大学の授業
2026.02.12

【前編】「世界のリアル」を現場でつかむ。足元の地域から国際を考える、モーガンゼミのジャーナリズム

【前編】「世界のリアル」を現場でつかむ。足元の地域から国際を考える、モーガンゼミのジャーナリズム

モーガンゼミでは毎年、学生自身が取材・執筆を行うフリーペーパーを制作しています。テーマは「地域課題」。柏市や流山市など、大学近隣の地域社会に足を運び、学生たちは現場で人と出会い、声を聞き、記事として発信してきました。前編では、国際学部のゼミナールで、なぜあえて「地域課題」をテーマに取り組むのかについて伺いました。

モーガン,ジェイソン M.(MORGAN, Jason M.)
国際学部 准教授
アメリカ合衆国ルイジアナ州出身。ウィスコンシン大学大学院歴史学科博士課程修了、博士号取得。専門は日本史、法制史、アジア比較宗教と幅広く、学生時代からジャーナリストとしても活動。現在、日本の大学の教壇に立ち、日本の歴史・文化・伝統の素晴らしさとともに、その克服すべき課題を論じる。
目次

    現場でしか学べない、ジャーナリズムの本質

    ―「モーガンゼミ」の研究テーマについて教えてください。

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    • このゼミナールの研究領域はジャーナリズムです。しかし私が目指しているのは学問としてのジャーナリズムではありません。一言で言えば、「世界で起こったこと、今まさに起こっているリアルな事実」を学ぶことです。

      学問的な立場から物事を紹介するのは大切なことですが、ジャーナリズムという業界は、それとは異なります。ジャーナリズムは、その地に足を運び、実際に会って、話を聞いて、その人物がどういう人間で、なぜそう考えているのかを知る。人と人との関係で成り立つ業界です。

    そのため、このゼミナールでは現場の体験を重視して取り組んでいます。研究室から出て取材し、記事を執筆する。アカデミックではない現場の体験を通じて、学生たちには「世界のリアル」を感じてもらいたいと思っています。

    当然、取材というのは誰でも緊張します。私も含めてです。これから政治家に会いに行く、専門家に話を聞きに行く。そういう時は必ず緊張します。その緊張感も含めて、様々なことを経験してほしいのです。経験を積み重ねることで自信がつき、壁を乗り越えられるようになります。本当にこの世の中のことを知りたいと思ったら、研究室から出て、実際に汗をかいて人の話を聞くこと。それがこのゼミの根幹にある考え方です。

    世界を見る前に、日本を語れる自分になる

    ―なぜ国際学部で「地域課題」を取材の題材にするのですか?

    ジャーナリズムにおいては"グローバル"イコール中国、アメリカ、フランスとか、そういったことではないのです。海外記者から見れば、日本の千葉県もグローバルだと思いますしね。私が問題視しているのは、国際的なディスカッションの場で「日本が不在」になってしまう現象です。

    国際的な場でディスカッションをすると、日本の学生は「日本では...」と日本の立場を取ることがあまりありません。中国の立場、韓国の立場、アメリカの立場はあるのに、日本の意見が不在になりがちです。それは海外の政治や経済について総論を語ることはできても、日本のこと、より身近であるはずの自分たちの暮らす地域のことについて語れない。そんな学生の姿を、私は残念だなと思っています。

    • また議論の場に限らず日本人の多くは、「日本のことを実はあまり知らないんじゃないか?」と感じることもよくあります。わかりやすく例えるならば、治安が良いこと。私もよく海外出張をしますが、海外で地下鉄に乗ろうとすれば、とても警戒しながら利用します。私の母国でもあるアメリカであったとしても警戒心は変わりません。今の時代でも、です。しかし日本の地下鉄はうたた寝できるぐらい治安がいい。皆さんにとっては、それが当たり前になり過ぎて、その良さをあまり知らないように感じます。

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    地域を取材することの目的は、まず自分たちにとって一番身近である日本を知ること。そして、日本の立場から世界を見る視点、語る視点を獲得することにあるのです。

    ジャーナリズムに必要な、3つの力

    ―活動を通して学生に身につけてもらいたい力は、どんなものだとお考えですか?

    大きく分けて3つあります。

    第一に「人の話を聞く力、そして見極める力」です。

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    • その場で、人の顔を見て、話を聞くことの大切さを学んでほしい。これは単なるコミュニケーション能力ではありません。相手の表情、声のトーン、時には汗のかき方まで。そうした細かな観察から、何が真実かを見極める力です。

      情報が溢れるこの時代、何が本当で何が嘘か。それを見極めるには、やはり人間的なスキルが必要です。AIに頼るのではなく、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の心で感じ取る。それができる人間は、将来も必要とされ続ける人材だと思っています。

    第二に「日本という立場で意見を持つこと」です。

    日本の学生は、自国のことをあまり語らない傾向があります。批判的な意見でも、肯定的な意見でもいい。でも、「日本ではこうです」「日本の立場からすれば、こういう観点もあります」と言える力を持ってほしい。これは将来、日本から世界に出て活動したいと考える人にとっては非常に重要なポイントです。

    最後に「自分の頭で考え、自分の言葉で語る力」です。

    取材をすると、必ず自分の考えと異なる意見に出会います。しかし、ジャーナリストとして大切なのは、その人の意見に賛成するか反対するかではなく、なぜその人がそう考えているのか、その背景を知ることです。その人の話と背景をセットで理解する。それが取材の目的であり、学生にも身につけてもらいたい視点です。

    キャンパスから世界へ。広がる取材のフィールド

    ―今後、学生と一緒に取り組んでいきたいことを教えてください。

    • 春学期に制作しているキャンパスペーパーを、もっと大きくしていきたいと思います。地域新聞、フリーペーパーのような形態で、麗澤大学内に留まらず、外部にも向けた形で発信していきたいと考えています。取材に行ったり、執筆したりするのもゼミ生だけではなく、麗澤大学の学生誰もが投稿し、ゼミ生は編集部となって記事をまとめる。このキャンパスのこと、地域のこと、様々な立場から意見を募り、本当に国際的な議論の場のようになるキャンパスペーパーができればいいなと思っています。

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    そして、学生を連れて海外取材にも行きたいと考えています。どこかの国で大統領選があるとか、そういった機会に日本メディアとして学生と取材がしたいなと思っています。または海外にある日本企業の工場などを取材するというのも、国内の労働者の考えやルールの違いがあっておもしろいはずです。そんな情報を共有し合うのも成長になると思います。

    もうひとつの大きな目標が、高校生との連携です。国際学部としても、私個人としても、日本の高校生をこの輪に招きたいですね。大学って、こんなに自由で活発に学びをする場なんだと感じてほしいです。ゼミ学生が、取材や編集を高校生に教える、そういう経験ができれば、さらに良いですよね。高校生の頃から色々なニュースに興味を持つ。本を読む。そして人の話を聞く。こうした習慣が身につけば、大学に入ってすぐに良い議論ができるようになるはずです。

    ―後編では、モーガンゼミに参加し、実際の取り組みをレポートします。

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