イスタンブールからベルリンまで、学生たちだけでバックパックを背負い陸路を旅する――それが、外国語学部ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻の「ヨーロッパ横断研修」。従来の研修プログラムとは一線を画す、学生主体の冒険的な学びのプログラムです。この研修に参加した1年次生は、言葉の通じない国々で何を感じ、何を学んだのでしょうか。前編では、プログラムの全容と準備の過程、旅の始まりで直面した困難、現地でのインタビュー体験について伺いました。
※取材時、1年次生
※取材時、1年次生
※取材時、1年次生
※取材時、1年次生
学びの主体性と、仲間との絆を育む研修プログラム
―「ヨーロッパ横断研修」はどのような研修なのでしょうか。
濱野先生:この研修の最大の特徴は、学生たちが主体的にプログラムの内容を考えることです。私たちから提示するのは「イスタンブールからベルリンまで約2週間をかけて、陸路で横断してほしい」ということだけ。移動手段のメインは長距離バスとし、飛行機の使用は禁止。総移動距離は約4,000キロに及びます。
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学生たちが決めるのは、グループ、ルート、そして現地でのフィールドワークテーマです。これらすべてを前期の「Workshop Deutsch」という授業のなかで準備します。安心・安全も重要なので、陸路での横断とチェックポイントの通過をルールとして、今回は東欧ルートとバルカン半島ルートの2つから選択する形にしました。有名な観光都市ではなく、ヨーロッパのルーツや多様性に触れられる地域を重視したかったからです。普段はなかなか行く機会のない東欧・バルカン半島諸国をメインルートに設定し、1年次生30名中20名が参加しました。
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―なぜ、1年次にこのような研修を行うのでしょうか。
濱野先生:大学に入ったばかりの頃は、「自分は何を学びたいのか」「何をしていいかわからない」という不安と期待の間にいる人が多いと思います。同時に、「人と違う経験をしたいけれど、外れるのが怖い」という矛盾した気持ちも抱えがちです。
だからこそ、初年次に行うこの研修は意味があるのです。自分で選び、失敗し、修正し、仲間と議論しながら前に進む――そのプロセスが、学びの主体性を目覚めさせます。研修を終える頃には、語学学習の目的やテーマがより明確になり、その後の学びが「自分事」として結び直されていきます。情報収集や資料づくり、グループワークの進め方など、初年次教育として身につく力も少なくありません。
同じ目的、想いで旅する上で重要なグループづくり
―準備の段階で、特に大変だったことは何ですか。
出口さん:グループ決めが一番大変でした。4月に入学してすぐに準備が始まるので、まだあまり話したことのない人たちとグループを組むのです。2週間一緒に過ごすので、同じ目的を持って旅をして、最後までやり切れるかが重要でした。たくさん話し合いをして、時には妥協もしながら、同じ熱量で旅をできるグループを組むことができました。
井上さん:私は、グループを組んでからの話し合いがなかなか進まず、ルート決めに苦戦しました。濱野先生に相談し、「もっと話し合っていこう」と背中を押してもらったことで、改めてメンバーと向き合う気持ちが整いました。自分の意見を言う子が少なかったのですが、「それぞれ行ってみたい場所や理由を出し合おう」と声をかけたことで意見を言ってくれるようになり、最終的には全員が納得できるルートを組めたので良かったです。
旅の始まりから、トラブル・予想外の連発
―東欧・バルカン半島それぞれのルートや、旅の出だしはいかがでしたか。
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井上さん:私と矢野さんは、東欧ルートを選択しました。私のグループは、イスタンブールからブルガリア→セルビア→ハンガリー→スロバキア→ポーランドを経てベルリンへ向かいましたが、出だしから大冒険でした。降りる予定だった停留所をバスが通り過ぎてしまったのです。運転手に英語が通じず、焦りながらもなんとか状況を伝え、給油のタイミングでガソリンスタンドに降ろしてもらいました。そこから目的地まで1時間半。早朝5時に知らない街を歩くことになり、先行きが一気に不安になりました。
出口さん:私と中村さんは、バルカン半島ルートを選択しました。私のグループは、イスタンブールからギリシャ→アルバニア→モンテネグロ→セルビア→クロアチア→ハンガリーを経てベルリンへ向かいました。大きなトラブルはありませんでしたが、アルバニアでは想定が通用しない場面もありました。バスはクレジットカードで乗れると思っていたのに、現地通貨しか使えず、しかも英語が通じない。困っていたら、英語を話せる若い男性が声をかけてくれて、お金まで立て替えてくれたのです。人の温かさを感じた出来事でした。
深夜バスが予約時間に来なかったのも印象的です。1時間待っても来ず、窓口に聞くと「来るから」と言われるのみ。結局2時間半待ちました。日本のようにピッタリの時間には来ないのだと学びました。
プラカードを持って街中でインタビュー! 感じた文化の違い
―現地では、各グループでテーマを決め、道行く人へのインタビューも行ったそうですね。
濱野先生:インタビューは、まず「テーマと向き合うこと」から始まりました。そもそも行ったこともない国のことを、どうやって調べるのか。けれど、問いを立てて旅をすると、現地の人と関わるきっかけができ、気づきが生まれ、行動力も変わります。成果よりもプロセスが大事だからこそ、「何を聞くか」にはこだわり、学生たちと何度も話し合いました。
矢野さん:私たちは各国の人に、「あなたはどんな言語を話せますか?」と聞きました。母語に加えて英語、隣の国の言語など、複数言語を挙げる方が多かったです。ただ、"話せる"の基準が意外と低くて、「単語がわかる」「少し言える」くらいでも「話せる」と言うのです。そこは日本と違う価値観だなと思いました。
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中村さん:私たちは学生を対象に「放課後、どこに行って何をするのか」をインタビューしました。国が違っても、放課後の過ごし方として「勉強」を挙げる学生が多くて驚きました。私だったら遊びやバイトの話をしそうなので、同世代でも価値観がこんなに違うんだと実感しました。
井上さん:私たちは「1日に何杯のチャイを飲んでいますか?」というテーマで、現地の言葉でプラカードをつくりました。イスタンブールでは、プラカードを見て向こうから声をかけてくれる方もいて、人の温かさを感じました。
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出口さん:私たちは「朝食、昼食、夕食で何が一番重要ですか?」というテーマで各国を回りました。テッサロニキで散歩していた地元の方などに聞くと、皆さんフレンドリーで質問しやすかったです。結果は「昼」を重視する方が多く、生活のリズムの違いが見えてきました。
現地の言葉での「ありがとう」が心をつなぐ
―英語が通じないことも多かったようですが、どのようにコミュニケーションを取ったのですか。
矢野さん:私のグループは、翻訳機をあまり使わず、簡単な単語やジェスチャー、写真を組み合わせて伝えることを意識しました。ドイツ語の授業では、英語や日本語を使わず、知っているドイツ語の単語やフレーズだけで会話を成り立たせる訓練をしています。その学びを活かして実践してみると、意外と通じて驚きました。また、「ありがとう」「こんにちは」だけでも現地の言葉で挨拶すると、皆さん嬉しそうに対応してくれたのが印象的でした。
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中村さん:伝えようとする気持ちは大切だと思います。深夜バスで隣に座った外国人男性と話す機会があったのですが、お互い片言の英語とジェスチャーで理解できているようでしていない会話を続けていました。すると「どこから来たの?」と英語で聞いてくれて、日本から来たことを伝えたら「日本大好きなんだよ! 前に行ったことがあるけど、困っていたら皆やさしく助けてくれた」と興奮しながら話してくれたのです。私たちに興味を持ってくれたことも嬉しかったですし、日本人としても嬉しい気持ちになりました。
濱野先生:「どうにかするドイツ語」が私たちのテーマです。実際に現地に行ったら、辞書を引いている余裕はありません。美しいドイツ語でなくても、単語やジェスチャーで会話を楽しむ、そんな体験を重ねてほしいと思っています。



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