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2019.03.01|最終更新日:2020.08.26|

【開催報告】さしま茶産地におけるお茶のまちづくりシンポジウム

 2月27日(水)およそ2年間かけて取り組んできた「日本茶初輸出さしま茶ブランドの価値向上・発信事業」(地方創生推進交付金・農林水産省)の研究成果報告シンポジウムを開催いたしました。本事業は平成29年2月より境町から受託し、 関係4市町およびさしま茶協会とも協力しながら進めてきたものです。シンポジウムは関係者限定でしたが、定員80名のところ参加者数が70名を超え、会場は大変な熱気に包まれました。研究関係者や自治体関係者だけでなく、さしま茶の茶農園の方にも多数ご参加頂き、さしま茶の未来について意見が交わされました。

 冒頭、中山学長から開会の挨拶として、境町との平成27年の協定を契機に、今日まで多様な活動が生まれ育っていることに触れました。本研究事業のような取り組みは、大学が地域におけるCOCや社会貢献の役割を果たしていくことに繋がり、これからの大学のあるべき姿を考える一助にもなるだろうと期待を投げかけました。

 続いて、本件代表研究者である徳永経済学部長より研究全体の概要を紹介し、「参加者がシンポを通じて研究成果を共有し、さしま茶を活用した取り組みのこれからを考えるための契機としたい」とシンポジウムの抱負を語りました。

 それを受けて、境町の橋本町長からは「今回の研究事業は境町に限らず、さしま茶産地の三市二町の成果である。さしま茶の価値を広め・高めることで、生産者所得を上げることや、地域の誇りを育てることを期待できる。大学の研究成果は、さしま茶における史実根拠を示し、自信を持って世界に『さしま茶』を発信していくことができる。これからも『さしま茶』における生産・プロモーション活動を、さしま茶協会や地域の方々と一緒にやっていきたい。」と力強くご挨拶をいただきました。

写真:中山学長挨拶             写真:徳永代表挨拶   写真:橋本町長ご挨拶

写真:会場の様子

<第一部:さしま茶の「これまで」>

 シンポジウム第一部では、さしま茶に関するこれまでの取り組みについて、歴史、経済、生産者の観点から報告がなされました。

 まず、今回の事業の柱でもある歴史研究を担われた櫻井良樹氏(麗澤大学外国語学部教授)から、2年間の史実調査について報告がなされました。今回の課題である、中山元成がアメリカに日本茶を初めて輸出した人であることの実証に当たっては、国内のみならずアメリカにまで足を運び、分散した文献を集め、それら文献の整合性を子細に分析することで「初めて」の妥当性を検証しました。様々な幸運や巡りあわせがあり、今回の検証につながったこと、またその過程で中山元成という一庶民が世界に向かって先端的な交流活動をしていたことが明らかになったことなどが会場に共有され、会場を大いに沸かせました。

 続く沖山充氏(麗澤大学経済社会総合研究センター客員研究員)の報告では、さしま茶の経済的な分析が報告されました。日本茶・緑茶飲料の生産と消費の推移や、茶産地別(府県別)の製茶業の現状の整理がされたうえで、茨城県産茶でのさしま茶のポジション、さしま茶の需要拡大による経済波及効果の試算について、茶農家へのヒアリング調査の結果も踏まえて発表されました。その緻密な分析に、会場も圧倒といった様子でした。

 第一部の最後は、さしま茶協会会長の石山嘉之氏(石山製茶工場代表)に生産者として感じられている産業の変化や、今後のさしま茶産業の活性化についてお話頂きました。静岡などの大生産地に比べ、茨城県はじめ関東の茶産業は生活に根差したものであること。かつてさしま茶園も200農園ほどあり、地域経済に大きく貢献したことなど語られ、今はSNSを中心に若い人が興味を持ってくれるので、そうした時代変化に合わせて、新しい時代に向けてお茶商品を供給していく重要性を述べられました。また、今回の歴史研究の成果は地域の財産であり、今後その成果を活用しながら地域の産業を盛り上げていきたいと心強いお言葉を頂きました。

写真:櫻井による歴史研究報告         写真:石山会長のご発表

<第二部:さしま茶の「これから」>

 第二部では、第一部の発表を踏まえて、さしま茶のこれからの発展を考えるトークセッションを展開いたしました。トークセッションに先立ち、話題提供も兼ねて氏家 清和氏(筑波大学 生命環境系 准教授)、櫻井カレン薫 氏(株式会社NePt Japan代表取締役)より、各人が取り組んだ事業について報告がありました。

 氏家氏の報告では、日本茶の市場調査と、さしま茶の需要についてインターネット経由の大規模調査の結果が提示され、さしま茶は茨城県内で市場拡大の可能性があると結論付けられました。また、櫻井カレン薫氏の報告では、さしま茶のブランディング事業について、新パッケージデザインのコンセプトや意匠の説明が行われました。伝統と新しさを感じられるデザインで、さしま茶や利根川の水運で栄えた境河岸を表現し、国内だけでなく海外への展開も視野に置いていると夢を語っていただきました。

 ここからトークセッションに移り、橋本町長、石山会長、氏家氏、櫻井カレン薫氏、阿久根 優子氏(日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科准教授)が壇上に上がりました。コーディネーターは研究代表の徳永が務めました。初めに橋本町長、石山会長にここまでの発表を聞いた感想を伺い、続いて阿久根氏に海外のお茶市場について話題提供頂きました。海外でオーガニックのニーズが高いことや、消費者が求めていることと生産者が訴えたいものが異なる点の指摘がなされると、会場の興味は一気に海外展開に。氏家氏、櫻井カレン薫氏からも海外のお茶マーケットについて情報提供がなされ、さらに橋本町長からはビックデータを使った富裕層向けの販売についてグローバル企業の取り組みが紹介されるなど、さしま茶の可能性についてヒントが提示されました。

 会場からも「具体的にどのようにして進めて行けばいいのか」、「アメリカに初めて輸出した歴史の文案を統一したほうが良いのでは」など質問が飛び交い、すぐにでも活性化に向けて動き出したいという会場の熱意が伝わってきました。

 シンポジウムの最後は、本学副学長の小野 宏哉より、研究事業の遂行にあたり、関係者の皆様から多大なご協力を得ましたことの御礼と、今後のさしま茶業並びに町の発展について希望を込めまして、閉会の挨拶とさせていただきました。

 第一部・第二部を通じて印象的だったのは、「さしま茶」を軸に国内外双方の視点からお茶の貿易史実が紐解かれ、現在の市場研究やマーケティング調査があり、それを踏まえたブランディングやまちづくりが展開された本事業の時代と地域を超えた壮大なストーリーです。中山が活躍していた当時と同様のことを、今、茶農家や自治体、研究機関がまさに産官学一体となって進めている。その歴史を超えたつながりが可視化されたシンポジウムとなりました。

 境町ならびにさしま茶協会の皆様、関係市町の皆様から多大なご協力いただいたことで、本研究内容が深まり、これからの展望を探る有意義な機会となりました。この場を借りて重ねて御礼申し上げます。

本シンポジウムのプレスリリースはこちら  https://www.reitaku-u.ac.jp/2019/02/21/68717

茨城県境町と包括連携協定を締結 https://www.reitaku-u.ac.jp/2015/10/13/53687

麗澤・地域連携実習2018(境町テーマ) https://www.reitaku-u.ac.jp/2018/09/11/66924