教職員
2016.03.31|最終更新日:2020.09.24|

「観光学は現場から」をモットーに、現場を知ることを大切にしています。

「観光学は現場から」をモットーに、現場を知ることを大切にしています。
山川 和彦
外国語学科 教授
東京都出身。観光学・言語政策を専門とし、現在は訪日外国人の増加に伴う観光地の言語政策を主なテーマとして研究している。フィールドはタイ、石垣島、北海道、みなかみ町、そしてイタリアの中でドイツ語を話している南チロル地方。趣味は飛行機関連で、特によく揺れる小型のプロペラ機が好きとか。

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目次

    現場に行くことで見えてくることがある

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    タイトルにもある「観光学は現場から」とはどういう意味だと思いますか?

    大学でおこなう研究というのはいくつかの方法があります。机上で参考文献や論文などから研究する方法もありますが、私は何かが起きている現場に自ら出向いて物事を考え、その研究を現場にフィードバックすることが重要だと考えています。例えば、石垣島には2,000名程度の観光客を乗せたクルーズ船が、毎週入港します。たくさんの外国人観光客がタクシーやレンタカーを利用し、観光や飲食、買い物をするわけです。

    ある薬局には「日本人専用レジがあります」という掲示が店の入り口に張られています。台湾人客がどんなに多いか想像できますね。ですから、このお店では中国語が話せるアルバイトを募集するなど、さまざまな工夫をはじめました。このような状況は現場に行って観察しないと見えてきません。石垣市は外国人観光客に対応できるようにするために、観光業に携わる市民のために外国語講座を用意しました。その教材の一部を、私たちの研究メンバーが提供する形で協力しています。現場に行ったから外国語講座が必要だということがわかり、私たちも協力できるのです。

    他にもさまざまな例がありますよ。北海道にある、ニセコってご存知ですか? 雪質がいいのでスキーヤーにとっては聖地と言われている地域です。かれこれ10年くらい前、あるオーストラリア人がニセコの良さを口コミで伝え始めたことから、今ではヨーロッパやカナダからもスキーヤーが来ています。ゲレンデ近くの店舗の看板は英語表記だけのものが多いんです。「ここは海外?」と思うほどで、現地のアルバイトにも英語能力が求められています。一方で、生活習慣の違いに困っている住民もいます。どこの観光地でも外国人の増加が必ずしも歓迎されているわけではありません。
    また、同じ北海道でのことですが、以前テレビでも紹介された枝幸町歌登にあるホテルには、タイ人旅行者が多く来ることで、タイ語を勉強し始めたご年配のボランティアさんがいました。タイ語を覚えて外国人旅行者を接遇することが生きがいにつながっているそうです。これも現場でお話を聞いてわかったことです。

    [写真:山川ゼミの石垣島研修―海岸清掃のボランティア]

    タイでの活動

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    私は本学学生に対してタイ研修旅行を企画しています。2016年2月に行った研修では、バンコクの日系企業の工場と事務所、スラム地区の支援財団、日本からも多くの団体が出展しているタイ国際旅行博を訪問しました。これはタイのさまざまな断面を学生に見せるために企画したものです。その後タイ北部にある留学提携校でもあるパヤオ大学で、タイ人学生と一緒に日タイの文化社会を比較するという約2週間の短期研修でした。

    [写真:タイツアー、クロントイスラム支援団体訪問]

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    もう一つ行っているのが、タイ人留学生のインターンシップです。今年は北海道新篠津村と石垣島、みなかみ町に留学生を派遣しました。留学生を受け入れること、つまり外国人と一緒に働くことを、ホテルや観光地がどのように受け止めていくかを関係者の皆さんと考えてみたいと思っています。もちろん日本の社会の中でインターンシップを行うことは留学生にとっても貴重な経験となります。観光地では人材不足から留学生インターンを受け入れ始めたところも増えつつあるなかで、大学の地域との連携、貢献は重要な活動のひとつです。

    [写真:3月8日、八重山毎日新聞掲載]

    研究テーマでもある「言語政策」とは一体?

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    「言語政策」というと難しく聞こえますよね。国や地域だけではなく、例えば「大学で何語を学べるのか」や「お店が何語の看板をかかげるか」「日本語が先か英語が先か」なども誰かが言葉に関与していく、広い意味で政策というわけで、ここにあげたことも言語政策の研究対象となるわけです。もともと私はドイツ文学科を卒業しており、大学院ではイタリアの中でドイツ語を話す南チロル地方のことを研究しました。

    南チロルでは、第一次大戦後イタリア語が強制されるなか、母語ドイツ語を使う権利を法的に規定させるという、いわば少数者の闘争があったわけです。私は大学院を出た後、ある百貨店の旅行事業部で働いていた経験もあり、いまの観光学研究につながっています。"外国人旅行者"というのも、ある意味、周りは自分の母語とは違う言語を話す"少数集団"と捉えることができます。「すぐ帰ってしまうから、その場さえ何とかなればいいや」とこれまでは研究の対象とされることが少なかったのですが、私はこの"少数集団"と言語の問題をリンクさせてみようと思って、観光地に赴き始めました。そして現地で必要な「言語政策」とは何かを観光と絡めて研究しています。

    [写真:南チロルにあるチロル城]

    山川先生の考える外国語学習とは?

    EU諸国では母語と英語の他に、もうひとつ言語を学ぶことが求められています。しかし日本ではグローバル化=英語のように考える傾向がかなり強いです。そして「英語もできないのにもう一つ別の言語なんて...」という人もいます。私は何も「英語が完璧じゃないから他の言語を学ばない!」とする必要はないと考えています。先に紹介した石垣市にある高校の観光コースでは中国語も必修です。

    北海道ではタイ人を接遇するためにタイ語を学ぶ人もいます。言葉はいくつ学んでも多すぎるということはないと思います。観光地で聞き取りをしていると「片言レベル」という言い方をよく耳にしますが、それでも十分にコミュニケーション取れていて、旅行者が喜んでくれることがあります。たとえ片言でも、挨拶しか出来なくても、恥ずかしがらずに旅行者の言葉で話してみるという気持ちが大切なのではないでしょうか。相手の言葉でコミュニケーションを試みる。何事も一歩踏み出すことから外国語学習は始まると私は考えています。

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