学生相談室コラム Vol.8 - 推薦図書『ムーミン谷の冬』
2020.7.9

学生相談室 推薦図書:『ムーミン谷の冬』(講談社文庫) / 著:Tove・Jansson(トーベ・ヤンソン),訳:山室静

~自分のままでいることの保証~曖昧(あいまい)な中で生きていく~

 新型コロナウイルスの流行により、思い描いていたようなスタートとは程遠い形での大学生活になってしまった方も多いでしょう。私も家にいる時間が増えて、お気に入りの本を読み返したりしていました。今回はその中の一冊から、『ムーミン谷の冬』をご紹介したいと思います。

 この本では、いつも冬眠しているはずのムーミンが冬のある日突然、一人だけ目覚めてしまい未体験の“冬”という世界に放り出されてしまうお話です。そこは今まで自分が知っていると思っていた世界とは全く違う顔をした世界が広がっていました。何もかもが初めてでわからない世界。そこで出会う人たちもまた、出会ったことのない新しい人たちでした。

 ムーミンは初めて体験する“冬”というよくわからない新しい世界に何の準備もなく投げ出され、戸惑いや不安や孤独感を感じ、時にいら立ちや怒りも感じています。

 ムーミンは一生懸命新しい世界に適応しようとします。自分のやり方にこだわろうとしたり、昔を懐かしんだり、自分の世界のすばらしさをほかの人に教えようとしたり…。そうすることで自分の世界を保ち、安定しようとしたのでしょう。そんな不安でいっぱいのムーミンに、冬の間だけムーミン谷にやってくる“おしゃまさん”という登場人物はこう言います。「ものごとってのは、みんなとてもあいまいなものよ。まさにそのことが、私を安心させるんだけれどね。」

 私たちは不安な時ほどはっきりとした答えを欲しがります。答えがわかっていると、自分の行動の予測がつきやすいし、答えを基準にして他のことも判断しやすいから安心できるのです。だから、目の前にあって受け取りやすい答えに飛びついてしまいます。

 しかし、おしゃまさんは、そうではなく、“曖昧さこそが安心する”と言います。それはどういうことなのでしょう?

 たとえば、人に対する感情は一つではなく“好き”と“嫌い”が両方あったり、今は嫌な部分が見えていても、話すうちにいいところが見えてきたりすると、それまで気になっていた部分が気にならなくなったりもします。自分自身も同じではありません。お昼ご飯に迷うことだってあるし、食堂に行ってみたら、はじめに考えていたものと違うものを食べたくなることだってあります。そういう風に物事というのはどんどん変わっていくし、どんどん自分の考え方や物事への態度は変わっていきます。立場によっていろいろな見方や考え方ができるから、色んな人がいて、世界はこんなにも広くて深いのです。

 一方で、わからないまま・曖昧なままの中に身を置き続けるのは、実は結構大変なことです。それでも私たちはいつどうなるかわからない世界に身を置き続けなければなりません。まさに今、新型コロナウイルスの流行でその苦しさを私たちは体験しています。その中でも曖昧さを受け入れながら生きていくには、外の世界ではなく“自分の中に変わらない部分”を作ることです。ムーミン谷でも、おしゃまさんやちびのミィもぶれない部分を持っています。とてもかっこいい二人です。

 そんなこと言っても、どうやって作るの?と思う方もいるかもしれません。まずは、「自分はどんな人なんだろう?」ということを知ることから始めてみましょう。自分の周りの人と話をする。好きなものを楽しむ、嫌いなものや苦手なことを知る。毎日を過ごす中で、自分の中に起きてきた感情や考えを手に取って見つめてみる。そうすることで自分の形が少しずつはっきりしてくるはずです。それはよくもなく悪くもない“あなた”です。

 もし難しいと感じたり、安心した環境で考えてみたいと思った方は、ぜひ学生相談室に来てみてください。カウンセラーが寄り添いつつ、考えるサポートをいたします。

学生相談室 非常勤カウンセラー 増岡 考子