外国語学部
2026.04.09

【前編】1年次に挑む、イスタンブール〜ベルリン陸路4,000kmの旅―外国語学部「ヨーロッパ横断研修」とは

【前編】1年次に挑む、イスタンブール〜ベルリン陸路4,000kmの旅―外国語学部「ヨーロッパ横断研修」とは

イスタンブールからベルリンまで、学生たちだけでバックパックを背負い陸路を旅する――それが、外国語学部ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻の「ヨーロッパ横断研修」。従来の研修プログラムとは一線を画す、学生主体の冒険的な学びのプログラムです。この研修に参加した1年次生は、言葉の通じない国々で何を感じ、何を学んだのでしょうか。前編では、プログラムの全容と準備の過程、旅の始まりで直面した困難、現地でのインタビュー体験について伺いました。

濱野 英巳
外国語学部 外国語学科 講師
19世紀ドイツ・オーストリア文学研究を経て、ウィーン大学留学中に現地アーティストとの協働を経験。ワークショップの手法や、研究を社会課題と結びつける視点に触れたことを契機に、外国語教育へと研究領域を広げる。現在は、学習者がことばや他者と関わる契機に着目し、ドイツ語の授業づくりや「ヨーロッパ横断研修」に取り組みながら、学びの新たな形を模索している。
矢野 杏奈
外国語学部 外国語学科 ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻 2025年入学
高校時代から東欧に興味を持ち、この研修への参加を目標に麗澤大学を志望。今後も現地の人々と関わりながら東欧について学びを深めたいと考えている。
※取材時、1年次生
出口 智也
外国語学部 外国語学科 ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻 2025年入学
バルカン半島ルートで綿密な計画づくりを担当。今回の経験を活かして、将来は海外での生活や留学も視野に入れている。
※取材時、1年次生
中村 虹美
外国語学部 外国語学科 ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻 2025年入学
バルカン半島ルートを選択。将来の進路は模索中だが、様々な国や人との出会いを通して自分の興味を見つけていきたいと考えている。
※取材時、1年次生
井上 心菜
外国語学部 外国語学科 ドイツ語・ヨーロッパ文化専攻 2025年入学
不安を抱えながらも東欧ルートへの参加を決意。今後は語学力を伸ばし、日本の魅力を海外の人々に伝えられるようになりたいと考えている。
※取材時、1年次生
目次

    学びの主体性と、仲間との絆を育む研修プログラム

    ―「ヨーロッパ横断研修」はどのような研修なのでしょうか。

    濱野先生:この研修の最大の特徴は、学生たちが主体的にプログラムの内容を考えることです。私たちから提示するのは「イスタンブールからベルリンまで約2週間をかけて、陸路で横断してほしい」ということだけ。移動手段のメインは長距離バスとし、飛行機の使用は禁止。総移動距離は約4,000キロに及びます。

    • 学生たちが決めるのは、グループ、ルート、そして現地でのフィールドワークテーマです。これらすべてを前期の「Workshop Deutsch」という授業のなかで準備します。安心・安全も重要なので、陸路での横断とチェックポイントの通過をルールとして、今回は東欧ルートとバルカン半島ルートの2つから選択する形にしました。有名な観光都市ではなく、ヨーロッパのルーツや多様性に触れられる地域を重視したかったからです。普段はなかなか行く機会のない東欧・バルカン半島諸国をメインルートに設定し、1年次生30名中20名が参加しました。

    ―なぜ、1年次にこのような研修を行うのでしょうか。

    濱野先生:大学に入ったばかりの頃は、「自分は何を学びたいのか」「何をしていいかわからない」という不安と期待の間にいる人が多いと思います。同時に、「人と違う経験をしたいけれど、外れるのが怖い」という矛盾した気持ちも抱えがちです。

    だからこそ、初年次に行うこの研修は意味があるのです。自分で選び、失敗し、修正し、仲間と議論しながら前に進む――そのプロセスが、学びの主体性を目覚めさせます。研修を終える頃には、語学学習の目的やテーマがより明確になり、その後の学びが「自分事」として結び直されていきます。情報収集や資料づくり、グループワークの進め方など、初年次教育として身につく力も少なくありません。

    同じ目的、想いで旅する上で重要なグループづくり

    ―準備の段階で、特に大変だったことは何ですか。

    出口さん:グループ決めが一番大変でした。4月に入学してすぐに準備が始まるので、まだあまり話したことのない人たちとグループを組むのです。2週間一緒に過ごすので、同じ目的を持って旅をして、最後までやり切れるかが重要でした。たくさん話し合いをして、時には妥協もしながら、同じ熱量で旅をできるグループを組むことができました。

    井上さん:私は、グループを組んでからの話し合いがなかなか進まず、ルート決めに苦戦しました。濱野先生に相談し、「もっと話し合っていこう」と背中を押してもらったことで、改めてメンバーと向き合う気持ちが整いました。自分の意見を言う子が少なかったのですが、「それぞれ行ってみたい場所や理由を出し合おう」と声をかけたことで意見を言ってくれるようになり、最終的には全員が納得できるルートを組めたので良かったです。

    旅の始まりから、トラブル・予想外の連発

    ―東欧・バルカン半島それぞれのルートや、旅の出だしはいかがでしたか。

    • 井上さん:私と矢野さんは、東欧ルートを選択しました。私のグループは、イスタンブールからブルガリア→セルビア→ハンガリー→スロバキア→ポーランドを経てベルリンへ向かいましたが、出だしから大冒険でした。降りる予定だった停留所をバスが通り過ぎてしまったのです。運転手に英語が通じず、焦りながらもなんとか状況を伝え、給油のタイミングでガソリンスタンドに降ろしてもらいました。そこから目的地まで1時間半。早朝5時に知らない街を歩くことになり、先行きが一気に不安になりました。

    出口さん:私と中村さんは、バルカン半島ルートを選択しました。私のグループは、イスタンブールからギリシャ→アルバニア→モンテネグロ→セルビア→クロアチア→ハンガリーを経てベルリンへ向かいました。大きなトラブルはありませんでしたが、アルバニアでは想定が通用しない場面もありました。バスはクレジットカードで乗れると思っていたのに、現地通貨しか使えず、しかも英語が通じない。困っていたら、英語を話せる若い男性が声をかけてくれて、お金まで立て替えてくれたのです。人の温かさを感じた出来事でした。

    深夜バスが予約時間に来なかったのも印象的です。1時間待っても来ず、窓口に聞くと「来るから」と言われるのみ。結局2時間半待ちました。日本のようにピッタリの時間には来ないのだと学びました。

    プラカードを持って街中でインタビュー! 感じた文化の違い

    ―現地では、各グループでテーマを決め、道行く人へのインタビューも行ったそうですね。

    濱野先生:インタビューは、まず「テーマと向き合うこと」から始まりました。そもそも行ったこともない国のことを、どうやって調べるのか。けれど、問いを立てて旅をすると、現地の人と関わるきっかけができ、気づきが生まれ、行動力も変わります。成果よりもプロセスが大事だからこそ、「何を聞くか」にはこだわり、学生たちと何度も話し合いました。

    矢野さん:私たちは各国の人に、「あなたはどんな言語を話せますか?」と聞きました。母語に加えて英語、隣の国の言語など、複数言語を挙げる方が多かったです。ただ、"話せる"の基準が意外と低くて、「単語がわかる」「少し言える」くらいでも「話せる」と言うのです。そこは日本と違う価値観だなと思いました。

    • 中村さん:私たちは学生を対象に「放課後、どこに行って何をするのか」をインタビューしました。国が違っても、放課後の過ごし方として「勉強」を挙げる学生が多くて驚きました。私だったら遊びやバイトの話をしそうなので、同世代でも価値観がこんなに違うんだと実感しました。

      井上さん:私たちは「1日に何杯のチャイを飲んでいますか?」というテーマで、現地の言葉でプラカードをつくりました。イスタンブールでは、プラカードを見て向こうから声をかけてくれる方もいて、人の温かさを感じました。

    出口さん:私たちは「朝食、昼食、夕食で何が一番重要ですか?」というテーマで各国を回りました。テッサロニキで散歩していた地元の方などに聞くと、皆さんフレンドリーで質問しやすかったです。結果は「昼」を重視する方が多く、生活のリズムの違いが見えてきました。

    現地の言葉での「ありがとう」が心をつなぐ

    ―英語が通じないことも多かったようですが、どのようにコミュニケーションを取ったのですか。

    矢野さん:私のグループは、翻訳機をあまり使わず、簡単な単語やジェスチャー、写真を組み合わせて伝えることを意識しました。ドイツ語の授業では、英語や日本語を使わず、知っているドイツ語の単語やフレーズだけで会話を成り立たせる訓練をしています。その学びを活かして実践してみると、意外と通じて驚きました。また、「ありがとう」「こんにちは」だけでも現地の言葉で挨拶すると、皆さん嬉しそうに対応してくれたのが印象的でした。

    • 中村さん:伝えようとする気持ちは大切だと思います。深夜バスで隣に座った外国人男性と話す機会があったのですが、お互い片言の英語とジェスチャーで理解できているようでしていない会話を続けていました。すると「どこから来たの?」と英語で聞いてくれて、日本から来たことを伝えたら「日本大好きなんだよ! 前に行ったことがあるけど、困っていたら皆やさしく助けてくれた」と興奮しながら話してくれたのです。私たちに興味を持ってくれたことも嬉しかったですし、日本人としても嬉しい気持ちになりました。

    濱野先生:「どうにかするドイツ語」が私たちのテーマです。実際に現地に行ったら、辞書を引いている余裕はありません。美しいドイツ語でなくても、単語やジェスチャーで会話を楽しむ、そんな体験を重ねてほしいと思っています。


    ―後編では、旅のなかで訪れたアウシュビッツや紛争跡地での学び、帰国後に感じた自身の変化、そしてこの研修がこれからの大学生活にどう繋がっていくのか、さらに詳しくお話を伺います。

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