学生の活躍・課外活動
2025.08.26

【前編】浪江町に新たな風を! 学生たちのまちづくり挑戦

【前編】浪江町に新たな風を! 学生たちのまちづくり挑戦

東日本大震災から10年以上が経過した福島県。復興は着実に進んでいるものの、人口流出や生活インフラの整備など、まだ多くの問題が残されています。そのような地域の再建に、若い力で貢献しようと立ち上がった麗澤大学の学生たち。2024年の「大学生観光まちづくりコンテスト福島復興ステージ」に挑戦した彼らは、福島県浪江町を訪れ、住民の声に耳を傾け、地域の課題と可能性を自分たちの目で確かめました。前編では大学生観光まちづくりコンテストへ参加した3名に、参加の背景や提案したプランについて伺いました。
※取材は2024年度に実施。

草野 愛梨
外国語学部 英語コミュニケーション専攻 2022年入学
福島県出身。高校時代はアメリカ留学を目指していたが、コロナ禍でキャンセルとなったため、大学在学中に再挑戦したいと考えている。趣味は下町巡りで、葛飾区の古き良き街並みが好き。
※取材時、3年次生
過足 穂ノ香
外国語学部 英語・リベラルアーツ専攻 2023年入学
高校時代は写真部に所属。大学では授業に積極的に取り組み、前列中央の席で積極的に質疑応答を行う姿が印象的。ホスピタリティに関する授業をきっかけに地域活動に興味を持つ。
※取材時、2年次生
阿部 至恩
工学部 情報システム工学専攻 2024年入学
高校時代は軽音楽部に所属し、楽器演奏に熱中しながら生徒会長として学校広報にも力を入れた。特にSNSやYouTubeを活用した広報活動に注力。商業高校で学んだ情報科目への興味から、新設された麗澤大学工学部への進学を決意。
※取材時、1年次生
目次

    地域の魅力を創造する「大学生観光まちづくりコンテスト」とは?

    ―まずコンテストの概要・取り組みの流れを教えてください。

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    • 草野さん:大学生観光まちづくりコンテストは、2011年から開催されている全国規模のプロジェクトです。学生たちが実際に地域に足を運び、観光振興やまちづくりに関する企画や提案を行います。私たちが参加した2024年の「福島復興ステージ」は、震災と原発事故から13年を経た福島県浪江町の復興を目的としていました。このコンテストの特徴は、実地でのフィールドワークを重視している点です。現地の方々の声を直接聞き、その地域の課題や可能性を自分たちの目で確かめることが求められます。

    阿部さん:私たちの活動は2024年5月後半から始まりました。まず大学内で何度もブレインストーミングを行い、福島の課題について考えを出し合いました。続いて、6月に浪江町で2回のフィールドワークを実施。地域の方々へのインタビューや現地の様子を観察し、具体的な課題を見つけていきました。その後、約2週間かけて週2回のミーティングでプランを練り上げ、8月中旬に最終提案書を提出しました。

    ―参加のきっかけはどのようなものでしたか?

    草野さん:私は福島県出身で、震災により避難生活を経験しました。当時は福島から茨城に移り住みましたが、そうした経緯もあって地域の魅力や課題を伝える架け橋になりたいという思いがありました。

    阿部さん:私は初年次セミナーで司会を担当していたところ、このプロジェクトをサポートしている大澤義明先生に声をかけていただき、「何事も挑戦」という気持ちで参加を決めました。実は高校時代に柴又など地元葛飾区の文化や歴史について学んだ経験があり、「地域の魅力を発信する」ということには興味を持っていました。

    テレビやネットだけではわからない、現場で見えた復興の現実

    ―最初はどのような課題に焦点を当てましたか?

    • 阿部さん:最初のブレインストーミングではたくさんの意見が出ました。獣害対策や未利用資源の活用、観光地としての可能性など、さまざまな視点から課題を見つけようとしました。しかし、議論を重ねるうちに、私たちが焦点を当てるべきなのは「生活のしづらさ」という基本的な問題だということになりました。具体的には、スーパーマーケットが遠い、コンビニエンスストアの営業時間が限られている、バスの時間が夕方までしかないといった日常生活に関わる課題です。震災から13年経った今でも、こうした基本的なインフラが十分に整っていないという現実がありました。住民の生活基盤が整わなければ、新たな住民が増えることも難しいと考えたのです。

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    ―フィールドワークではどのような発見がありましたか?

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    • 過足さん:現地に行って初めてわかることがたくさんありました。建物が取り壊されて塀だけが残っていたり「放射線量が高い、入らないで」という警告看板があったりと、震災の爪痕を目の当たりにし、胸が締め付けられるような思いでした。一方で、自然環境は美しく、何より人が温かかったです。住民の方々へのインタビューを通して、皆さんの地元への強い愛情や想いを感じました。

      特に印象に残っているのは、ある警備員の方のお話です。その方のご友人が、毎週末になると他県から足を運び、復興の手伝いをしていると伺い、人と人とのつながりの深さに感動しました。

    草野さん:特に印象に残ったのは、旅館を経営していた男性のお話です。震災後、旅館は閉鎖し、家族は町を離れましたが、この方だけは強い地元愛から一人で戻ってきたそうです。私も震災で父親だけが地元に残り、母親と私は別の場所で生活することになったため、家族との縁が切れてしまったと語る男性の姿に、私自身の体験と重なるものを感じました。インタビューを通して、震災が物理的な被害に加えて、人間関係や心の問題にも大きな影響を与えていることを痛感しました。

    イメージを変える、消費を生む、未来をつくる

    ―最終的にどのような課題と対策を設定しましたか?

    草野さん:フィールドワークを通じて見えてきた課題は、主に二つありました。ひとつは日常生活に関わるインフラの不足、もうひとつは地域の将来性について具体的なビジョンが見えにくいという点です。特に、生活インフラが整わないと人口増加が難しく、地域の発展につながらないという悪循環に陥っていることがわかりました。一方で、私たちが現地で発見した希望の光もありました。浪江町の駅近くには、大規模な研究所が建設され、今後国内外から多くの研究者が訪れる予定があります。また、広大な土地と整備された道路という資源も活用できると考えました。

    阿部さん:そこで私たちが提案したのは「外国人研究者向け免許センター構想」です。浪江町に新たな研究所ができることで、多くの外国人研究者が訪れるようになります。しかし、地方では車がないと生活が困難です。そこで、これから増える外国人研究者が日本で運転できるようにするための免許取得・切替センターを設立するというアイデアを提案しました。浪江町には未利用の土地が多くあり、道路も比較的整備されています。これらの資源を活用して、外国人が日本の運転免許を取得したり、母国の免許から切り替えたりするための施設を造るというプランです。研究所と連携すれば、継続的な需要も見込めます。

    • 過足さん:このプランのポイントは、地域経済の活性化につながるという点です。外国人研究者が浪江町に滞在する時間が増えれば、自然と地元での消費も増えます。それが地域の商店やサービス業の発展につながり、最終的には生活インフラの整備を促進することになります。また、国際的な研究所と免許センターの存在が、浪江町に新たなイメージをもたらすこともねらいのひとつです。「震災被害を受けた町」というイメージから、「国際的な研究と交流の場」というポジティブなイメージへの転換を図りたいと考えました。

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    阿部さん:結果として、残念ながら本選出場には至りませんでしたが、私たちにとっては大きな学びの機会となりました。特に、課題を見つけるだけでなく、その地域の特性や資源を活かした具体的な解決策を考えるプロセスは、とても貴重な経験でした。また、プランの内容よりも、それを考え出すまでの過程で得た気づきや学びの方が、私たちにとってはより大きな価値があったと感じています。

    ―後編ではコンテストに参加して得た学びや、麗澤大学の魅力などついてお伺いします。

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