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教育・研究
2025.06.06

【実施報告】日本経済新聞社 浅沼直樹氏による特別講義を開催しました

 2025年6月4日(水)、工学部の大澤義明教授が担当する講義「社会システムのデザインと技術」において、日本経済新聞社データ・調査報道センターの浅沼直樹氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、特別講義を実施しました。

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        日本経済新聞社・浅沼直樹氏

 本講義は、Society5.0という新たな社会システムの在り方について、都市計画やまちづくりの視点から学ぶことを目的としています。デジタルとリアルの融合による人間中心社会の実現を目指し、モビリティ、再生可能エネルギー、防災・防犯、コンパクトシティ、相続、インターネット投票など多様なテーマを通じて、地域や生活を見つめ直す力を養います。

 第8回となる今回は、「レジリエント社会を構築する(新聞記者・研究者の視座から)」をテーマに、浅沼氏による講義、学生による即日課題への取り組みと発表、さらに浅沼氏と筑波大学大学院生3名によるフィードバックが行われました。

 講義の冒頭、浅沼氏は「ゲームチェンジャー」と「レジリエント」という2つのキーワードを提示。「ゲームチェンジャーとは、状況やルール、組織のあり方を大きく変える個人や企業、プロダクト、アイデアを指します。もう一つのレジリエントは、日本語では回復力や弾力性、しなやかさがあるといった意味を持ち、これからの時代を生き抜くうえで重要な視点です」と述べられました。

 続く講義では、新聞業界をはじめ、デジタルカメラ、自動車、航空機などさまざまな業界で起こっているテクノロジーを巡る「ゲームチェンジ」の実例が紹介され、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性を特徴とする「VUCA」の時代において、技術者としていかにレジリエントであるべきかについて、深い示唆が示されました。

 さらに、浅沼氏は「理学は"なぜラーメンが美味しいのか"を探究する学問、工学は"もっと美味しいラーメンをつくる"ことに挑む学問」とユーモアを交えて語り、工学が果たす実践的な社会貢献の役割をわかりやすく解説しました。

 新聞記者としてだけでなく博士(工学)として研究者の視点も持つ浅沼氏は、学生の目線に立った語り口で、専門的な内容を丁寧かつ親しみやすく伝えてくださいました。専門性を保ちながらも、比喩や具体例を用いた説明により、学生たちの理解を深める講義となりました。

 講義の締めくくりには、本学工学部のキャッチフレーズ「テクノロジーに、愛を。」に触れながら、「自らの技術に愛情を注ぎ、それを通じて社会をより良くしていく姿勢を大切にしてほしい」と、学生たちに温かなメッセージが送られました。

 その後の即日課題「産業のゲームチェンジの可視化とレジリエントな企業の考察」では、3名の学生がそれぞれ異なる分野をテーマに発表しました。ある学生が「自動車のEV化や自動運転技術開発においてレジリエントな企業を目指すには、大規模な投資や技術トレンドに即応できる開発体制が必要」と発表すると、浅沼氏は、日本企業がアジャイル体制を築けない理由の一つとして、日本には多数の自動車メーカーが存在し、国内市場も比較的大きいため、現状を維持する選択が安全とされやすい組織風土があることを指摘。その一方で、海外企業が積極的に新市場へ参入する構図を踏まえ、「日本企業には、そうした動きへのリスク意識がやや希薄だったのではないか」との見解を示しました。

 今回の特別講義は、メディア、研究、教育が交差する貴重な機会となり、学生にとって社会システムの本質を多角的に捉え、自らの進むべき道を見つめ直す契機となりました。

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       熱心に耳を傾ける学生たち
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       学生による発表