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【開催報告】公開研究会(大嶋 巖氏)

経済社会総合研究センターでは、研究活動の一環として、学内外の講師を招いてセミナーや研究会を企画・開催をしております。  
麗澤大学生涯教育プラザにて平成24年11月30日、元経済産業省、JICA専門家の大嶋巌氏を講師に迎え、『ビバメヒコ:メキシコ人の仕事観と日本―メキシコとの交友40年間からのメッセージ―』をテーマに研究会を開催しました。この研究会は、同センターの「共創空間開発」プロジェクト(代表 大場裕之)の一環として実施され、一般社会人と学生を含む41名が参加した。大嶋氏は、メキシコ交友40年間の仕事の経験から、メキシコ人の仕事観、人生観に触れ、メキシコが仕事を変え、自分の生き方・価値観にインパクトを与えてくれたこと、そして元気がない日本にとっても大切な価値があることを熱く語っていただいた。以下、当日の講演(第1部)および講演から触発されたテーマ:メキシコの大学で実施されている「社会奉仕活動」の日本導入の意義および参加する必要性について、「共創空間」で共創(シナジー効果による価値創造)した成果(第2部)をご紹介いたします。

(第1部:講演)
大嶋氏は、通商産業省(現:経済産業省)入省後、20代でメキシコ留学(日墨交換留学生)したことがメキシコとの出会いのきっかけとなる。留学した1970年代のメキシコは、治安が安定していたことや人懐こくて親切なメキシコ人気質に触れたこと、さらに友人にも恵まれ、友人から"ペドロ大嶋"という愛称で呼ばれメキシコのファンとなった。30代は、日本商工会議所で、また、40代は経産省中南米室中米担当として、さらに50代は、JICA専門家として、メキシコで仕事をした。
文化の異なるメキシコで仕事するポイントとしては、強い家族主義とアミーゴ(友人)の世界の中で組織が動き、仕事のやり方に影響を及ぼしていることを知っておくことが大切。政権が交代すると、大臣以下総入れ替えとなるが、その原理はアミーゴと考えてよい。JICA時代、PRI(制度的革命党)政権末期(2000年)に赴任し、メキシコ中小企業庁にて、政権移行チームと仕事したが、新政権(PAN,国民行動党)がスタートしても1年間はアミーゴ的入れ替えのため役所として機能しなかった。JICA専門家として、現地の中小企業を支援する陶磁器の無鉛化促進や一村一品運動などの政策を実施し成果を上げることができた。しかし、日本の中小企業診断士制度をメキシコに導入しようとしたが、こちらの方は文化の壁に突き当たりうまく根付かなかった。
役所の組織は、上意下達で、権威主義的なところがある。大統領の権限は絶大で、大統領顧問の名刺をちらつかせるだけで、交通違反してもその場をクリアできる風土がある。また、地位の高い人程よく働く(局長クラスは深夜まで働く)が、非管理職の人は、勤務時間前でも帰宅することがあるという。なお、メキシコでは、会社組織に対する忠誠心がなく、ジョブホッピング(転職)するのが当たり前となっている。時間に対しても概ねルーズである。また、メキシコ人はパーティが大好きで、社交的。話し上手で、言い訳が上手い。決して謝らない国民性がある。そのため、メキシコで仕事する場合の心得としては、5つの"あ"(①慌てず、②焦らず、③当にせず、④頭に来ず、⑤諦めず)で対応した。

(第2部:「社会奉仕活動制度」に関する共創)
大嶋氏はJICA時代、メキシコの大学で実践している社会奉仕活動制度を活用してメキシコの大学生を秘書として採用した。この制度は、1910年代にスタートし憲法でも定められ、卒業までに480時間の社会奉仕活動することを義務化している。単位を修得できるが、金銭的報酬はない。一日8時間とすると、60日間の活動となる。この制度を日本に導入したいのか、また、それに参加する必要があるのか、「共創空間」で異なる立ち位置に立ってみて向き合ってみた。即ち、「導入したいし、参加する必要がある」という積極的推進派と「導入したくないし、参加する必要もない」という慎重派の立場に立って問題の本質を共創してみた。積極的推進派は、インターンシップ的意義があり、自分にとっての適性の仕事ややりたい仕事を見つけるチャンスとなる、社会奉仕という仕事に目覚めるよい機会など。他方、慎重派は、義務化して社会奉仕することは矛盾する(自由意思尊重)、金銭的報酬がなければアルバイトの方が得である、480時間は長すぎるなど。その結果、仕事は何のためにするのか、という本質的な問いが浮上したこと。また、社会奉仕を義務化する背後には価値理念があること、仕事は金銭的報酬を得るためだけではないこと、さらに、社会奉仕の根底には隣人愛があるが、自己愛(自己実現)や愛国心にすり替えられている現実があることも見えてきた。

講師の大嶋氏
講師の大嶋氏
大場先生
大場先生
講演に聞き入る参加者
講演に聞き入る参加者