【麗澤大学監修】 現代社会は多くのデジタル機器やデジタルサービスが使用され、膨大なデータが日々生み出されています。データはこれまでも意思決定や社会課題の解決、ビジネス創出・発展のために利用されてきました。情報化社会が急速に発展する現在、データサイエンスが注目を浴びています。 そこで、データサイエンスの基礎知識や注目される理由、データサイエンティストの仕事や求められるスキルについて、麗澤大学工学部の新井亜弓先生、小塩篤史先生、鈴木高宏先生に解説してもらいました。
データサイエンスって何?
データサイエンスを活用すると、統計的手法や機械学習モデルなどで得たデータから傾向やパターンなどを引き出せます。さらに、その知見を用いて物事を予測できるようになります。
例えば、ショッピングサイトの購買パターンを分析することで、消費者の潜在的なニーズを予測できます。それをもとに、買い合わせの商品をおすすめするような新しいサービスの創出につなげられます。
データサイエンスが社会で活用されるまでの流れ
データサイエンスの世界では、社会で起きている事柄を分析し、そこで得た知見を活用するまでに次の3つのことを行っています。
1.データの集積
データを扱う上で、最初に取りかかるのが「集積」です。現代では、デジタル機器やデジタルサービスに個人情報を登録するため、膨大なデータが蓄積されています。また、目的に応じて事前にプログラムを組めば、1人ひとりの行動や思考のパターンなどを正確に把握・予測でき、ユーザーのさまざまなデータを集めることも可能です。
2.データの分析
次に、集積したデータを分析します。どのように分析するのかは、データの使い方によって指標を設けるため、異なります。例えば、ショッピングサイトのデータを分析する場合を考えてみます。
ショッピングサイトを利用するユーザーの特徴を分析することで、サービス向上を目指す場合、サイトを訪れるユーザー属性として年代や性別、位置情報などを数値化して、グラフやチャートとして整理できます。これにより、ユーザーの特徴や傾向を明らかにできます。
また、ショッピングサイト上のユーザーの行動状況もデータとして取得し、分析できます。「どのような商品を閲覧しているのか」「実際に商品を購入したのか」などが行動データにあたります。このようなデータを取得・分析することでユーザーの行動パターン(購買パターンなど)を明らかにし、ユーザーの潜在的なニーズを予測できるようになります。
現代では、データを用いて社会やビジネスの課題を解決するため、サービスを提供する側がさまざまな目的や用途に応じて指標を設けて分析しています。
3.データから得た知見を活用した課題改善・ビジネス実用化
データ分析から得られた知見を活用すると、新しいサービスやビジネスをデザインできます。例えば、ショッピングサイトに新たな機能を導入したり、将来ローンチするサービスを設計したりする場面で、データを役立てています。さらに、新しいビジネスチャンスを生み出すためにさまざまなデータの集積・分析を行います。
デジタル機器やIoT(Internet of Things)の発展により、人間がこれまで気づくことができなかったデータが急速に生み出されていることは間違いありません。そのため、社会やビジネス業界で課題改善や実用化を目指すにはデータサイエンスの基礎知識はもちろん、さまざまな分野の広い知識や多様な視点を持ち、全体を俯瞰して設計していくことが求められます。
データサイエンスはロボットやAIと深く関わる
実はロボットの分野にもデータサイエンスは深く関わっています。
近年はロボットやモビリティ(移動体)を通じてデータを収集する
社会をよりよくするため、現在ではさまざまなロボットやモビリティからデータを自動収集し、AIに学習させて膨大な知見を得る取り組みが増えています。
スマートフォンからは移動データなど多くのデータが自動で集められていますが、同じように自動車や鉄道などからも同様のデータが集められます。今後自動運転車やロボットが普及すれば、より多くのデータが集められると考えられます。
固定されたセンサと異なり、ロボットは自ら必要なところに移動できることから、より効率的に必要なデータを集めることが可能です。データを扱う目的は社会に、人々の生活に役立てることなので、人が利用する場所や人の行動に結びつけることは重要な要素です。
膨大なデータはAIを活用して学習させる
AIの分野では、これまで人がつくったプログラムを模倣するのが主流でしたが、大きく変化しました。今はAIにビッグデータを流し込み、機械学習と深層学習を通じて多くの知見が得られ、精度は日々向上しています。
ChatGPT(ユーザーが入力した質問にAIが答えるチャットサービス)などに代表されるように、AIの自動学習は実装化されています。ロボットのプログラミングはより複雑なため、実際に人が動かしたデータなどを用いてAIに学習させ、効率的にロボットの制御プログラムをつくることに役立てています。
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「AIとロボットに違いはある?関係性やAIやロボットに関わる職業・仕事内容もあわせて解説」(Reitaku Journal)
https://www.reitaku-u.ac.jp/journal/1776765/
データサイエンスが注目される理由
データサイエンスが注目される主な理由の1つは、ビッグデータが活用できるようになったからです。デジタル機器やIoTの普及によって、人々が日常的にさまざまなサービスを利用し、データが膨大に集積されるようになりました。これにより、例えば「他社との差別化を図るため、自社で集積したデータを使ってビジネス戦略を練る」ことが積極的に行われています。
ビジネスにおけるデータ活用への注目度は、近年急速に高まっています。これは、技術開発の進歩により膨大なデータが生み出され、同時にそれらのデータを高速で処理できるシステムやツールが利用可能になったからです。データ活用の環境を整い、データから知見を得てそれを社会やビジネスに役立てる、ということが以前より身近になりました。そのため、データサイエンティストの需要が伸び続けています。
政府がプロジェクトとしてプログラミング教育に力を入れ始めたのも、このような背景があるからです。近年はデータをうまく活用して利益を上げる企業が数多く出てきており、データサイエンスに必要な基礎スキルを身につけられる学校も増えつつあります。
参考「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jakunensou.html
参考「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/miraino_manabi
データサイエンティストとは?
データサイエンティストとは、一般的にデータを扱う専門家のことを指します。データサイエンスの仕事は複数の領域に渡っているため、データアナリストのようにデータを分析する専門家を指す言葉も存在しています。
データサイエンティストの役割は、目の前にあるデータを分析するだけではありません。データの蓄積方法を考えたり、まだ得られていないデータを見つけたり、分析手法を開発したり、分析によって新たなサービスやビジネスの創出に貢献したりすることも、データサイエンティストの役割です。
またユーザーや顧客と対話し、フィードバックを通じて今後の開発の方向性や改善点を定めるのもデータサイエンティストの仕事の1つです。もちろんデータ分析の手法自体を改良したり、データからさまざまな予測をしたりするニーズも増えおり、データサイエンティストに求められる役割や仕事としてカバーする範囲は幅広くなっています。
自分が活躍したい分野や、取り組みたい課題によって扱うデータの特徴や専門性が異なることもあります。そのため、今後はデータサイエンティストも得意分野などによって役割や業務が細分化される可能性があります。一方で、細分化された専門領域を組み合わせて、新たな知見を創出することも求められているため、広い視野と学び続ける力を持つことがますます大切になっています。
データサイエンティストの仕事
今データサイエンティストが活躍している代表例の1つが、小売業やサービス業などの分野です。消費者の購買行動に関するデータから、それに基づいたサービスやツールを開発し、多くの購買に導くことで経済的なインパクトを与えています。
また、スポーツ業界もデータサイエンティストが活躍している分野の1つです。ラグビーでは選手にGPSトラッカーを装着し、練習や試合の活動データをリアルタイムで集めて分析し、瞬時に次の指示を導き出すといったことが当たり前になっています。
ほかにも、サッカーでは選手データの分析結果やボールの動きを可視化して試合の観戦客や視聴者にリアルテイムで提供し、わかりやすい解説に役立てることでエンターテインメントを提供しています。
社会で活躍できるデータサイエンティストとは
時代の変化とともに、データサイエンティストの役割は進化してきました。今後も加速度的に技術が発展する中で、データサイエンティストが活躍し続けるためには、技術的な側面に加えて、考える力やコミュニケーション力が大切になってきます。
これまで、データサイエンティストのようなエンジニアを輩出してきた多くの教育現場では、プログラミングに必要な数学や統計学といった学問や技術的な教育に力が入れられていました。これからは技術的な領域が簡易的に実践できる環境が整備されたことも相成り、近年はユーザーとの対話やフィードバックを開発に反映できるソフト面のスキルも問われています。
例えば、データを分析して何かを導き出す際には要件定義(業務の流れを整理し、何をつくるか決めること)を行います。その時に現場の課題を理解していないと、求める結果を導き出すための開発ができません。
データ分析の結果から導き出した方法や結論がエンドユーザーにとって必要なものなのか、活用後にどのような改善点があるのかなどを理解した上で要件をまとめ、それをもとに設計を行うためにはデザイン思考、考える力やコミュニケーション力は不可欠です。実社会におけるサービスの開発では、さまざまな専門を有したチームで協働することが多いため、メンバーとよりよい関係を築く力も必要です。
仮に技術的な面をハードだとすると、考える力やコミュニケーション力はいわばソフトです。ソフト面を磨くためには「事象を理解する」「物事を掘り下げる」「周囲と共有する」「チームで話し合う」といった力が必須です。今後データサイエンティストを目指すには、常に考え続けて能動的に動くというソフト領域の力をつけていくことも重要になります。
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「デザイン思考とは?ビジネスシーンで注目されるアプローチ法について知ろう」(Reitaku Journal)
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データサイエンスってどう学ぶの?
データサイエンスの学びには、分野横断的な側面が多くあります。基礎的な知識や能力を身につけるために、統計学やプログラミングといった技術的なカリキュラムを基礎として学習します。この時に大事なのは1つひとつの学びが違う領域とどのような関係性を持っているのか、つながりを構築できるのかをイメージしながら習得することです。
また、さまざまなデータが生まれる社会の仕組みについても理解する必要があります。加えて、データを扱う領域はプロジェクトとして多くの人と関わるため、進め方やチームの連携方法についても学ばなければなりせん。社会や他者との関わりを念頭にデータから導き出した結果や結論が活用される出口をイメージし、今学んでいるものがどの領域のものなのかを理解しながら勉強する必要があります。
麗澤大学で学ぶ「データサイエンスと社会の関係性」
データサイエンスを活用して得られる知見やサービスを実社会で役立てるには、技術的な側面以外にも学ぶべきことが多くあります。「データサイエンスと社会の関係性」という観点で考えると、主に次の3点が挙げられます。
1.ユーザーとのコミュニケーション
データを活用したサービスが「どのように使われるのか」「なぜ必要なのか」といった問題意識を持つことは大切です。なぜなら、どんなにすばらしいサービスも使ってもらえなければ意味がないからです。
そのためには、ユーザーの視点に立つこと、ユーザーからのフィードバックを得ること、さらにフィードバックをよりよいサービス開発に役立てられるようになる必要があります。また、技術的な知識やスキルのほか、デザイン思考や論理的に物事を考える力なども身につけます。
麗澤大学では、自主企画ゼミと呼ばれる特別な実施形態のゼミがあります。プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)といわれる課題解決型学習を通じて自ら課題を発見し、その解決方法を考える力を養います。また、サービスを使う側のニーズを中心に据えて問題解決を目指す、デザイン思考を実践型の講義で学びます。これにより、使う側に共感できる力を養います。
2.倫理的観点で考えること
データサイエンスを活用したモデルやアルゴリズムは、時に間違った判断や偏った予測をしたり、人を傷つける結果を提示したり、社会的規範を逸脱した提案をもたらしたりする可能性があります。
そのため、開発した技術やサービスが社会でどのように使われるのか、さらに社会にどのような影響を与えるのかを考えることができる、倫理的な知識と視点を身につけることが大切です。学問としてデータサイエンスを学ぶことに加え、実務家やさまざまな専門家の講義を通じて、広い視野を持って実社会の課題に目を向けて考えることができるようになります。
3.プライバシーや個人情報の取り扱い
データの収集、利用、保存、共有に関しては国や地域、組織によってさまざまな規制やガイドラインがあります。扱うデータに適した規制などをチェックすること、プライバシーの保護が担保されない状態でデータを活用することにより生じるリスクについても、授業で学ぶ機会があります。
麗澤大学サイト「データサイエンス教育」
https://www.reitaku-u.ac.jp/about/global_leader/#linkDataScience
工学部生が学ぶデータサイエンス
工学部では、プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)を積極的に取り入れた授業を行っています。チーム単位でプロジェクトを実行する中で、自分の得意分野を見極めながら学んだことを「実社会でこのように実現したい」「このような会社であれば得意なところが活かせる」という社会における活用シーンを解像度高く考える力を身につけてもらいたいと思っています。
データサイエンスに関する授業カリキュラム
データサイエンスの授業では、数学が大事になります。その上で、情報システム工学専攻では、プログラミング思考をソフトウェアやアプリケーションに触れながら学びます。また、ロボティクス専攻では物理の世界を知る必要があるため、ロボットを稼働させるためにプログラミングして動かすという実践的なカリキュラムも盛り込んでいます。
それらのカリキュラムをプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)の観点で取り組みながら、多面的にデータサイエンティストを育成していきます。
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「『プログラミング』の初心者におすすめの言語や勉強の手順、習得中の苦労や上達の秘訣を紹介します」(Reitaku Journal)
https://www.reitaku-u.ac.jp/journal/1777051/
情報システム工学専攻で学ぶデータサイエンス
情報システム工学専攻では、エンジニアとして生涯学び続ける基礎となる構造や文法といったプログラミング的思考力の育成と実践的なプログラミングを学習します。プログラミングの世界では、新しい言語が次々生まれますが、基本的な考え方を習得すれば、新しい言語の学習が容易になります。さまざまな言語に触れつつ、基礎となるプログラミング思考力を育成します。
また、演習を通じてアプリ開発やシステム開発を行い、実践に有効なプログラミングのやり方を学習します。アプリや情報システムはユーザーから見えている部分、アプリ側を裏で支えるサーバ、データベース部分などさまざまな要素から成り立っています。
それぞれ異なったプログラミング言語やフレームワークを用いながら開発しますが、こうした開発手法を演習の中で学び、実践的なプログラミングスキルを高めていきます。
ロボティクス専攻で学ぶデータサイエンス
現在、AI技術の向上には学習に大量かつ良質なデータが必要とされ、データサイエンスとAIは密接な関係にあります。さらにロボティクスとの関係は、得られたAIの成果を実世界に還元する役割が挙げられます。
ロボットは実世界に物理的な作用と影響を与えるため、それに伴うリスク、安全性に関する考慮が欠かせません。ロボットに学習させるデータが安全か危険か配慮する必要があるほか、学習したロボットやAIが正しく安全に動くかをシミュレーションで高速計算し、現実では不可能だった膨大な回数の検証実験データを得ることも可能です。講義では具体的な応用事例を取り上げ、演習では体験・体感を重視し思考しながら手を動かして学びます。
また、ロボットのもう1つの役割は実世界に点在・散在するデータを能動的に動き回って集めることです。特にIoTインフラが不足する地方では、その役割が期待されています。他分野とも協力して地域連携を進め、「データ―AI―ロボット」の循環サイクルによる次世代社会に必要となる人材育成を行っていきます。
4年間で身につけられること・資格
麗澤大学のデータサイエンス教育を通して得られる資格には、次の項目が挙げられます。
基本情報技術者試験/ITパスポート/情報セキュリティマネジメント試験/MOS(Microsoft Office Specialist)/応用情報技術者試験/Python3エンジニア認定基礎試験/TOEIC®/統計検定3級・2級など
工学部が見据える就職
2024年4月に工学部がスタートするにあたり、何年もかけて「社会で活躍できる工学人材とは」について企業や自治体と議論を積み重ね、工学部構想を形作っています。さまざまな企業や自治体から「課題解決型DX人材」を期待されているので、そういう人材育成も念頭に、時代に応じた授業を展開していきます。
●情報システム工学専攻の進路想定
IT業界、コンサルティング会社、メーカー通信事業者、医療・福祉・教育、DXの推進やIoT技術の活用を進めたい各種行政機関や企業、スタートアップ・ベンチャー企業など
●ロボティクス専攻の進路想定
メーカー(機械・電気・自動車など)、IT業界、物流、医療・福祉、ロボティクス技術の活用を進めたい各種行政機関や企業、スタートアップ・ベンチャー企業など
麗澤大学サイト「工学部/2024年4月開設」
https://www.reitaku-u.ac.jp/lp/engineering/
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「2024年度に向けて工学部の設置を構想中!実践的なスキルが確実に身につく教育の実現を目指して」(Reitaku Journal)
【前編】https://www.reitaku-u.ac.jp/journal/1776250/
【後編】https://www.reitaku-u.ac.jp/journal/1776251/
【麗澤大学 工学部・新井亜弓先生】
職名:准教授
学部/学科:工学部工学科情報システム工学専攻
専門分野:地理空間情報、人口地理
研究テーマ:IoT技術の社会実装、モビリティビッグデータを活用した国際開発支援、オープンデータ・最適なデータアクセス
プロフィール参考 https://www.reitaku-u.ac.jp/about/teachers/engineering/1776688
【麗澤大学 工学部・小塩篤史先生】
職名:教授
学部/学科:工学部工学科情報システム工学専攻
専門分野:情報工学、データサイエンス、人工知能、人間情報学、医療情報学、EdTech
研究テーマ:データ保護とデータ利活用を両立させるデータプラットフォーム、デジタルアプリを通じた人間の創造性支援・学習支援、QoL向上に資する患者向けAIシステム、SDGsのためのAI・IoT活用
プロフィール参考 https://www.reitaku-u.ac.jp/about/teachers/engineering/1775898/
【麗澤大学 工学部・鈴木高宏先生】
職名:教授
学部/学科:工学部工学科ロボティクス専攻
専門分野:ロボティクス、非線形制御、ITS(先進交通システム)、産学・地域連携マネジメント
研究テーマ:柔軟ロボット、シミュレーション、自動運転、EV(電気自動車)、災害対応ロボット、建設ロボット、多次元地理情報活用、自動化システム、科学技術コミュニケーション
プロフィール参考 https://www.reitaku-u.ac.jp/about/teachers/engineering/1776721/