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教育・研究
2020.05.01|最終更新日:2020.08.10|

再注目を集める『日本を襲ったスペイン・インフルエンザー人類とウイルスの第一次世界戦争』
私たちは歴史から学べるだろうか:名誉教授 速水融先生と麗澤アーカイブズ

 本学名誉教授 故・速水 融先生の著書『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』が、いま再び注目を集めています。

 スペイン・インフルエンザとは、日本の大正時代(1918-20)に世界的に流行した感染症(パンデミック)です。速水先生は、「過去において、インフルエンザの流行は何回か見られたが、世界中を巻き込み、甚大な被害をもたらしたのはスペイン・インフルエンザ(1918-20)であった」とし、「第一次世界大戦の死者は約一千万人と言われているが、実にその四倍(約四千万人)の人命を奪った」ことに言及しました。そして「これは二十世紀最悪の人的被害であり、記録のあるかぎり、人類の歴史始まって以来最大のものである」と著しています。 

 日本ではスペイン・インフルエンザに関する研究がほとんど行われていない中、速水先生は当時の公的統計や記録だけでなく、新聞記事も集め、当時の様子を克明に描き出しました。推計の結果、日本では45万人もの死者が出たことを明らかにしました。しかし、当時政府は、「手を洗え、うがいをせよ、人ごみに出るな」といった、呼吸器病流行に際しての注意を喚起しただけだったと述べています

 速水先生は「しかし、これらのことは、今でもわれわれがなし得る唯一の対策であることに変わりはない」とし、「いまやジェット機時代であり、昔は何日もかかって遠くからやってきたウイルスは、ほとんど同時的に世界中に広がる」と警鐘をならされています。第三波まであったという当時のスペイン・インフルエンザの教訓は、現在私たちが戦っている新型コロナウイルスを考える上でも、非常に参考になると思われます。

【『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 
ー 人類とウイルスの第一次世界戦争』】
◆発売日:2006年2月
◆著 者:速水 融著   
◆出版社:藤原書店
◆価 格:4,620円 (税込)

速水先生は1990年代後半から本学教授として麗澤大学東京センターを拠点に研究されていました。そして退職後、ライフワークとして収集された歴史資料と研究資料を麗澤大学に寄贈されました。膨大な資料は、麗澤大学 人口・家族史研究プロジェクト(Population and Family History Project)によって歴史人口学アーカイブ(麗澤アーカイブズ)として整備管理され、その資料を利用した研究が現在も発展継承されています。麗澤アーカイブズ(大学図書館)の多くは江戸時代の人口資料ですが、『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』の資料として、1918年3月から1921年1月までの毎日、全国32箇所の新聞を丹念に整理された切り抜きを含む、資料や書籍も大切に保管されています。

 「私たちは歴史から学べるだろうか:気候・飢饉・疫病」まさに、今、タイムリーなこのタイトルは、2009年5月、大学開学50周年の周年記念として行われた、国際人口学会セミナーおよび公開シンポジウムです。その時のシンポジウムで速水先生が「帝国日本のスペイン・インフルエンザ―死亡の推計を中心に」を報告されました。奇しくも、新型インフルエンザ(H1N1)に対する脅威が高まり、日本政府も水際対策に躍起になっていた時期です。

 国際シンポジウムにおいて、速水先生は「スペイン・インフルエンザから何も学んでこなかったこと自体を教訓とし、過去の歴史を知ることから始めなければならない」と熱く語られました。先生のお言葉は、新型コロナウイルス感染拡大の今、ますます重みを持って受け止められます。

 私たちは歴史から学べるでしょうか。答えは、「Yes」、学ばなくてはならない、ということです。速水先生の著書や資料は分野を超えて、現代を知るために過去から学ぶこと、そして過去を知るために歴史資料に語らせることの重要性を示しています。「人間同士の愚かな戦争はもうやめて、ウィルス(天敵)との戦いにもっと備えなければならない」という先生のお言葉は、今こそ必要なグローバル社会の信頼関係と協力を学ぶ麗澤大学の教育現場にも、大きな勇気を与えてくれます。

国際学部教授 黒須里美
人口・家族史研究プロジェクト代表

<『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』関連情報>

・現在、こちらの書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSでも、『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』が、上位にランクインしています。

・2020年5月2日(土) 16:00~17:30  歴史家・磯田 道史氏と 仏文学者・鹿島茂氏が、新型コロナを歴史的観点から徹底的に分析するYoutube生放送で、『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』を読み解きます。

・2020年5月12日(火)NHK BS1で放映予定の「100年目の教訓」で、 歴史家・磯田 道史氏が『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界戦争』を題材にゲスト出演される予定です。

<国際人口学会セミナーおよび公開シンポジウム関連情報>

・麗澤大学開学50周年の周年記念として行われた、国際人口学会セミナーおよび公開シンポジウムの様子の報告はこちら

・セミナーとシンポジウムの詳細報告は「私たちは歴史から学べるだろうか:気候・飢饉・疫病~」国際人口学セミナー・シンポジウム報告として『人口学研究』45号61-66ページに掲載

・論文集はDemographic Responses to Economic and Environmental Crisis(Kurosu, Satomi, Tommy Bengtsson, and Cameron Campbell eds. 2010, Reitaku University)として出版されました。

<その他>

※速水先生は、昨年(2019年)の12月4日に急逝されました。 その後に出版された自叙伝『歴史人口学事始め 記憶と記録の九〇年』(ちくま新書)にもたくさんの注目が集まっています。

【『歴史人口学事始め 記録と記憶の九〇年』】
 ◆発売日:2020/02/05
 ◆著 者:速水 融著   
 ◆出版社:筑摩書房
 ◆価 格:968円 (税込)