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「2009文明シリーズ」第2回を開催-「海洋からみた文明」

松本亜沙子氏を迎えて7月2日に、第2回比文研セミナー「海洋からみた文明」を開催し、今回も会場は満員となりました。
  
 松本亜沙子客員教授は、まず宇宙的視点から、表面に液体の水を湛えた惑星は、地球以外に発見されていないこと、液体の水はほとんどが海水であり、この海水が生命の源であることを指摘されながら、地球(というよりも海球)の特徴を明確にされた。
 これまで海洋文明といわれるとき、海に親近感をもって実際に海を感覚的にわかっている文明と、海に進出しても海に親近感をもっておらず、海を航路としか捉えていない文明の間の違いを、明確に区別していなかったのではないか―このような問題意識から、「距離感覚」、「親近感・価値観」、「生命観」の三つの観点から、新たな海洋文明論をお話しくださった。
 第一は、距離感覚の問題である。松本教授たちが、日本海溝の7703メートルの深海で撮影に成功した、シンカイクサウオの映像を動画で紹介された。シンカイクサウオは、このほかに、千島海溝、ケルマデック海溝、ニュージーランドでも確認されているが、はたしてこれらが同じものかどうか、まだ確定されていない。もしこれらが関係あるとしたら、2万キロも隔てた広大な範囲をどのように移動したのであろうか。これに対して、生物は移動せずに地球が移動したとする考え方―パンゲア大陸の分裂移動―と、実際に生物が海流に乗って移動したとする考え方―クジラの回遊やうなぎの大移動―とを、具体例を挙げて詳しく説明された。
 人間も海流に乗るということで、モンゴロイドが、カヌーで、2600万平方キロもあるポリネシアに住み着いた歴史に触れ、海では、陸よりも、移動可能性が非常に大きくなり、移動速度も速くなると説明された。
 第二は、海に関する親近感・価値観である。松本教授が、日本の白鳳丸とドイツのゾンネ号に乗船したときの体験を比較して述べられた。白鳳丸は学術研究船であるが漁船登録されており、海で発見されためずらしい生物を即座に回収できるようになっているが、ゾンネ号の場合は、めずらしい生物を発見したとしても、つかまえるための用具を備えておらず、そもそもつかまえようという意識すらもっていなかったと指摘。ゾンネ号の学術調査は、朝食後に始まるが、潮の満ちひきなど一切関係なしに行なわれる。陸の生活を船でも行ない、海を航路としか考えていない。魚がいるとか、海流とか、天気のことは全く考慮していなかった、と違いを述べられた。
 第三は、生命観の違いである。農耕は一ヶ所でがんばらなければだめだが、漁師の場合は、一ヶ所にじっと粘っていても収穫できるかどうかわからない。また、船は、「板子一枚下は地獄」といわれるように、タイタニックや戦艦大和のような大きな船も沈んでしまう。台風が発生したら神頼みしかなく、日本の船は必ず神棚を備えている。このようなところに、海の上での生命観が現れていると示唆された。
 海洋からみた場合と、陸から見た場合では、距離感覚、海への感覚、生命観が、非常に大きく違っている。これが抜け落ちて、海洋文明というのは、片手落ちではないかと提言され、これから現場感覚を元にした海洋文明論を構築していきたいと結ばれた。大変興味深く、また充実したセミナーでした。

センター長からの挨拶
センター長からの挨拶
松本亜沙子客員教授
松本亜沙子客員教授
会場のようす
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