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【開催報告】平成26年度第1回公開研究会開催

平成26年10月25日、平成26年度第1回公開研究会が校舎「あすなろ」にて開催されました。今回の研究会では、埼玉大学経済学部の水村典弘教授に、「意図せぬ不正と行動ビジネス倫理の死角」というテーマで講演して頂きました。

何故、企業による不正や不祥事は無くならないのでしょうか。21世紀に入ってから、日本では、多くの企業が企業倫理に関する取り組みを進めてきました。例えば、コンプライアンス研修などが、企業で盛んに行われています。また、これを後押しするように、いくつもの企業倫理に関する研究もなされてきました。しかし、依然として企業の不正や不祥事が発生しています。「企業倫理に関する取り組みが実践されているのにも関わらず、なぜ企業は不正や不祥事を行ってしまうのか」。今回の水村教授の講演では、正にこの疑問の真相に迫りました。

これまでの企業倫理の研究では、個人が倫理的課題に直面した際に意思決定を、「倫理的課題の認識」、「倫理的な判断」、「倫理的な意図」、「倫理的な行動」という段階を踏んで行うということを前提としていました。このような合理的意思決定プロセスに一石を投じたのが、「行動ビジネス倫理」という分野です。行動ビジネス倫理では、倫理性は限定的であることを前提とし、個人が倫理的課題を認識できない可能性を示しています。つまり、個人が特段の意図を持たずしても、不正や不祥事を働く場合があるということです。水村教授は、事例として某ホテルレストランにおける食品表示問題を取り上げて説明くださいました。これは、従業員たちが、扱っている食品表示が不当表示にあたるという認識を持っていなかったために発生したと考えられ、「限定された倫理性」に起因する事例であると言えます。このように、たとえ企業倫理に関する研修・教育を熱心に実施している企業でも、もし従業員たちが倫理的課題を認識できなかったとしたら、その取り組みは水泡に帰してしまう危険性があるのです。

社会の変化が加速し、社会が複雑化する中では、企業や個人が倫理的課題を認識していくことは、増々難しくなっています。限定された倫理性を踏まえ、意図せぬ不正や不祥事を防止するために、企業がこの問題に対し、如何に取り組んでいかなければならないのかが今後の課題となるのではないでしょうか。本研究会では、企業倫理における多くの有識者の方々に参加して頂きました。学術的な研究と企業の取り組みの双方において、今後、行動ビジネス倫理がどのように進展していくのかに期待したいと思います。(経済研究科博士課程1年 藤原達也 記)