経済社会総合研究センター 研究活動

2010年度 近代日本の道経一体論

プロジェクト内容

本研究は、近代日本、主に明治期以降の道経一体論がどのように誕生し、どのように継承されてきたのかに関して、「時代」のもつ歴史性に充分考慮しながら、その理論的系譜を検討するものである。日本の場合、よく知られているように、道経一体論は明治初頭の渋沢栄一に始まる。個人と国家のいわば素朴な一体観が蔓延していた明治が終わり、日本社会が大きな分岐点を迎える日露戦争後に本格的な道徳論議が起きる。「道徳の荒廃」が社会問題となり、そのなかで「資本家の道徳」も問題視される。例えば、ジャーナリスト、山路愛山の『現代金権史』(1908年)が刊行されている。日清戦争から日露戦争への連続は、より強国と争ういわば「修羅の道」であることも認識された。個人と国家の直線的な一体観が壊れ、日本社会の軌道修正をはらんで、両者を繋ぐ何らかのより「正当」な媒体が求められたのである。その媒体に何を置くか。天皇か、軍か、企業か、村落か、それによって進む方向は大きく変わる。いずれにせよ個人と国家を媒介する帰属意識(組織)が必要である。大正期から昭和期は、その正当性をめぐる様々なレベルでの対抗ととらえることができるだろう。廣池千九郎もまた、自説を展開し、実践した時代の闘士であり、その道経一体論は大正・昭和期に入ると茫漠化する。戦前から戦後への繋がりに至っては、ほとんど系譜不明という現状こそが、問題の深刻さを物語っていると言えよう。本研究では、日本にとどまらず、東アジア、欧米における同質の議論も射程に入れる。昨年度の準備を踏まえ、22年度は、本格的な近代日本における系譜論的研究を行う。

プロジェクトメンバー

◎佐藤 政則 経済学部・教授
 中野 千秋 経済学部・教授
 櫻井 良樹 外国語学部・教授
 大野 正英 経済学部・准教授
 藤井 大拙 モラロジー研究所経営者活動推進課・課長
[協]陳 玉雄 経済学部・助教