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2023.01.06|最終更新日:2023.10.04|

【前編】日本スポーツ界にイノベーションを!

【前編】日本スポーツ界にイノベーションを!

麗澤大学でスポーツビジネスや健康科学などを教えている井下佳織先生。スポーツビジネス専攻の学生が進めるプロ野球・サッカー・ラグビーを盛り上げるために各種イベントの企画立案・運営の全体をとりまとめ、学生の実践的かつ主体的な学びを支援しています。学外では、(公財)日本スポーツ協会コーチ養成や(公財)全日本空手道連盟「空手道指導者資質向上事業」に携わっています。その他、アスリートのメディカルサポートや中学校空手道授業の指導者育成および教材・指導法開発にも従事しています。前編では、井下先生のスポーツにかける想いと、これまでの歩みや現在の取り組みについて伺います。

井下 佳織
経済学部 准教授
スポーツビジネス専攻 専攻長
日本体育大学大学院体育科学研究科体育科学専攻博士課程修了。博士(体育科学)
国際武道大学体育学部助教、帝京平成大学地域医療学部講師を経て2016年に麗澤大学着任。
現在は麗澤大学の空手道部と馬術部の顧問も務める。
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー・コーチ4(空手道)
日本武道学会理事・日本武道学会空手道専門分科会理事・事務局長
全日本空手道連盟学校武道推進委員
目次

    大学で学んだ「アスレティックトレーニング」の知識・スキルが人生の転機に

    ―空手との出会いについてお聞かせください

    私が空手を始めたのは9歳の時でした。それまでは、地元の少年野球チームで野球をしていました。同じチームに、家が空手道場の上級生が「空手をやってみない?」と声をかけてくれて道場に通い始めたのが空手との出会いでした。

    高校では空手道部に入り、1年間の内360日、毎日5〜7時間練習していました。高校3年のインターハイでは団体組手競技で3位になり、その後、保健体育教員になるため、体育学部大学へ進学し大学でも空手道部に所属して競技を続けました。大学時代の最高成績は関東体重別選手権で2位という成績にとどまり、選手として成功したとは言えない状態でした。

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    • 大学院時代には2年ほど麗澤大学教職員空手道クラブ(2000〜2005年麗澤大学空手道同好会コーチ)というチームを立ち上げ、新たな環境で実業団の大会にも挑戦しましたが、成績は振いませんでした。その後は、全日本空手道連盟学校武道推進委員として中学校体育授業用空手道教材や指導法開発、日本スポーツ協会コーチ養成講習、日本武道学会理事として武道・空手道振興、全日本大会や千葉県強化選手など選手のメディカルサポート、中学校体育授業での生徒への空手道指導などの機会をいただき現在に至ります。

    ―大学ではどのようなことを学んだのでしょうか?

    大学では保健体育教員になるため、教職やレクリエーションのほか、コンディショニング科学ゼミナールに入り、「アスレティックトレーナー」として必要な知識とスキルをプロや大学のスポーツ現場で学ぶ機会を得ました。アスレティックトレーナーとは、スポーツドクターやコーチなどと協力しながら、アスリートが最高のパフォーマンスができるように健康管理や怪我の予防、応急処置、リハビリテーションのようなサポートを行う専門家です。このゼミナールに入ったきっかけは、これまで自分自身が経験したスポーツ・空手道の現場では、競技で良い成績を納めるためにはケガをしてでも練習やトレーニングをして、ケガを抱えたままの状態でも毎日練習を欠かさない、勝利至上主義のもとで笑顔や会話はなく、厳しさに耐えれば成功するといった、根性論のスポーツ現場ばかりでした。また、経験してきた様々なスポーツでのコーチングは、本来のスポーツの持つ価値、子どもの健全な育成やアスリートを中心とした主体的・対話的な活動とはほど遠く、プレーヤーの尊厳は無視された環境でした。これでは選手としてスポーツに打ち込めば打ち込むほど心身が疲弊します。これを成功体験として捉え、次の世代に繰り返してしまうことが問題です。

    自分自身の競技にも活かしたいということと教員になることが目標だったので、理論的な裏付けを持ち、プレーヤーを中心としたコーチングが将来できるよう、コンディション管理の方法やケガの予防、リハビリテーションの方法などについて学び、将来スポーツをする人が安心して楽しみ、生活が豊かになる環境づくりをすることで、日本スポーツ界を変えたいと考えていたのです。

    • ゼミナールを通じた「学生トレーナー」としての活動は、地元のプロサッカーチームのフィットネス評価とフィードバック、学内の各スポーツ種目のクラブごとの体力測定、部員のコンディション管理、体力測定、ケガをした際の応急処置、リハビリテーション、ケガ予防のコンディショニングと多岐に渡ります。体育大学なので周りの学生は皆アスリートですから、毎年新入生のメディカル・フィジカルチェック、空手道部では選手兼トレーナーとして部員の体力測定、コンディション管理、トレーニング、ケガをした部員の応急処置や復帰までのリハビリテーションを担当しました。トレーナーに必要なスポーツ医科学を実践的かつ専門的に学び、日本スポーツ協会アスレティックトレーナーの資格も取得できました。

    • sports19.jpgのサムネイル画像【2018年関東大学空手道選手権大会2部優勝した空手道部メンバーと井下先生】

    日本のスポーツ界を変えたい! スポーツは勝つことがすべてではない

    ―卒業後はどんな道を歩まれましたか?

    最初は保健体育教員になるつもりでしたが、大学4年次の時に当時全日本空手道連盟のナショナルチームのコーチをされていた豊嶋建広先生(麗澤大学経済学部特任教授)と出会い、大学院への進学を進められ日本体育大学大学院運動生理学研究室でアスリートを対象とした減量の研究やトレーニングの指標となる運動中の生理的動態や心理的変化、栄養状態、血液や体水分の変動などの研究に取り組むことになりました。

    というのも、大学やその後トレーナー活動や指導者養成講習などに携わるようになるうちに、日本のスポーツ界・空手界を変えたいと思うようになったからです。私自身もそうでしたが、スポーツ選手はケガがとにかく多いのです。試合に勝つために毎日限界まで練習しているので、体がボロボロになってしまいます。勝利至上主義と現場の知識不足から様々な弊害が生じているのです。果たしてそれで良いのかと疑問を持ち、この状況を変えたいと思いました。そもそもスポーツは勝つことがすべてではないですし、正しい知識を持って適切なトレーニングやリハビリテーションを行えば、ケガを予防しながらパフォーマンスを高めることができます。

    学生とともに、スポーツにしかない価値を活かしたビジネスで豊かな社会をつくりたい

    ―現在の取り組みについてお聞かせください

    2022年現在、麗澤大学において私はスポーツビジネスのほか、レクリエーション理論と実習、スポーツ指導法、救急処置法、スポーツコンディショニング、スポーツ実習(空手道)などの授業を担当しています。学外では、日本スポーツ協会コーチ養成や空手道指導者の資質向上のための事業に携わり、アスレティックトレーナーとしてアスリートのサポートをしています。2021年に実施された東京2020オリンピックでは空手競技会場のメディカルスタッフを務めました。また、2012年から中学校の保健体育科で武道が必修化したことに伴い、2020・2021年度スポーツ庁委託事業として、スポーツ庁武道等指導充実・資質向上支援事業の全国の中学校における空手授業を行う上での課題や効果についての調査、教材制作なども担当しています。美しさや力強さの表現など芸術的な要素も取り入れて、やる人も見る人も心が豊かになる、かつ、楽しい武道の授業づくりに挑戦しているところです。

    ―先生の夢を教えてください

    • sports20.jpg【TOKYO2020 オリンピック空手競技において世界空手道連盟医事委員長のRafael Arriaza医師と共にメディカルスタッフとして参加】
    • Sports(スポーツ)の語源は、ラテン語の「deportare」です。 この語は、日々の生活から離れること、すなわち、気晴らしをする、休養する、楽しむ、遊ぶなどを意味しました。スポーツの意義は、その人の生活が少しだけ彩られ、単調な生活を少しだけ豊かにすることに他なりません。
      私の目標は、全ての人がスポーツを楽しみ、スポーツを通して人生を豊かにできる社会にすることです。麗澤大学で学んだ学生が、将来それぞれの場所でスポーツの価値や可能性を広げることによって、スポーツ界にイノベーションが起こる。そう信じています。

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