大学の授業
2025.10.10

【前編】3つの技術を統合する実践的な学び――「ロボット製作実習」とは

【前編】3つの技術を統合する実践的な学び――「ロボット製作実習」とは

機械工作、電気・電子工作、プログラミング制御。これら3つの専門分野を横断し、学生が自らの手でロボットを設計・製作するのが工学部ロボティクス専攻の「ロボット製作実習」です。4名の専門教員が支えながら、学生は基礎を学び、最終的にオリジナルロボットをつくり上げます。「教えすぎない」方針により自主性を育み、理論と実践を結びつけながら社会で必要となる実践力を養うことを目指しています。前編では、鈴木高宏教授に授業で大切にしていることを伺いました。

鈴木 高宏
工学部 教授
東京大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻博士課程修了。専門分野は次世代モビリティとロボティクス。2004年より東京大学大学院情報学環准教授に着任し、その後長崎県庁でEV&ITS推進担当として電気自動車の利活用などに携わる。その経験を活かし、2014年東北大学未来科学技術共同研究センター教授として、東北復興プロジェクトに注力、東北大学福島復興支援室の新設に貢献。2023年4月より麗澤大学に着任。東北大学未来科学技術共同研究センター特任教授。
目次

    「ロボット製作実習」とは、どのような授業か?

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    • 「ロボット製作実習」は、ロボティクス専攻の核となる授業のひとつです。最大の特徴は、機械工作、電気・電子工作、プログラミング制御という3分野を学べる点にあります。

      授業は「オムニバス方式」で行われ、複数の専門教員がそれぞれの専門分野を担当。機械要素や工作機械の使用法、電気・電子回路の製作や部品の扱い方、ロボットを使ったプログラミング制御など多岐にわたる指導が行われます。私は初回のガイダンスと安全講習、最終段階での応用製作実習を担当しています。

    授業は2コマ連続で全28回実施します。全体を4つのパートに分け、最初の3パートで各分野の基礎技術を習得し、4パート目でそれらを組み合わせてオリジナルのロボットシステムを製作します。最終的には、完成したロボットを用いたデモンストレーションを行います。個々に学んだ知識がひとつの作品として結実する瞬間は、学生にとって大きな達成感となります。

    「教えすぎない」ことで、考える余白をつくる

    • この実習で私が最も大切にしているのは、「教えすぎない」ことです。マニュアル通りに進めれば簡単ですが、それでは学生が自ら考える余地がなく、「ただ覚えるだけ」で終わってしまうでしょう。私が「教えすぎない」のは、知識を「使える技術」へと昇華させるためです。

      「あの時先生が話していたのは、こういうことだったのか」という瞬間が訪れ、学生たちの理解は格段に深まります 。それこそが、真の学びが起こる瞬間なのです。だから私は基本的な安全管理や技術の要点は教えますが、細部はあえて学生に委ねています。

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    質問があった際も、直接答えを教えるのではなく、「こういう視点で考えてみたら?」「ほかの学生の方法を参考にしてみたら?」とヒントを出すようにしています。学生が自ら調べ、試行錯誤し、時には失敗を経験しながら解決策を見つける過程を大切にしています。

    現代はインターネットや生成AIで多くの情報を得られますが、その膨大な情報の中から自分に必要なものを取捨選択できる力を養うことがとても重要なのです 。

    一人ひとりの「らしさ」を認め、ともに成長する学び

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    • 学生たちの学び方や強みは実に多様です。そのため、一人ひとりの個性を理解し、それぞれに合ったアプローチで指導することを心掛けています。

      座学が得意でなくても、実際に手を動かすと力を発揮する学生がいます。理論的な説明を好む学生もいれば、視覚的な情報から理解を深める学生もいます。その強みを伸ばしながら、学生同士で知識を共有し合う環境をつくっています。異なる強みを持つ学生たちが互いに教え合うことで、一人では気づけない新たな発見や解決策が生まれるのです。

    実は、このような協働的な学習環境を重視するのには、私自身の経験が大きく影響しています。長年、研究開発の現場にいて、非合理的な仕組みのために、才能のある人材が伸び悩む姿を何度も目の当たりにしてきました。だからこそ、せめて私の手の届く範囲では、学生たちが互いを高め合える環境を提供したいと思っています。一人ひとりの「らしさ」を認め合い、全体として成長していく。それが、私の理想とする教育の姿なのです。

    ―後編では、「ロボット製作実習」に参加して、授業の様子をレポートしていきます!

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