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【開催報告】専門家を招きシンポジウムを開催

麗澤大学経済社会総合研究所は2月21日シンポジウム「ウクライナ危機で見え始めた新たな世界秩序」を開催しました。

世界は大きな転換点を迎えています。昨年2月のウクライナ政変に端を発する一連の出来事を振り返っただけでも、これから世界が大きく変わって行くことが予感されます。この1年でウクライナを巡って展開された事象は、「ロシアのクリミア併合、アメリカ主導による累次の経済制裁、ロシアの制裁国に対する禁輸措置、ウクライナ東部の内戦化、マレーシア航空機撃墜事件、ウクライナにおける二つの選挙(大統領選と議会選)、ロシア-ウクライナ・EUガス交渉の難航、ウクライナの経済破綻国化、問われるIMF等国際機関の役割、中国―ロシアガスプロジェクト開始、ロシアとトルコの接近、ドイツと中国の接近、EU諸国内の右派勢力(=反EU主義)台頭、低迷する世界経済、石油価格の急落、際立ってきたドイツの大国化」等と世界を揺るがし、同時に世界が大きな過渡期を迎えていることを示しています。日本はこのような世界で、どのような立ち位置を取っていくのか選択を迫られています。こうした問題意識に立ち、世界、特にユーラシア大陸を揺さぶり続けるウクライナ危機に始まる国際関係の動きを、今一度じっくり整理する一助になると考えシンポジウムを企画したものです。

ウクライナ―ロシアを軸にした国際問題に関しては、この1年、たくさん場で議論がなされてきました。共通しているのは討論者が多すぎて、深い話に入りにくいことでした。このたびのシンポジウムでは、ロシア東欧問題に関し第1人者と目される少数のパネリストが十分に時間を取って思う存分議論することにしました。

今回のシンポジウムに際しまして、対外文化協会、ユーラシア研究所、比較経済体制学会などの諸団体のご支援をお受けしました。これらの学会、団体に所属する皆様にもご案内を差し上げました。また主要新聞社のロシア関係連絡会であるモスクワ会のネットワークを通じてメディア関係者にも幅広くご案内を差し上げました。おかげさまで、多数の関係者がお運びくださいました。新聞社、総合商社、金融、旧ソ連にかつて御駐在されたビジネス関係者、エネルギー関係者など遠くは大阪や新潟からおいでくださいました。ウクライナ危機というテーマが専門的すぎるのではないのか、という懸念もありましたが多様な聴衆に支えられて盛り上がったシンポジウムになりました。

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シンポジウムは、下斗米伸夫法政大学教授による基調講演から始まり、石郷岡元毎日新聞特別編集委員(麗澤大学非常勤講師)、伊東早稲田大学名誉教授、真殿麗澤大学特任教授が各20分各々の視点からウクライナ危機に端を発する国際関係について講演。今西メディアウォッチ代表による議論の総括と問題提起を軸にパネリスト間で議論と会場からのコメントをいただき、4時間半という長丁場でしたが、みなさん熱心に聴いてくださいました。

基調講演とパネリストのプレゼンテーション資料は以下よりご覧いただけます。

下斗米先生の資料
石郷岡先生の資料
伊東先生の資料
真殿先生の資料

これらをご覧いただくとウクライナ問題のおおよそがご理解できると思います。

パネリストの議論は、丁度ドイツのメルケル首相の調停によりミンスク合意が成立した直後で、かつ、その模様を独シュピーゲル誌が詳しく報道していたことから、ミンスク合意を軸に始まりました。メルケル首相の活躍ぶりにも話は及びましたが、ミンスク合意に至るEU-米国-ロシアの激しいやり取りの解説と今後の国際関係への解釈と予想が議論の中心でした。

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パネリストは3人とも、ロシア悪者論、ウクライナ可哀想論というこれまで報道されてきた紋切り型の議論を廃して、ロシアとウクライナが置かれている国際環境に徴して、ロシアのユーラシアでの既得権を認めるような発想が求められているという立場でした。これは実はドイツの考えと同じで、フランスも組しているものだという指摘がありました。米国とこの点で大きく相違しているだけではなく、ウクライナへの武器供与を巡って独仏は米国と対立関係にすらあるという議論も出ていました。EUのメンバー国間のウクライナを巡る利害得失、安全保障に対する考え方の相違、米国とEUの底流での対立などに話はおよびました。

また、根本にはウクライナが国の体を成していないということが指摘されました。StateではあるけれどNation(国民国家)にならないまま、国をまとめる指導者が生まれず、財閥による群雄割拠的な状態が続いているという実態では、支援の仕様がないのではないのか、国をまず立ち上げなくてはどうにもならないという議論には驚かされました。

いつも新聞やテレビで謂われていることとかなり実態が異なっていることが伝わったのではないかと思われました。終了後、早速こうした集中議論をまた是非やってほしいという要望が寄せられ、来年度にも是非トライしたいと考えています。