「中国語上級演習 Ⅳ」は、通訳を目指す学生にとっての「入門編」となる授業です。中国語の高いレベルの会話・読解・作文能力を育成することを目的として演習形式で学びます。前編では、担当教員の邱先生に「中国語上級演習 Ⅳ」の概要、授業で大切にしていること、学生に学んでもらいたいことを伺いました。
学生同士の対話だからこそ見える、お互いの文化や習慣の違い
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「中国語上級演習 Ⅳ」では、学生が実際の中国語を通訳・翻訳するシーンを想定した「対話」の中から、文化や社会背景にも触れながら、実践的な言語力を磨いていきます。中国・台湾から訪れている留学生とのディスカッションやプレゼンテーションに多くの時間を割いているのが特徴のひとつです。麗澤大学では多くの留学生を受け入れており、「中国語上級演習 Ⅳ」を履修する学生は、日本人学生と留学生の比率が1:1で構成されています。日本人学生は中国語通訳に、留学生は日本語通訳になるためのトレーニングを積んでいます。それぞれ目的は一緒ですから、学生同士でペアになって、日本語と中国語、どちらも駆使してコミュニケーションを取る形式で授業を展開しています。
毎回シチュエーションとテーマを変えながら、情報収集と検討・発表を繰り返して、よりリアルな中国語に触れてもらえるように授業を進行しています。先生と生徒との対話ではなく、学生同士がコミュニケーションを取り合うことで、同じ年代の目線だから見える、お互いの文化や習慣の違いを伝え合ってもらうように工夫しています。
通訳という仕事の本質は、単に言葉を直訳して伝えることではなく、両国の文化、習慣、社会背景の違いも配慮し、相手と行き違いがないように意思疎通を図る架け橋のような存在になることです。私は語彙や文法を学ぶだけでは身につかない部分がとても重要だと考えています。
言語、文化と社会を一体的に学ぶことで言葉の理解が深まる
今は、海外旅行の際にスマートフォンの翻訳アプリなどを使うことも珍しくありません。しかし、翻訳アプリは道を尋ねたり、買い物をしたりする程度であればとても便利なのですが、複雑な会話になると相手に通じないことも多いはずです。
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その理由のひとつは、日本語に方言があるように、中国語でも地域によって、イントネーションや語彙に違いがあることです。一緒に授業を受けている留学生には、台湾出身の学生もいれば、中国出身の学生もいます。日本人学生が話す中国語を聞いて、同じように理解してくれるとは限りません。それはひとえに、文化や習慣の違いが影響しているからです。
授業では、それらの違いを知る一環として、日常会話だけでなく、日本文化の説明や緊急時の避難誘導など、様々な場面を想定したテーマを教材として取り上げています。
身近な話題であれば、学生が自ら考えを述べたり、意見を交換したりしやすいので、自然と積極性も生まれます。語学においては「学ぶ」だけでなく、日常的に「使う」ことが、とても大切です。講義形式の授業よりも、ペアワークやグループディスカッションを多く取り入れているのも、そのためです。
学びを楽しみ続けてもらうため、学生の自主性を尊重
自信を持って中国語を使えるようになるには、学生自身の自主性、主体性が欠かせません。コミュニケーションの中での自主性とは、相手の意見に対して自分の意見を発信することだと考えています。もちろん自分の意見を、ただ言うだけではなく、相手から理解や賛同を得なければなりません。そのために物事を多角的に捉え、自分の意見を考え、論理的に組み立て、相手に伝わる表現にする力を身につける必要があります。いわゆる批判的思考を養い問題解決力を高めていくわけです。
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問題解決力は、社会に出れば、どんな場面でも重宝されるスキルになるでしょう。批判的思考については、生活環境の近しい日本人学生同士よりも、違う文化圏で育った留学生とディスカッションするほうが、相手の意見を聞いて「なぜだろう?」という疑問を抱く機会が自然と多くなるはずです。麗澤大学には本当に多くの留学生が集ってきていますから、キャンパスライフでは中国語の授業に限らず、たくさんの異文化交流を深めることができるのも魅力のひとつだと思います。
余談にはなりますが、私自身も、日本に留学したことをきっかけに、たくさんの日本文化に触れてきました。今でも「なぜだろう?」という興味や探求の意欲は尽きません。そう感じるたびに、言語習得にはその国の文化を理解することが不可欠だと実感しています。新しい気付きや発見を通じて、自ら調べたり、もっと詳しく聞いてみたりしながら理解を深めていく。その過程を繰り返し、積み重ねることで、自分の知識が広がっていくのを実感します。学生には成長を感じることに楽しみを見出してほしいと願っています。授業は、そのための練習の場です。十分な機会を提供して、より実践的なスキルを身につけてもらうことを目標にしています。