましたが、その重荷から解放された瞬間でした。大切なのは文法や発音の正確さだけでなく、その背景にある文化やコミュニケーションの本質を理解すること。この経験は、私にとっての「本当に使える英語」の原点であり、今の研究や教育の土台になっています。
「正義感」と「好奇心」。二つの探求心が導く研究の道
ハワイでの学びは、私に二つの大きな探求テーマを与えてくれました。「心理言語学」と「言語評価」です。
「心理言語学」への原動力は、純粋な知的好奇心です。人が言葉を学び使う時、頭や心の中で何が起きているのかを探る学問です。「子どもはなぜ親が教えていない言葉まで覚えるのか」「外国語を学ぶ時、なぜ多くの人が同じようなところでつまずくのか」。こうした素朴な「なぜ?」を、学習や記憶といった脳の働きから科学的に解き明かしていく――それは壮大な謎解きにも似ています。まだ誰も知らない事実を、自分が世界で初めて明らかにしているかもしれない。その瞬間の高揚感こそが、研究を続ける理由です。

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一方の「言語評価」は、どちらかというと「正義感」に近い動機が原点にあります。英検やTOEICなどのテストは、進学や就職など人生の岐路に大きく影響します。だからこそ、「本当に適切なテストなのか」を多角的に検証し続ける必要があります。たとえば、「そのテストは本当に『測りたい力』を測っているのか」「テストの結果は社会で正しく使用されているか」「そのテストは社会にどのような影響を与えているのか」といった問いを立て続けることが、言語評価の中心です。様々な視点でテストを疑い、その社会的影響まで考えるのがこの学問の面白さであり、責任だと感じています。
一見すると異なる二つの分野ですが、私の中では密接につながっています。テストの「適切さ」を判断するには、「人がどう言語を学ぶか」を解明する心理言語学の知見が役に立ちます。研究とは、教育の未来を、そして人の人生をより良くするための探求だと考えています。



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