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教育・研究
2025.12.02

【開催報告】廣池学園創立90周年記念特別講演「ユダヤ人と日本人~混迷する世界の中で若者に期待するもの~」

 2025年11月25日(火)、「哲学B」(担当:川久保剛教授)の授業において、廣池学園創立90周年記念特別講演「ユダヤ人と日本人~混迷する世界の中で若者に期待するもの~」を開催しました。講師には、産経新聞客員論説委員、東京財団シニアアドバイザー、麗澤大学国際問題研究センター客員教授の岡部伸氏をお迎えしました。

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 今年4月から始まった創立90周年記念特別講演シリーズの一環として実施された本講演では、日本が歴史の中でどのようにユダヤ人と向き合い、多くの命を救ってきたかについて、体系的かつ多角的な視点から語られました。一般に「命のビザ」で知られる杉原千畝だけでなく、国としての方針や複数の官僚・軍人の連携によって、数多くのユダヤ人が救われた歴史が紹介され、学生たちはその奥深さに驚きながら耳を傾けました。

 岡部氏は、日本が「ナチスのホロコーストに協力しなかった唯一の大国」であった背景として、人種平等を重んじてきた国策、1938年五相会議でユダヤ人を差別しないことを国策として定めた「ユダヤ人対策要項」、ヨーロッパ社会に根強かった反ユダヤ主義が日本には存在しなかったことなど、複数の要素を丁寧に解説しました。加えて、ユダヤ人の知的・経済的影響力を国家発展に生かそうとする戦略的判断や、日米関係を考慮した現実的判断、そして上海への避難ルート確保など、偶然ではなく「日本人の連携による体系的な結果」であったことも強調しました。

 講演では、樋口季一郎、安江仙弘、杉原千畝、小野寺信、犬塚惟重、根井三郎、小辻節三ら、多くの日本人が立場を超えて人道的行動をとり、ユダヤ避難民を救った具体的なエピソードが次々と紹介されました。こうした取り組みは、哲学Bで学ぶ「日本文化を知る」という授業の趣旨とも重なり、日本人の行動原理や価値観を考える機会となりました。

 講演の締めくくりでは、若者が未来に向けて踏襲すべき「3つの実践モデル」が示されました。①"目の前の弱者を放置しない"という倫理、②"状況を冷静に分析して動く"という日本型リアリズム"、③未来に対する責任意識を養うこと。岡部氏は「皆さんは、過去の日本人が築いた"人道の信用"を受け継ぐ世代。その信用を損なうか強めるかは皆さん次第。あなたの勇気が未来の誰かへの希望になる」と語りかけ、学生たちは真剣に聞き入っていました。

 質疑応答の時間には、学生から「イスラエル建国と武士道精神の関係」や「オールドメディアと言われる旧来からある報道機関の発信と信頼性」など、多方面からの質問が寄せられました。岡部氏は「教科書に載っていることが全てではない。疑問を持ったら自分で調べてほしい」と述べ、主体的に知識を獲得していく姿勢の重要性を強調しました。また、「人道行動の基準は何か」という問いに対し、「他人ではなく、自分の思いに忠実であること。自分で考え、自分の判断で動くことが大切」と語り、学生に強いメッセージを送りました。

 最後に、来年度から新規開講されるオムニバス形式の科目で、岡部氏が「世界のインテリジェンス」をテーマに講義を担当する予定であることも紹介され、学生たちからは期待の声が上がっていました。本講演は、日本の歴史に刻まれた人道的行動を再認識し、それを未来へ継承する意義について深く考える貴重な時間となりました。