外国語学部
2023.03.07

【後編】「対話」を続けた先に生まれる、安心できる仲間の存在

【後編】「対話」を続けた先に生まれる、安心できる仲間の存在

今回ご紹介するのは、仲間との様々な対話ワークを通して、自分の「当事者性」を再発見していく外国語学部の花田ゼミ。多様性の時代の中で大切なことは、互いの違いを認め、積極的に向き合う姿勢だと花田先生は語ります。後編では、実際に花田ゼミに参加して、対話ワークの様子をレポートしていきます!

花田 太平
外国語学部 外国語学科 准教授
英国エクセター大学大学院英文学研究科博士課程修了。専門分野は批評理論、英文学、西洋政治思想史。6年間滞在した英国から帰国後、学術出版社に入社し、約4年の勤務を経た後に、2016年より現職。近年は、文学研究の成果を教育実践に生かすために「対話」と「ナラティブ」に注目して、試行錯誤中。趣味は、映画・サブカルチャー鑑賞。
目次

    学生自身が「問い」を立て、対話がはじまる

    授業開始と同時に、それぞれの名前が記載されたネームカードが配られ、全員が首にかけていきます。同じゼミナールで名前を知っている友人同士でもあえてネームカードを用いるのには、対話をスムーズに進めるための意図があると花田先生は語ります。

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    • 「当然皆さん知った間柄なのですが、いくら仲の良い友人でも一晩寝れば違う面が表れるかもしれません。お互いが『他者』であることを忘れないための戒めとしてネームカードを使います。そのため、私のネームカードも『たいへい』です。この空間において私は、先生ではなくone of them の存在で、皆さんも私を『先生』ではなく『たいへいさん』と呼びます。対話中は誰もが対等な参加者なので、最初は教員という『鎧』を脱ぐのに苦労しました。」(花田先生)

    ネームカード配布後、すぐに円形に椅子を並べ、全員が囲い合うように座ります。そして教科書にしている『<責任>の生成 ―中動態と当事者研究』(國分功一郎、熊谷晋一郎著:新曜社)の輪読会を開始します。事前に定められた4人の学生が、スライドを用いて書籍の内容を発表していきます。聞き手の学生は、スライドを見ながらメモをとる人もいれば、発表者に体を向けて頷く人もいて、様々です。約30分の発表の後、発表者の2人から「問い」が発表され、その問いを元に対話を行うリスニングワークに移ります。

    「『絆』と『つながり』の違いは何だと思いますか? あなたが好きな言葉はどちらですか? それはなぜですか?」
    「自分で決めたことについて他者から反対された時、あなたの中でどんな感情が沸きましたか?」(学生)

    答えのない問いに、2人1組で正面から向き合う

    対話の前に、「問い」を発案した学生からその意図を共有していきます。

    「この本を読んでいて、『つながり』より『絆』のほうが堅苦しく、依存ではないが頼り切っているという印象を受けました。似たような言葉ですが、皆それぞれ捉え方や考え方が違うのかなと思ったので、その理由を含めて聞きたいと思い、この問いを立てました。」(学生)

    「問い」を元に対話の時間へ。2人1組になり、それぞれ5分ずつ計10分間の対話(リスニングワーク)をしていきます。個人的な感覚の話から始め、その裏付けとなる理由を丁寧に言語化していきます。

    • 「私にとって、『絆』は『つながり』よりも強くて少し圧力を感じる印象です。『絆』はずっと一緒にいて絶対に裏切らないような関係であり、一方、『つながり』は緩やかで自然体というイメージがあります。そういった意味では、今の私はつながりのほうが好きかもしれません。たとえばこのゼミナールはまさにつながりを感じる場所だという気がして、皆同じ空間にいて否定も肯定もしない、自分そのものを受け止めてくれているという感覚です。こういう関係をつながりと言うのだろうなと感じています。」(学生)

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    それぞれ終了時間を考慮しつつ、対話が終了したタイミングで自ら挙手をします。全員の手が挙がったら終了です。そうすることで、話し込んでいるペアの対話を時間制限で強制的に断絶しないような工夫がされています。

    全体に自分の話をする「哲学対話」で、問いを広げる

    ペアでの対話を終えて、続いては全体での対話(哲学対話)を30分間(15分×2回)行います。再び円形に椅子を並べ、半分の学生は前に椅子を移動し、小さな円を大きな円で囲む形式を取ります。

    「これは哲学対話の手法の一つでフィッシュボウル(金魚鉢)といって、大人数で対話をする時に用いる形式です。人数が多いと明らかに対話がしづらいので、半分に分かれて、後ろの人はオーディエンスになります。前半のグループが終わったら交代し、後半の人たちは前半のグループの話に触れて話をしても構いません。」(花田先生)

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    • テーマは再び学生から発案されます。今回は「あなたは何かを覚悟したことはありますか? また、覚悟と諦めに違いはありますか?」というものです。この哲学対話では、話す順番は定めず、挙手した学生から毛糸のボールを受け取って話をしていく形式をとっています。これは「聞く」と「話す」を丁寧に分ける工夫の一つであると花田先生は言います。一人の学生が話を終えると、そのタイミングでまた別の学生が手を挙げ、ボールを受け取り、話し手が移っていきます。こうした形式の中で、「問い」に対して、進路の話やこれまでの人生の話など、それぞれが思うことを自由に話していきます。

    「参加者が直接やりとりするのではなく、イメージとしてはそれぞれの言葉を中央にある見えないお盆の上に置いていく感じです。異なる意見に対して否定的な態度で応じる参加者はいません。語られる内容以上に各自の語りのトーンを味わいながら、対話を続け、広げ、深めることを目指します。」(花田先生)

    「私は、進路選択の際に覚悟をしたと思っていて、企業からの内定を2つお断りして教員になることを"覚悟"しました。そして、諦めには2種類あるように感じています。たとえば金銭的な理由で読みたい漫画を買えず、今はお金がないから来月買うしかないという、結果が寂しいだけの"諦め"がひとつ。もうひとつは、先ほどの企業から内定を頂いた話ですと、どちらかの内定を諦めないと先に進めないという、大きな覚悟をした上で必要だった"諦め"です。」(学生)

    対話の本質とは? 非効率に見えて、長期的には大きな効果をもたらす

    授業後に花田先生は、一見非効率的であるとも思える輪読会や対話ワークの本質的な価値について話してくださいました。

    「いつまでも話が続く時もあれば、沈黙が生じる時もあり、それらは日常のコミュニケーションにおいてマイナスだと思われることがあります。他方で、長くしゃべりたい人は、実は長くしゃべる必要がある状況に置かれているともいえます。そういう時でもありのままに話せる環境、時にはダラダラとしゃべりながらも、それに全員が付き合う空間は安心感につながっていきます。その場では非効率に見えるかもしれませんが、長期的に見ると大きな教育効果をもたらすと思っています。」

    学生自身が将来悩みを相談でき、自ら安心できる場をつくれるようになってほしいと願う花田先生。先生がつくるこのゼミナールそのものが学生にとってありのままの姿でいられる空間になっているようです。彼らがここでの経験を糧に将来どんな人間になっていくのか楽しみです。

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