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ダライ・ラマ法王14世名誉博士号授与式挨拶

 本日、麗澤大学でダライ・ラマ法王14世テンジン・ギャツオ氏の名誉博士号授与式を挙行できますことは、私どもにとりまして、この上もない喜びであり誇りでもあります。また、本日、この式典に参加してくださっている皆様に対し、高いところからではございますが、大学を代表いたしまして、心からの感謝を申し上げたいと存じます。

 さて、麗澤大学名誉博士規程には「名誉博士の称号は、本学の建学の精神に則り、学術・文化の向上、国家・社会の発展及び人類の安心・平和・幸福の実現に顕著な貢献をした者に授与する」と明示されております。ダライ・ラマ法王は、まさに本学の名誉博士授与にふさわしい世界の指導者として、平成301012日の麗澤大学名誉博士選考委員会の選考結果に基づき、大学院委員会および協議会の議をへて、満場一致の承認のもと、学長がこれを決定いたしましたことをご報告いたします。以下、その理由を説明いたします。

 まず、本学の建学の精神は、創立者、廣池千九郎の打ち立てた総合人間学であるモラロジーに基づいております。モラロジーでは、ブッダを含め、世界諸聖人の実行した最高道徳と一般に行われている因襲的道徳の内容を比較研究し、その実行の効果を科学的に証明せんとして、普遍性を目指す科学的アプローチが採用されております。そしてそのような道徳の科学的研究を行った廣池の動機と目的は、世界の平和と人類の幸福とを増進することにありました。廣池は、天啓、一般多数人の経験の結果、聖人・偉人または宗教の祖師などの教訓、そして哲学および科学の研究を説明する結果は、みな必ず一致すると述べています(『道徳科学の論文』第一巻6263頁)。すなわち廣池の発想の背後には、宗教の教訓も哲学・科学の原理も、おのおの宇宙の真理の一部分が現れたものであるという考え方があるわけです。

 このような道徳・倫理、スピリチュアリティ、および科学に対する考え方は、今まで科学と宗教の対話を続けてこられたダライ・ラマ法王の仏教哲学や倫理思想とも大いに共鳴するものがあるのではないでしょうか。法王は、1989年のノーベル平和賞受賞記念講演で、つぎのように述べておられます。すなわち「宗教や霊性が人間性の考察に果たす役割は大きくなっています。科学と宗教は相反するものではありません。宗教は科学への、科学は宗教への貴重な洞察力を与えてくれます。科学もブッダの教えも、あらゆるものごとは根本的に一つだと説いています。・・・・すべての宗教の目標は同じ、つまり善き人間性を育み、あらゆる人を幸せにしようとするものだと私は考えます」。廣池も、五大聖人の一人であるブッダの実行した最高道徳と科学は根本的に一つだと捉えているわけでございます。

 第二に、廣池は、諸聖人の実行した道徳というものがユニバーサルな基準となるとしたわけですが、もちろん信仰の自由を尊重する立場をとり、個人の宗教的信仰を否定したことは決してありません。それどころか、その宗教的信仰に質の高い道徳をいれることにより、さらにその信仰は合理的になり、個人の品性が高まり、その幸福度も増すと述べています(『道徳科学の論文』第8冊目198頁)。一方、法王も、ご著書『傷ついた日本人へ』(新潮新書 2012年)の中で、自分の心を磨いたり世の中の平和を祈ったりと、宗教には偉大なパワーが宿ることを認めながらも、自分にあった宗教がその人にとっての「最高の宗教」であるとして宗教的信仰の多様性を認めると同時に、無宗教の人には、ユニバーサルな基準として倫理の必要を提唱しておられます(2022ページ)。すなわち、道徳・倫理によるユニバーサル・スタンダードの必要性に対する認識も注目すべき共通点です。

 第三は教育理念です。本学の教育理念について、初代学長の廣池千英は仁愛の精神の必要性を説いています。すなわち「そもそも教育と言うものは、仁愛の精神を学生の精神に植えつけますことが最高の理想であると、私は考えております。そこでこの仁愛の精神のうえに現代の科学、知識、技術、こういうものを教えてこそ初めて教育の目的を達することができるのであります。知識の乏しい人間の罪悪というものは、たいしたことはございません。しかし、教育の高い、地位の高い人間の害悪は、社会に非常に大きな影響を与えるものでございます。したがいまして、高等教育になればなるほど、高いところの道徳心を植えつけることが大切でございます。」これはまさに、ダライ・ラマ法王の教育観に合致するものであります。法王も「教育には愛情や慈悲がベースになくてはいけません。もしそうでなく、相手を懲らしめたい、相手を苦しめたいという気持ちがどこかにあるのであれば、あなたには教育する資格はありません」と喝破しておられるのです(『傷ついた日本人へ』98頁)。これは子どもの躾について言及されたお言葉ですが、まさに大学の高等教育も含めて、教育の根本原理であると確信しております。

 最後に、すでに法王は、平和、非暴力、異なる宗教間の相互理解、人類が抱える世界的な問題に対する普遍的な責任と慈悲心の重要性を訴えるために、世界の50を超える国々を歴訪され、世界23大学からの名誉博士号を含め多くの賞を受賞されていると伺っております。ただ我が国の日本では麗澤大学が法王に名誉博士号を授与する最初の大学ということになります。前述しました世界の平和と人類の幸福という偉大なる目標、仁愛の精神と慈悲心の必要性、科学と宗教の対話など、いずれも本学の建学の精神に合致するものであり、法王に名誉博士号を授与する機会が訪れましたことは、本学にとりましても、また日本国にとりましても、まことに喜ばしく誇らしい慶事であります。これからは法王と廣池学園およびモラロジー研究所との心の対話も継続していただきたく、法王のご健康と、ますますのご活躍を心より祈念して名誉博士号授与のご挨拶といたします。

平成301119日 麗澤大学学長 中山 理