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2014.08.08|最終更新日:2020.07.30|

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁 氏が講演


IMG_6890麗澤オープンカレッジ特別講演会(後援:千葉県教育委員会、柏・流山・松戸・我孫子・野田 各市教育委員会および柏商工会議所)の平成26年度前期第3回目が7月12日(土)に開催され、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下 一仁氏が、テーマ「農業立国に舵を切れ」と題して講演されました。当日は265名の方々が来場し熱心に聴講されました。

山下氏はまず、日本の農業が衰退している原因について述べられました。山下氏は、「日本は、コメを中心に高い関税で国内の農業を保護してきたにもかかわらず、農業が衰退しています。その原因は、アメリカや豪州にあるのではなく、日本国内の農業政策にあるのです」と指摘されました。

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次に、国内の農業について言及し、「日本の農業は規模が小さいため、海外との競争に弱く、高い関税によって農業を守る必要があると言われるが、それはまったくの嘘です」と指摘されました。
山下氏は、「確かに農業の規模は重要ですが、世界最大の農産物輸出国であるアメリカの耕地面積は、オーストラリアの18分の1しかありません。また、コメが競合する中国の規模は、日本の3分の1に過ぎません。単純に規模だけが重要ではないのです」と言明されました。

山下氏はアメリカの農業政策について、「アメリカの農業生産で最も多いのは、大豆とトウモロコシです。大豆から油をとり、その搾りかすとトウモロコシは家畜の餌にします。オーストラリアから低級な肉牛を大量に輸入して、その餌で生産し、海外に高級な牛肉として大量に輸出しています」と解説。山下氏は、「アメリカは、世界最大の牛肉輸入国であり、また最大の輸出国でもあります。つまり、農産物も自動車と同じで、規模が問題ではなく、重要視しなければならないのは品質の違いなのです」と指摘されました。

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次にTPP問題に言及されました。山下氏は、「コメの生産量は1994年の1200万トンから2012年には800万トンに大幅に減少しました。少子高齢化と人口減少が進む日本市場だけでは、日本の農業を救うことはできません。日本の農業を救うためには、相手国の関税を引き下げられるTPP等の自由貿易と、生産性向上が必要不可欠です」と訴えられました。

山下氏はさらに、今回のTPP交渉の中で、一番隠れた交渉相手国は中国であると説明されました。氏は、「アメリカはTPPで高いレベルの貿易や投資のルールをつくり、いずれ中国がTPPに参加することを考えて、中国の国営企業に対して規律を加えようとしているのです。アメリカは中国を排除するためではなく、中国市場を開拓することを想定しながらTPP交渉を行っています」と力説されました。

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下氏は最後に、日本の農地政策の問題点について言及されました。「なぜ、日本の農業の構造改革が進まないのか。それはJA農協によって阻まれているからではないか」と言及されました。氏は、「JAは農家を守るために組織された協同組合です。しかし、農業が衰退しているのに、JAは発展し続けている理由は、日本の農業政策の構図そのものに問題がある証拠です」と論じられました。

山下氏は、「JAは独占禁止法の適用除外が認められており、銀行業務、生命保険、損害保険、農産物や農業資材の販売、不動産業、冠婚葬祭など、ありとあらゆる事業を展開しています。例えば、JAバンクは預金総額90兆円に達し日本第2位のメガバンクであり、JA保険事業の総資産は47兆円で、生命保険最大手の日本生命の51兆円と肩を並べる存在です」と解説されました。

さらに山下氏は、「JAはTPP交渉には常に反対の立場をとってきました。その理由は、TPPで関税が撤廃されれば農産物の価格は下がるため、価格に応じて販売手数料収入が決まるJAは、大きな影響を受けてしまうからです。TPP交渉の反対論の構図は、"TPP問題と農業問題"ではなく、実のところは"TPPと農協問題"なのです」と力強く解説されました。

山下氏は、「この先日本は確実に人口減少時代に入りますが、その時にこそ、自由貿易が食料安全保障の基礎となるのです。農業を保護するかどうかではなく、価格支持か直接支払いか、いずれの政策を採るかが問題です。座して農業の衰亡を待つよりは、直接支払いによる構造改革に賭けるべきです」と述べられ、盛大な拍手とともに講演会を締めくくられました。