学校教育研究科道徳教育専攻 教員リレーエッセイ連載(第2回)
2017.7.5

道徳教育の充実と教師の課題

麗澤大学 副学長 井出 元

 

「特別の教科 道徳」用の検定教科書が発表され、いよいよ「道徳の教科化」の舞台が整いました。それらの教科書を通読すると、そこには定番の話題あり、現代的な話題あり、様々な切り口から、実に多くの教材が掲載されています。その内容は語りたくなるような話題や考えたくなる設問など、実に楽しく拝読することができました。特に問いかけや振り返りのコーナーなど「考え、議論する」指導法に供する工夫と配慮の背後に、児童生徒の可能性を確信した道徳教育にかける大いなる夢を感じた次第です。

しかし、これを教材として活用する時、いったいどのように展開することによって、児童生徒の興味を引き出し、その人間性の向上に資することができるであろうかと、その話題の広さと設問の多様さを前にして、「教えて然るのちに困(くるし)むを知る」という古人のことばを思い出し、戸惑いさえ感じたことも事実です。

教科書に示された問いかけに対して児童生徒は多彩な反応をするでしょう。しかし、道徳に関する設問には正答はありません。そこで児童生徒のすべての反応(意見)に対する的確な評価(意味づけ)が求められます。さらに「先生はどのように考えますか」と問われたならば、何と応えるかと考えることも重要です。そこには大人としての知見に基づいた示唆に富んだ応答が期待されると同時に、時として児童生徒の応答に啓発されることもあるでしょう。道徳の時間が「師弟同学」の理念を実現する場であってほしいと思います。

さらに「道徳」が社会の事象の全般に関わるものである以上、道徳を担当する教師は社会で起きているすべての事柄に対して何らかの智識を持っていなければなりません。そして、担当する道徳教育については、その教授法、歴史、法令なども含めて専門家としてすべてを知り、それを自在に応用することのできる高い実戦力を育むことが不可欠となります。

このように書いて来ると道徳教育の担当者は、その課題の大きさに負担を感じてしまうかもしれません。しかし、道徳教育とは児童生徒の人間性の向上を願い、より豊かな人生を歩んで欲しいという崇高な夢を実現させるものであり、有史以来、心ある教育者が全霊を注いで取り組んだ普遍的な課題なのです。そこで道徳教育の本質を理解し,自ら道徳科の担当者としての教育力の向上をめざし、道徳教育に夢をいだくことのできる人材の育成を課題とする大学院が、今、求められています。