日本の良さを忘れないで。日本の学生の皆さんへのお願いです
私は子供の頃から歴史が大好きで、歴史に関することなら国や時代を問わず、何でも興味がありました。特に好きだったのはアメリカインディアンの話。なんといっても、インディアンはアメリカのルーツですから。
大学時代の私は、ギリシャ語とラテン語の勉強に夢中な、我ながらとても真面目な学生でした(笑)。そんな私が日本に興味を持ったきっかけは、大学時代に、日本人留学生の上田さんと友達になったことです。岐阜県にある彼の実家に1ヵ月間ホームステイし、日本に惚れ込みました。上田さんの家庭で体験した「家族団らん」の温かな雰囲気や、相手の気持ちを「察して」気遣う、日本人ならではの思いやりの心、精神性の深さに感動したのです。「この国のことをもっと知りたい!」そう思い、大学に戻るとギリシャ語とラテン語の勉強から、東アジアの研究に切り替えたのです。
私は今、日本に住んでいますが、住めば住むほど好きになっていきます。と同時に、日本を更に知ることで、母国のアメリカをもっと愛するようになりました。日本ではアメリカに憧れる学生も多く、とても嬉しいです。一方で、日本を愛する外国人としては、日本の学生の皆さんに、日本の良さも忘れないで大切にしてほしい。心からそう願っています。
ニュースを鵜呑みにしては見えない「本当の姿を見る」物の見方とは?
私が担当する「国際関係概説」の授業は、ニュースを題材に、その背景となる歴史を学んでいくというものです。題材を選ぶのは学生の皆さんです。例えば、学生から「紛争が起きているシリアのことを知りたい」とリクエストがあったら、今なぜ、シリアでこのような暗い戦争が起きているのか、過去から現在に至るまでの歴史的な背景を含めて私は講義をします。こうした授業を通して、学生の皆さんに「物の見方」を学んでほしいと思っています。私が日本に留学して、日本史の勉強を始めた時のことです。
私はそれまで、アメリカ人が書いた英語の本で日本史を学んできましたが、日本人が書いた日本史を読んでみると、私が知っている日本史とは印象が全く異なることに驚きました。それまで私が正しいと思っていたことが、実はアメリカ人の「偏見」の入ったものであったことに気づいたのです。人も、物事も、一方的に見るだけでは本当の姿は見えてきません。
ニュースも、報じられるがまま鵜呑みにするのではなく、どういう流れでそうなったのか、まず歴史をよく学ぶこと、そして、できるだけ偏見や思いこみを手放して、様々な角度、立場から見るようにしてほしいのです。
そうすれば、今、起きていることへの理解を深めることができるでしょう。「歴史はつまらない」という高校生も少なくないですが、例えば、自分の過去を一切語らずに、自己紹介をすることができるでしょうか? 難しいですよね。歴史(過去)がなければ「今」は存在しません。私達は、歴史という海に浮かんでいる船のようなものです。そのことに気づいてもらいたいと思います。
大学では、自分の無知に思いきりがっかりしてほしい
私にとって麗澤大学は、とても恵まれた環境です。キャンパスが美しいのはもちろんですが、一番嬉しいのは、学生の皆さんと、授業だけではない関わりを持てることです。実は、私の誕生日に、学生の皆さんがケーキと手製のバースデーカード、ビデオメッセージを準備して、お祝いしてくれたんです!とても驚きましたが、本当に嬉しくて、その温かな心に感動しました。学生は普段から、私の研究室にもよく来てくれます。そして、進路のこと、経済的なこと、勉強のこと――色々な悩みを打ち明けてくれます。そんな時、私は「私も皆さんと同じように悩み、迷っていた」と正直に伝えるようにしています。
「もし、今、間違ったとしても大丈夫。立ち直ることができるから」と伝えたい。実際に私がそうでした。皆さんと共に悩み、考えて成長していきたいと思っています。
これから何かを学ぼうとする人達には「あきらめないで」と言いたいです。「勉強ができない」「よく理解できない」と悩む学生も多いのですが、私も20年間学問をしていて、勉強すればするほど、自分が何もわかっていないと思い知らされます。それこそ、私は大学に入る前は天才だと思っていました(笑)。しかし大学進学後、勉強をして自分の無知がわかり、本当にがっかりしました。いくら勉強しても知らないこと、わからないことばかりなのですね。
でも、皆さんにも同じように思いきり、がっかりしてほしい。それを乗り越えて、乗り越えて、またがっかりして、また乗り越えて...その繰り返しだと思います。本当の意味で学ぶとは、今日明日にわかるもの、目に見えてすぐに成果が出るものではありません。10年、20年と学び続けて振り返った時に、自分が何かを得られている。それが学ぶということだと思います。だからどうか、長い目で見て、粘り強く取り組んでいってほしいと思います。私自身もまだまだあきらめずに学び続けますよ!