卒業生の活躍
2023.01.27|最終更新日:2023.10.04|

【後編】「素材で世界を変える!」名門紡績会社を継ぐ5代目社長の挑戦

【後編】「素材で世界を変える!」名門紡績会社を継ぐ5代目社長の挑戦

明治20(1887)年に創業し、今年で135年目を迎えた名門長谷虎紡績株式会社を継ぐ若き5代目社長の長谷享治さん。長い歴史の中で培われた「ものづくり」の技術と知識を生かして、時代の変化に応じた新しい素材や製品の開発に邁進しています。後編では、長谷さんの今後の挑戦と、ファミリービジネスを学ぶことについて、お話を伺います。

長谷 享治(ハセ タカハル)
長谷虎紡績株式会社 代表取締役社長
【国際経済学部 国際経営学科(現在の経済学部 経営学科)2003年3月卒業】
1980年1月11日生。大学卒業後、新卒で長谷虎紡績に入社。大阪支社やカーペット事業、中国子会社の社長、高機能素材「光電子®」を扱う株式会社ファーベストの社長などを経て、2019年12月に長谷虎紡績グループの5代目社長に就任。
目次

    創業135年。次の時代に向け、環境負荷を改善する時

    当社には「素材で世界を変える!」という大きな夢がある一方で、毎日が苦労の連続とも言えます。長い歴史と伝統はありますが、時に様々な仕組みが時代にそぐわなくなっていることを感じます。会社を支えてくれている社員の中には、変化に対してネガティブなイメージを持っている人もいます。ただ、こうした中でいかに社員を巻き込んでいくかが大切だと思っています。

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    • また、私自身最も苦労したことのひとつが、中国事業からの撤退でした。撤退のために現地の人々を解雇しなければならず、自分たちの会社に関わる人を、幸せにしていきたいという創業以来大切にされてきた考え方がある分、この経験は非常につらく、生涯忘れることのできない出来事でした。ただ、この時の経験が「我々が世の中に必要とされるかどうかが重要」という学びにつながっています。中国事業撤退の要因は、我々の技術が必要とされなくなったことにあります。以前は我々にしかできなかったことが、今では中国国内のメーカーもできるようになっているなど、時代が進むにつれて業界の状況は変化しており、必要とされることも変わっていきます。だからこそ、私たちはそうした変化に順応していく必要があると思っています。

    そうした視点でも、私たちは今、社会課題を解決していくことを重要視しています。世界の人口は80億人を突破し、この10年間で10億人も増えている状況にあります。その結果、世界で消費され捨てられている繊維の量はこの20年で2倍に増えており、環境に負荷がかかっています。最近はリユースも活発に行われていますが、それも使い古したら最後は捨てられてしまう。そうした課題を解決するため、タンパク質から繊維素材をつくるベンチャー企業などと、あらゆる素材を糸にして製品化できる私たちの技術や知識を組み合わせることで、環境に負荷をかけない事業に力を入れています。長い歴史の中で培った技術力や知識力を活かしながらあらゆるチャレンジをしていく。こうした取り組みを続けることで、私たちの存在価値は大きくなっていくと思っています。

    学生時代に学んだ「道経一体」。経営者になって重要性を実感

    麗澤大学での経験や学びは、今の仕事に非常に役立っています。特に道経一体1に関する学びでは、人材教育をする目的や、徳を積んでいくことの大切さを体系的に学ぶことができました。家業が100年以上継続することができているのも、こうしたことが実行されてきたからだと理解できましたし、経営者になり自ら実行する立場になった今、なおさら重要性を実感しています。また、大学生活での同級生との関わりの中で、思いやりや優しさといった「人として」必要なことを、麗澤大学という様々な学生が交わる環境の中で肌に感じ体験できたことは、今仕事をする上で非常に役立っています。

    麗澤大学において2024年度設置構想中の経営学部「ファミリービジネス専攻」は、日本の中小企業事情に合った新しい学びの形だと思っています。日本にはファミリービジネス※2をしている中小企業が非常に多く、その当事者になる人も数多くいる中で、どうしたらファミリービジネスがより発展していくのかを学問として学ぶことは、重要だと思っています。私が学生の時は、同じような立場の同級生が近くにはほとんどおらず苦労しました。こうした環境や同じ志を持つ人が近くにいれば、良いことだけでなく、失敗や苦しみも含めて共有し合うことができます。そうしたオープンで価値のある環境は、大学だからこそ実現できるのだと思っています。

    ※1:麗澤大学の創立者 廣池千九郎(法学博士)が説いた「道徳と経済は一体であり、経済の繁栄も高い品性と道徳観を基礎として初めて可能になる」という思想。
    ※2:同族経営、オーナー企業。

    学び続ければ、自分の可能性は大きくなる

    • 現在の私の大きな目標は「素材で世界を変える」ことです。人が最も長い時間触れているプロダクトは繊維であり、私たちはお風呂に入る時以外、ほとんどの時間を繊維に触れて過ごしています。一方で、繊維業は世界で2番目に環境に負荷をかけている産業でもあります。これから世界の人口がさらに増えていく中で、このままだと私たちの子どもや孫の世代は安心して暮らすことさえできなくなるかもしれません。だからこそ、色んな複雑な繊維を糸にすることができる私たちの「ものづくり」の技術と知識で、環境負荷の少ない、今までにない素材開発を進め、素材によって未来を変えていきたいと思っています。

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    これから大学進学をされる高校生の方々に伝えたいことは、どの大学・企業に入るかも重要だと思いますが、そこで何を学ぶかが一番重要だということです。目的を取り違えないでほしいですね。自分は何をしたいのかを考えてほしい。もちろん「したいこと」はすぐに見つかるものではないかもしれません。ただ、学ぶことには意義があります。学び続ければ、自分自身の可能性を大きくすることができます。どんな環境で、誰と学ぶか、そして誰から学ぶか。そういう意味では、私は麗澤大学で学ぶことを選択し、本当に良かったと思っています。実際に社会に出て働きはじめ、現在は経営者という立場で日々仕事をする中で、人とのご縁が私たちの人生を彩り、価値あるものにすると感じています。大学でたくさんの人と出会い、たくさんの学びと気づきを得て、皆さんの人生を彩ってほしいと思います。

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