経済社会総合研究センター 研究活動
2013年度 アジアにおける資産価格統計の整備の現状と課題
1990年代初頭のわが国や北欧諸国でのバブル崩壊,2007年から2009年に起きたアメリカでのサブプライム危機など,資産市場の機能不全やバブルが金融危機と密接に関係することは広く知られている。この傾向は先進国に限らない。Reinhart and Rogoff (2009, p280)は,1970年代からの30年間で新興国等で起きた銀行危機を分析し,危機を予見する指標として住宅価格の変化が最も重要であることを見出した。Crowe et al. (2011, IMF Staff Paper)は,不動産ブームの破裂を伴った不況は,通常の不況よりも期間が長く落ち込み幅も大きいことを報告している。では,なぜ不動産バブルの生成と崩壊,より一般的には不動産市場における機能不全は,株式など他の資産や財以上の影響を経済全体に及ぼすのだろうか。不動産の果たす特別な役割としてまず挙げられるのは,Kiyotaki and Moore(1997)が提示した「金融」面でのものである。銀行が貸出を行う際には土地や建物などの不動産を担保とする。不動産価格が変動すると,その担保価値を通じて企業や家計の資金制約,ひいては設備投資・消費に影響し,大きな経済変動を生み出す。とりわけ,不動産価格の大幅な下落は,貸出債権の不良債権化を通じて銀行経営を圧迫し,資産の投げ売りや銀行間の貸借ネットワークを通じてシステミックリスクを引き起こしかねないという点で,経済全体に深刻な影響をもたらす可能性がある。この問題は,今後,とりわけ経済成長著しい,アジア諸国で発生することが予想されている。そのような問題を最小限にとどめていくためには,正確な市場の動向を捕捉できる経済統計,とりわけ不動産価格指数が必要となる。
本研究は,日本,中国,香港,韓国における資産家各党系の現状と課題を整理するために,各国の主要な研究者を招き,国際ワークショップを開催することを目的とする。不動産価格指数に関しては,麗澤大学経済社会総合研究センターが1990年代から研究を行い,世界的にも高い評価を得てきた分野である。その成果を広く共有し,アジアの研究者とのネットワーク間を構築していくことで,その研究拠点として広く社会にアピールすることを行うものとする。
◎清水 千弘 経済学部・教授
小野 宏哉 経済学部・教授
高辻 秀興 経済学部・教授
Deng Yongheng シンガポール国立大学
Chau K.W. 香港大学
Wong S.K. 香港大学
Cho Man Korea Development Institute School
Jing Wu 清華大学
Diewert Erwin ブリティッシュコロンビア大学
【協】山本 雄介 MSD株式会社、経済社会総合研究センター客員研究員
【協】安本 晋也 東京大学大学院
【協】西村 清彦 日本銀行