【開催報告】ROCK特別講演会2018後期第3回:楊海英氏 ご講演
2019.2.6

2019年1月26日(土)10:00~12:00

講 師:楊 海英(よう かいえい)<日本名:大野 旭(おおの あきら)>氏
    (文化人類学者、静岡大学人文社会科学部教授)

テーマ:ユーラシアのモンゴル草原から見た中国と日本

参加者:106名(申込者数137名)

 平成30年度麗澤オープンカレッジ特別講演会(後援:千葉県教育委員会、柏・流山・松戸・我孫子・野田各市教育委員会および柏商工会議所)の後期最終回を1月26日(土)に開催しました。文化人類学者、静岡大学人文社会科学部教授である楊 海英氏を迎え、「ユーラシアのモンゴル草原から見た中国と日本」と題してご講演をいただきました。当日は106名の方々が会場に集まり、楊氏のご講演を熱心に聴講されました。

 冒頭の岩澤カレッジ長の挨拶では、日本人にとって認識が曖昧になりがちなモンゴルについて、モンゴル国と内モンゴル自治区の2つに分断されている点を改めて整理したうえで、内モンゴルで展開された歴史が虐殺と戦争の世紀・20世紀を象徴するもののひとつであること、そして我々はその歴史を学びつつ、近代における日本とアジアとの関係を再考する必要があると、問題提起がなされました。

 楊氏のご講演では、お話の概略について説明がなされた後、中国偏重である私たち日本人の感覚を相対化するべく、モンゴルを中心に南北が逆さになった地図が提示され受講生のほとんどが、その地図を“初めて見る”かのような興味津々の様子でした。「モンゴル人は逆さに中国を見ている」「モンゴル人にとって中国は地図上、下の方向なので”下って”いく気持ちになる」「20代になるまで中国を大きく感じる事は無かった」と話され、中国を絶対的大国だとみなしている日本人と、モンゴル人との意外な認識のギャップについて解説がなされました。広大なユーラシア大陸に生きてきた遊牧民の視点では、中国史は地域史のひとつに過ぎず、人類の移動と文明の伝搬は、ユーラシア大陸を渡って西からやって来たという説明に、非常に納得です。

 ダイナミックな視点を持っている遊牧民ですが、実際にはどんな生活をしているのか。たくさんの写真でモンゴルの風景や遊牧民の生活事情をお話頂きました。その写真には、美しい草原や緑の森が広がる山岳地帯、可憐な草花など、楽園が広がっているようでした。一方で、近年の情報化の波により、ゲル(移動式住居)には衛星アンテナが設置され、携帯電話を使って家畜を誘導するなど、遊牧民社会に起きている変化について、ユーモアを交えながらご紹介頂きました。

 歴史もまた、モンゴルからの視点では、今まで私たちが触れてきたものとは異なる捉え方となります。つまり、元朝、清朝などを中国(漢族)の帝国として見なす態度には、中国の領土拡大のバイアスがかかっており、本来的には遊牧民族の王朝というのが正しい認識であることを楊氏は提起されました。現在のモンゴルの区分けがなされたのは清朝の時代で、中国から見て近い地域を内モンゴル、遠い地域を外モンゴルと呼びリスク管理をしたと言います。いかに中国がモンゴルを恐れていたか、その心情が会場にまでひしひしと伝わってきました。

 変わって日本とモンゴルの近代における関係は、日露戦争時に満州にて共にロシアと戦って以降、モンゴルと日本は接近し、日本的教育を受けたモンゴル人が独立に向けて活躍することになります。満州国時代には、いわば中国と日本の二重統治下ではありましたが、満州国の現地に寄り添った政策により、モンゴルの近代化が進み、中国に脅威と捉えられるまでになります。当時のモンゴル人の写真を示しながら「非常に良い表情をしている」と、楊氏もコメント。その他、この当時のモンゴルの学校や軍隊の写真に一つ一つエピソードを交えて触れられる様子から、楊氏のこの時代に込める想いが伝わってきました。

 日本の敗戦は、モンゴルにとっては民族解放戦争の始まりだったと言います。秘密会談の結果締結されたヤルタ協定によって一方的に中国の支配下に入り、60年代の中ソ対立時代には粛清が始まり、そして今もなお弾圧が続いています。当時の報告資料や写真からは、その生々しさが十二分に伝わってきました。そして、かつて日本から教育を受けたモンゴル人が独立しようとしたために、様々な虐殺が行われたという事実に、日本も決して無関係ではないということを認識させられました。

 最後には、最近の弾圧の様子やモンゴル草原で起きている家畜のひき逃げ事故などの写真が示され、これらがどこか遠い国の悲劇ではなく、かつて私たち日本人が深く関わっていた歴史の延長であることを再認識する機会となりました。私たち日本人のアジアに関する歴史観が変わる、たいへん深みのあるご講演内容でした。

 

 

 

 平成30年度の特別講演会が本会で終了となりました。次年度第1回目は所功氏(モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授)をお招きし、「新天皇と新元号のナゾ解き」と題し、2019年5月18日(土)開催予定です。

 

■前回の特別講演会の様子
2018年11月17日(土)横田 拓也 氏(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会事務局長)「拉致問題を考える」

https://www.reitaku-u.ac.jp/2018/11/28/67996