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教育・研究
2026.02.03

【開催報告】茨城フォーラム2026「地方部でのエネルギーマネジメント」――産官学が"社会実装"の壁と突破口を議論

 2026年1月30日(金)、茨城県県南生涯学習センターにて、茨城フォーラム2026「地方部でのエネルギーマネジメント」が開催されました。当日は、自治体から茨城県、土浦市、かすみがうら市、稲敷市、阿見町の職員、アカデミアからは筑波大学、茨城大学、民間企業からは関彰商事株式会社、関東鉄道株式会社、三菱地所設計など、多様な立場から約70名が参加しました。このような参加者が集う中で開催された本フォーラムは、本学が主催し、地方部におけるエネルギーマネジメントやモビリティの課題について、産官学それぞれの立場から議論を深めることを目的としたものです。本学は、北海道天塩町、長崎県平戸市、関彰商事株式会社、関東鉄道株式会社と包括連携協定を結び、教育・研究の両面から地域課題の解決に取り組んでいます。これらの連携関係を背景に、フォーラムでは各地の実践事例や現場の声が共有されました。

 開会にあたり、本学の徳永澄憲学長が挨拶し、本学が土浦市をはじめとする常磐線沿線地域と深い関わりを持っていることに触れました。その上で、地域のモビリティというローカルな課題と、脱炭素というグローバルなテーマを併せて議論する本フォーラムの意義に言及し、グローカル人材の育成や文理融合教育を進める本学として、産官学連携を通じて貢献していきたいとの考えを示しました。続く趣旨説明では、SIP研究開発代表者であり東北大学の安東弘泰教授が登壇。「内閣府SIP第3期『スマートエネルギーマネジメントシステムの構築』の取り組みを、より広く展開する際に何が障壁となるのか。現場の皆様と率直に議論したい」と呼びかけました。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の概要

 安東教授はSIPの仕組みについて、次のポイントを示しました。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)がSociety 5.0の実現に向け、バックキャストで社会的課題を設定し、プログラムディレクター(PD)や予算配分をトップダウンで決定すること。基礎研究から社会実装までを見据えた一気通貫の研究開発を推進すること。府省連携が不可欠な分野横断の取り組みを、産学官連携で進めること。さらに、マッチングファンド等による民間企業の貢献、技術だけでなく事業・制度・社会受容性・人材の視点からの実装促進、スタートアップ参画の後押しなど、社会実装を前提とした枠組みである点が強調されました。

 また、安東教授は、理論研究(数理工学・AI)を基盤に、次世代モビリティを含むデータ活用を通じてスマートエネルギー、スマートシティへ展開する研究の方向性を紹介。地方部では小規模な分散型太陽光が各地に広がる一方で、余剰電力の活用や系統制約、交通空白といった課題が重なり合う現実を踏まえ、「理想と現実の差を認識し、持続可能性を含めて議論することが重要」と述べました。

研究発表:地域課題を"届ける"ための視点

 研究発表では、各地域の実践事例を通じて、現場感と社会実装に向けた論点が共有されました。

 一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム 運営委員の前田奨一氏は、レジリエンス分科会の報告として「地域にどう届けるか」という視点を軸に、インフラ老朽化、人流データの活用、ウォーカブルプロジェクト、地域課題とスマートモビリティを掛け合わせた取り組みを紹介しました。技術単独での導入ではなく、複数の課題を組み合わせることで、実装への道筋が見えてくる可能性が示されました。

 北海道天塩町企画商工課の菅原英人氏は、ドライバーの高齢化や人口減少により公共インフラの維持が困難になる中、、ICTを活用してマイカーの空席を「見える化」し、その仕組みを基盤とした相乗りプラットフォームを構築した事例を報告しました。高齢者にも利用しやすいよう電話相談窓口を設けたことで利用が伸びた点に加え、少数ドライバーによる運用体制、インセンティブの維持、責任の整理、デジタルデバイドといった課題についても言及しました。さらに、風力発電のポテンシャルが高い地域特性を踏まえ、地域内での電力確保とモビリティを結びつける可能性についても示されました。

 長崎県平戸市財務部企画課 地域振興班長の植野健治氏は、過疎地域における移動手段の再設計において「研究知見と住民意識の接点」が鍵になると指摘しました。都市部を前提としたMaaSやAIオンデマンドの仕組み(スマートフォン操作やキャッシュレス決済など)が、要支援に近い住民が増える現実と必ずしも一致しないことを踏まえ、互助の仕組みに"混ぜていく"視点や、いきなり最終形を目指さず中間解を設計する重要性が強調されました。

 熊本県商工労働部産業振興局 エネルギー政策課長の吉澤和宏氏は、阿蘇地域におけるメガソーラーの立地問題や、県が推進する「くまもとゼロカーボン行動ブック」を例に挙げながら、再生可能エネルギー導入と景観・防災・地域受容を両立させる難しさを紹介しました。再エネ導入の進展とともに顕在化する出力制御(抑制)の課題に触れつつ、昼間の余剰電力を最大限活用するための系統整備や水素等による貯蔵活用、そして「促進」と併せた「抑制」の見える化の必要性が提起されました。

 つちうらMaaS推進協議会で関東鉄道株式会社 関連事業部長の矢野友亮氏は、AIデマンドバスやグリーンスローモビリティの実証を重ねる中で、運転手不足という危機的状況を踏まえ、「アプリを作ることがゴールではない」と強調しました。その上で、産官学連携による交通データ解析を進め、勘や経験に頼らないエビデンスベースの交通再構築を目指すとともに、乗り換え等で生じる分断をデジタルでつなぐMaaSの役割が整理されました。

パネルディスカッション:実証から実装へ――"ギャップ"と"継続性"

 パネルディスカッションには、地元茨城の企業として関彰商事株式会社および筑波銀行、アカデミアから東北大学と慶應義塾大学、産業界からWILLER株式会社、東急建設株式会社の計6名がパネラーとして参画しました。実証から実装へと移行する過程で生じる課題や、その継続性をいかに確保するかについて、立場の異なる視点から意見が交わされました。

 民間企業からは、補助金依存からの脱却、利用頻度や単価、運行の簡素化といった事業性の課題が示され、金融機関からは「実証の次をどう描くのか」という出口戦略や、実証と現場ニーズとの間にあるギャップが共有されました。WILLER株式会社の箱田氏は、警察等との調整を含め、「まずはやってみないと分からない」という実装段階ならではのリアルな課題を紹介しました。一方、東急建設株式会社の伊藤氏からは、バイオマス導入において直面する立地調整や地域受容(NIMBY)の壁が語られ、地域の理解醸成が重要な論点として浮かび上がりました。

 また、筑波銀行の渡辺氏は、茨城県内での豊富な地域連携の経験を踏まえ、実証実験におけるエリア設定の難しさや、自治体・企業・住民を巻き込む調整の重要性について説明しました。東北大学の安東教授は、理論が成立するための「簡略化」と現場適用における障壁の間にある矛盾に触れ、現場の声を取り込みながら、持続可能性を理論に組み込んでいく必要性を強調しました。

【パネリスト】

  • 関彰商事株式会社 執行役員 総合企画部長 上村 祐一 氏
  • 筑波銀行 営業副本部長 渡辺 一洋 氏
  • 東北大学 教授 安東 弘泰 氏
  • 慶應義塾大学 教授 粟野 盛光 氏
  • WILLER株式会社 社長室 マネージャー 箱田 大輔 氏
  • 東急建設株式会社 土木事業本部 新事業開発部 次長 伊藤 誠 氏

 フォーラムの最後には、茨城県都市計画審議会会長の中川喜久治氏よりコメントが寄せられました。天塩町や平戸市といった課題先進地での取り組みや、SIPを通じたアカデミア連携の意義に触れ、本フォーラムは、今後の茨城県のまちづくりや地域政策を考える上で大変示唆に富む内容であったと総括されました。

 本フォーラムは、エネルギーとモビリティという個別テーマを超え、人口減少、交通空白、災害対応、地域受容といった複合的な課題を前に、産官学が共通の危機感を共有しながら、「地域にとって意味があり、明日も続く仕組み」をどう形にしていくかを問い直す機会となりました。本学としても、研究成果の社会実装を支える学術的知見の提供に加え、地域と共に学び、実装人材を育む拠点として、今後も議論と連携を一層深めてまいります。

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