工学部
2023.05.11|最終更新日:2023.10.04|

【後編】データに足りないのはhuman element。データと人の思いをbridgeできる人になってほしい

【後編】データに足りないのはhuman element。データと人の思いをbridgeできる人になってほしい

アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で20年以上にわたって地理情報システム(GIS)の専門家として活動し、2022年9月から麗澤大学に着任した河野洋先生。インタビュー後編では、先生が研究を通して制作した映画のことや、現在担当している授業について伺います。

河野 洋
准教授
日本で生まれ、その後コロンビア、アメリカなど5ヵ国で暮らす。国際基督教大学卒業(社会学)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程修了(都市計画)。専門分野のGISをベースに災害研究に取り組む。大のサッカー好き。
目次

    「現場をもっと知りたい。」アメリカのラボから、震災後の福島へ

    私がGIS(Geographic Information Systems:地理情報システム)の専門家として大切にしているのがhuman element、人間的な要素です。この考えをいっそう強くしたのは、2011年の東日本大震災でした。

    • 震災発生後、私はアメリカで日本の災害状況を分析していました。しかし、震災から3年、4年と経つうちに、違和感を覚えるようになったのです。私は日本から遠く離れたアメリカのラボ(研究所)にいて、現場のことを何も知らない。このまま分析を続けても、導き出したデータは、現場の状況から乖離したものになるのではないかと。私は現場を、そこにいる人たちを知る必要があると思いました。

    • 河野先生

    それから私は福島に通うようになり、地元の人達に「話を聞かせてください」とお願いし、カメラを向けてインタビューするフィールドワークを始めました。話を聞かせてくれたのは、神社の宮司や旅館の女将、避難所で暮らす高齢者、ふるさとを出た若者、農家、市長や町長、そして東京電力の幹部など、原発事故の影響を受けた様々な立場の人達です。

    福島の人達と過ごし、強く印象に残ったのは、自分が暮らしてきた場所に対する、福島の人達の思いの深さです。福島の人達が、どれほど深く土地とつながっているか。それは、データからは決して感じ取ることができないことでした。

    「映画」という新たなビジュアライゼーションに挑戦

    私は福島の人達の声を集め、デジタルマップの代わりに「HUMAN ERROR」というドキュメンタリー映画を制作しました。忘れられた福島の人達が、震災後、どんな思いで日々を過ごしているのか。福島の人達の思いをビジュアル化した、いわば「人間の地図」です。

    • 河野先生
    • 映画は福島を、東京電力本社やアメリカ、チェコ、スロバキアなどでも上映され、たくさんの人が観てくれました。そして、人々が福島のことを理解する手がかりとなりました。私が書いた論文はほとんど読まれることすらありませんが(笑)、現場に入り、そこにいる人達から直接話を聞いてつくった映画は、人々に大きなインパクトを与えたのです。

    データを分析するだけでは見えないものが、たくさんあります。なぜなら、データにはとても重要な要素、human element(人間的な要素)が欠けているからです。大事なのは、データの背後に隠れている、実際にその事象から影響を受けている人達の暮らしや、思いに目を向けることです。データと人の思いをつなげることができて初めて、データは人々にとって、本当に意味のあるものとなります。

    私が教える麗澤大学の学生には、データ分析のスキルを身につけるだけでなく、常にヒューマンレベルで考えられるようになってほしい、そして、いかにデータと人の思いをbridgeするかということに挑戦できる人になってほしいと思っています。

    学生自身のデータを分析。学生にパッションを持たせるのは私の大事な役割

    ご縁があって、麗澤大学でGISを教える予定になり、2022年秋に着任しました。今は、統計学や計量経済学の授業を担当しています。正直なところ、統計学は得意分野ではないので不安でしたが、最初の授業で「統計も日本語も苦手です。でも、一生懸命に勉強して教えます。私を受け入れてくれますか?」と聞いたら、学生の皆が受け入れてくれたので気持ちが楽になりました。

    • 今では授業がすごく楽しいですよ。英語で"Teaching is the best way to learn."というように、教えるとなれば一生懸命に勉強しますから、苦手だった統計学の力も向上して「なんだ、やればできるじゃないか」と思えるのは嬉しいし、私のように統計に苦手意識を持つ学生に、いかにわかりやすく伝えるかを考えるのも面白いです。また、授業中に読めない漢字があると学生が教えてくれるのも嬉しいです。学生も、先生に教えるというシチュエーションを楽しんでいるかもしれませんね(笑)。麗澤大学の学生はとても素直で、皆から毎日、たくさんエネルギーをもらっています。

    • 河野先生

    授業で大事にしているのは、学生の好奇心を刺激することです。たとえば統計学では、学生自身のデータを取って使うのです。自分のデータとなると、学生は興味を持って一生懸命に分析しますよ。興味や好奇心があればパッションが生まれ、どんな学生もすごいパワーを発揮して伸びていきます。学生にパッションを持たせるのも、教員の大事な役割です。どうやって学生の興味を惹こうかと、日々、チャレンジしています。

    2024年には工学部が新設される予定なので、GISを教えられるようになると思うと、楽しみでなりません。できれば英語で教えたい、工学部だけでなくGISを学びたい学生皆に教えられたらいいな、などと夢を広げています。

    あなたの役割、居場所は必ずある。今、自分に何ができるかを考えて動いていきましょう!

    いつも自分が興味のある方へ進み、パッションを注げることをしていきましょう! 研究も、自分が興味のあるテーマを探して取り組めば楽しいし、良い成果を出せますよ。

    そしてもうひとつ。どんな場所、シチュエーションにおいても自分の役割が必ずあるので、それを見つけながら進んでいきましょう。主役もあれば、サポート役や調整役、色んな役割がある中、今、自分に何ができるかを考えて動く。そうすれば自分にフィットするポジションが見つかり、そこから何かを生み出していけると思います。

    最後に、麗澤大学で皆さんと一緒にGISを学べる日を楽しみにしていますよ!

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