大学の授業
2024.11.01

【前編】2025年度、国際学部に「国際社会・国際情報専攻(ISI専攻)」を新設。情報を正しく扱い、世界のつながりを知る

【前編】2025年度、国際学部に「国際社会・国際情報専攻(ISI専攻)」を新設。情報を正しく扱い、世界のつながりを知る

2025年4月から国際学部に新設される「国際社会・国際情報専攻(以下ISI専攻)」は、刻一刻と変化する国際情報の動向や世界各地の事情を理解した上で、どのように世界と関わるべきかを学ぶ場です。前編では、ISI専攻新設の理由や国際学部の他の専攻との違い、授業のポイントについて先生方に伺いました。

櫻井 良樹
国際学部 教授
日本近代政治史を専門としており国際交流や国際関係の講義を担当。多くの専門書を上梓。研究は理念的なことを語らず実証に基づいており、東京や地方都市の歴史から国政の移り変わりまで幅広く扱う。
阿部 亮子
国際学部 准教授
安全保障を専門とし、2024年4月麗澤大学国際学部に着任。バーミンガム大学で安全保障の修士号を取得し、同志社大学では政治学の博士号を取得。博士課程在籍中に、アメリカ海兵隊大学でベトナム戦争後のアメリカ海兵隊の組織改革に関する博士論文を執筆。現在は、イラク戦争でのアメリカの軍事戦略を見直し中。
中園 長新
国際学部 准教授
コンピュータに関わる仕事を志して大学に進学。教職科目を履修したことで教育の魅力に気づき、情報と教育を組み合わせた「情報教育」の研究者の道を歩むことに。情報科学、教育学、図書館情報学など、幅広い学問を専攻してきた経験を活かし、現在は初等・中等教育における情報教育の推進や学校図書館の施設活用に関する研究に取り組む。
目次

    ISI専攻の特色

    ―まずは国際学部の専攻について教えてください。

    櫻井先生:現在、国際学部 国際学科には「日本学・国際コミュニケーション専攻(JIC専攻)」と「国際交流・国際協力専攻(IEC専攻)」がありますが、2025年度から新たに「国際社会・国際情報専攻(ISI専攻)」が加わります。

    ―ISI専攻にはどのような特色がありますか。

    • 櫻井先生:新設されるISI専攻は、「国際関係・安全保障」と「情報」の分野に焦点を当て、国同士の関係性を理解し、国際社会で生き抜くための知識やスキルを身につけることに重点を置いています。現在、世界では、大国間の争いや地域共同体、国際政治など、国同士の関係性が日々変化し、膨大な情報が飛び交っていますが、その情報の中には誤ったものや偏ったものも多く含まれています。そのため、国同士の関係性を正しく理解するには、表面的な情報に惑わされるのではなく、情報を正しく取捨選択し活用する能力が欠かせなくなりました。何が正しいのかを判断するのは難しいことですが、国際社会で活躍するためには、世界がどのように動いているのかを理解しなければ、適切な行動を起こすことができません。

    • 前編 櫻井先生1.jpg

    このような背景で設立されるため、専攻の英語名 "International Society and Intelligence" の "Intelligence" には、単なるInformationとしての「情報」の意味だけでなく、「知能」「知性」、あるいは広義での情報収集・分析という意味も含まれています。

    安全保障を理解し、主体性を育むための学び

    ―安全保障を学ぶ上で、大切なことは何でしょうか。

    阿部先生:安全保障を学ぶというのは、脅威のメカニズム、たとえば、戦争とはどのような現象か、どのように抑止できるのかなどを学ぶことです。これらを考えるときに大切なことは、感情や自分の思い込みから分析を始めるのではなく、目の前の現象を、歴史やデータに基づいて、客観的かつ論理的に分析することです。ものごとを、歴史の文脈の中で捉え、理論や概念といった専門的知識で理解し、その上で、幅広い知識や教養を習得し、どうすれば国や人々に脅威が及ばず、安全でいられるかを考えることが重要です。そのことを踏まえた上で、授業は「3つの柱」を軸に進めたいと考えています。

    ―授業における「3つの柱」について教えてください。

    • 前編 阿部先生1.jpg
    • 阿部先生:ひとつ目は、安全保障の理論や事例を知ることです。欧米では、かつては、通常戦力の軍事戦略や核抑止が安全保障の主たる問題として議論され、冷戦が終結すると、環境や移民の問題に移り変わっていきました。そして、近年ではロシアのウクライナ侵攻などをきっかけに、軍事戦略が再び注目されています。このように、国際情勢とともに安全保障の課題は変化し続けるため、現在の安全保障の諸問題を深く理解するためには、これまでの歴史を知ることが欠かせません。

    ふたつ目は、学生の主体性を大切にすることです。学生が主体的に学びを深めるためのプロジェクト型授業を予定しており、実際の安全保障の現場を訪問する機会も設ける予定です。実現できるかまだわかりませんが、千葉県という地の利を生かして、習志野にある陸上自衛隊第一空挺団を是非、訪問したいと考えています。

    そして最後に、外部講師による講演です。例えば、ウクライナやロシアの戦場でのドローンの使用、米国と中国の間の競争で緊張が高まっている台湾有事、企業が行う安全保障上のリスク分析などを取り上げ、戦争と最新技術の研究者や元国家安全保障局次長などの実務家の両を外部講師としてお招きし、現在の国際情勢について学び、考える場を設けます。

    世界を読み解く! 情報を正しく取捨選択

    ―「安全保障」とともに「情報」を学ぶことには、どのような狙いがありますか。

    • 中園先生:現代社会において、人々はネットニュースやSNSを通じて膨大な情報に触れています。しかし、その情報は自分の好みや過去の行動に基づいて自動的にフィルタリングされ、特定の情報に偏りがちです。これを「フィルターバブル」といいます。また、同じ情報を繰り返し共有・確認することで特定の信念が強化され、知らず知らずのうちに視野が狭くなり、異なる意見を排除することが起こり得ます。これを「エコーチェンバー」といいます。身近な情報だけでなく、安全保障をはじめとする国際情報に関しても、誤りや偏りが含まれることがあるため、注意が必要です。もし偏った情報ばかりに触れていることに気づかなければ、安全保障についてどれだけ学んでも、その学びは限られたものになってしまうでしょう。

    • 前編 中園先生1.jpg

    そうならないために必要なのは、常に自分が見ている情報が偏っている可能性を意識することです。そして、自分とは異なる意見や考え方を持つ人たちの情報にも目を向けて、視野を広げることです。理想を語れば、どの意見にも偏らない「中立」の立場を取ることが望ましいですが、完全な中立を保つことは非常に難しく、現実的ではありません。だからこそ、自分がどのような立場に立っているのかを客観的に理解することが重要です。情報を正しく取捨選択し、広い視野を持つことで、より客観的でバランスの取れた判断ができるようになります。これこそが安全保障を学ぶ際に必要であり、世界を読み解く力につながっていくのです。

    ―後編では、安全保障と情報を並行して学ぶ意義についてのより踏み込んだお話と、ISI専攻で学ぶ学生の将来像について伺います。

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