教職員
2024.03.07

【後編】今が全てじゃない。「好き」はこの先の人生で、大きな財産になる

【後編】今が全てじゃない。「好き」はこの先の人生で、大きな財産になる

大学卒業後「日本語教育」の道に足を踏み入れ、日本語教育の現場で実践と研究を積み重ねてこられた井上先生。麗澤大学では、主に留学生向けの授業をご担当され、日本語教育に興味がある学生と留学生が互いに学び合えるクラスづくりを目指されています。後編では、麗澤大学に着任されるまでのキャリアと、ご担当されている授業について伺います。

井上 里鶴
国際学部 国際学科 講師
大学卒業後、日本語教育の道へ。日本語学校で教師を務めながら、筑波大学 人文社会科学研究科 国際日本研究専攻 博士後期課程修了。日本語教育に携わって約20年。留学生、企業で働く人、地域に住んでいる人、子どもたちなど、様々な背景を持つ人への日本語指導に従事。近年は、地域の日本語教室や学校教育現場、行政機関などで、日本語指導の方法や「やさしい日本語」に関する研修に携わる。2022年度より麗澤大学に着任。専門は、日本語教育、サービス・ラーニング。
目次

    「私がやっていることは理論に適っている?!」偶然の発見から大学院へ

    日本語教師を務めて、約8年の時が経った頃でした。とある大学に研究会で赴いた際に、ふと2冊の研究雑誌が目に入り家に持ち帰ったのですが、そこに記載されていた論文に大きな衝撃を受けました。その論文というのは、サービス・ラーニングと日本語教育を結び付けた論文で、私が日本語学校で行ってきた地域社会との交流が、実は教育活動のひとつとして理論に結びついていたということを初めて知ったのです。

    • 日本語学校で企画・開催したイベントについて、私は「楽しいから」「留学生の学びになるから」「地域の人たちとの交流の場になるから」といった一過性の部分で考えていた面がありました。しかし、その論文を読んだ時に自分がやってきたことが単なるイベントではなく、理論に適った実践だったということに気づかされたのです。本当に偶然だったと思います。そこから大学院進学を目指すことになるのですが、その時点で、大学を卒業してからすでに10年の月日が経過していました。

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    大学院では「サービス・ラーニング」をテーマに、研究を深めました。実践をしながらデータを取って論じていかなければならないので、大学院に通いながら、ずっと日本語学校で地域社会と関わりながら教えることも続けていました。

    ※ サービス・ラーニング:教室で学んだ学問的な知識や技能を、地域社会の課題解決に向けた社会的活動に生かすことを通して、学生の学びや成長を促すことを目的とした教育方法。

    留学生と日本の学生のアカデミックなコラボを目指して

    博士課程を修了後、専任講師として大学に務めたのは、麗澤大学がはじめてです。私は主に留学生を対象とした授業を担当しているのですが、そのひとつに「日本事情演習」という授業があります。麗澤大学では、基本的に留学生は日本語の習熟度別にクラスが分かれているのですが、日本事情演習では初級後半レベルから上級レベルまで様々な日本語力をもつ留学生が混ざって、日本人学生と交流をしながら、テーマに沿って一緒に学びを深めていくのが特徴です。

    麗澤大学には「クラスゲスト」という制度があり、留学生と交流したい日本人学生や、日本語教育に興味がある学生は、この制度を活用して、留学生対象の授業に参加することができます。この日本事情演習もクラスゲスト制度を適用しているのですが、特に大切にしていることは、留学生と日本人学生が互いに学び合える環境をつくるということです。クラスゲストと名前がついているように、授業によってはただ発表を聞くだけのゲストとなってしまいます。なので、留学生と日本人学生が一緒にテーマに沿って調べたり、発表したりする授業を行い、積極的な交流を促すことで、互いが対等に学べるよう、留意しています。

    多様性の理解を深めることができた「高大連携プロジェクト」

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    • 昨年、高大連携プロジェクトの取り組みの一環で、高校生に大学の学びに触れてもらうことを目的としたプログラムのひとつを担当させていただきました。テーマは「多文化防災」です。現在、在留外国人の数は過去最高で300万人を超えていて、日本語のスキルが心もとない外国人が、災害時に正しい避難情報にたどり着けなかったり、避難所でどう振る舞えばよいかわからなかったりするという問題があります。日本国内では、今後もっと増えていくであろう在留外国人との共生が重要視される中で、日本の若者に災害時にどう動くかを考えてもらいたいと思い、このテーマを選びました。

    プログラムには、「やさしい日本語」を学んでいる麗澤大学生と、留学生、高校生が参加し、主にディスカッション形式で皆で一緒に語り合いました。参加してくれた高校生が、「外国人で困っている人がいても、今までは勇気がなく声をかけられなかったけど、『やさしい日本語』を学んで、これからは勇気を持って声をかけてみようと思う」と感想を話してくれた時は、とても嬉しかったです。外国人に対しての心理的ハードルを下げることができ、多様性への理解を深めることができたこの高大連携プロジェクトは、大変意味のあるものだったなと実感しています。

    大事にしていることは「心に火をつける」こと

    授業とは、情報を伝える、知識を授ける場ではありますが、そこで止まってはだめだと、常に心して学生に向き合っています。まず必要なのは、情報にアクセスする力だと私は考えています。たとえば講義や研修の中で「あとでこの参考文献を読んでおいてね」と言っても、本当にあとでその情報にアクセスする人は少ないと思います。そこで、私の授業では、その場でアクセスする時間を取るようにしていて、情報のありかを示し、たどり着くところまでガイドすることを心がけています。その上で、自分の関心のあるものへの理解を深めて、情報をまとめて発信する応用力をつけていってもらいたいと思います。自分の関心のあるものに向かってもらうために「心に火をつける」ことを、どの授業においても、もっとも大切にしています。

    好きなことは変わらない、色々な可能性につながる

    • 高校生に伝えたいのは、今が全てではないということです。タイミングは人それぞれで、私は学びたいというタイミングが社会に出てからでした。実践を積みながら、学びたいと思う分野に出会えたからこそ大学院に入りました。人生のタイミングは本当に様々なので、たとえば今、この時期、何も学びたいことがないとか、やりたいことがわからないと思っている人はそれでもいいと私は思います。

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    焦って無理に見つける必要もないし、何かちょっとおもしろそうと思ったら、それでいいのです。好きなことは10年、20年先も変わらないし、その好きな気持ちは将来色々な可能性につながります。だから、今自分が好きなことを忘れないでいてほしいです。タイムマシンに乗って高校生の自分に伝えるとしたら、そのようなことを言ってあげたいです。

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