学生生活学生相談室

コラム
2025.09.19

学生相談室コラム Vol.55 - "自分には何もない"と思っていた私を変えた一冊

 自分には"何もない"と感じていた、大学生のときの話です。

 ある日、ふと立ち寄った本屋で、一冊の本に目がとまりました。心理学のコーナーに並んでいた『生きる意味』(諸富祥彦)というタイトルが、なぜか気になって仕方がなかったのを覚えています。

 普段はあまり本を読む方ではなかったのですが、そのときは自然と手に取り、ページを開いていました。不思議と内容がすっと頭に入り、夢中になって読み進めていました。「もっとじっくり読みたい」と思い、そのままレジに向かいました。

 あの頃の私は、目標を見失い、失敗や挫折から自信をなくしていました。

 「結果が出せない自分はダメだ。努力が足りなかった。意味がない」ーーーそんなふうに自分を責める言葉が頭の中で繰り返され、「自分には何の価値もない」と思い込んでいました。気持ちは沈みがちで、体調もすぐれず、自己嫌悪に苦しむ日々を過ごしていました。

 そんな状態だったからこそ、この本に自然と惹かれたのだと思います。

 本の中では、ユダヤ人として強制収容所を生き抜いた精神科医ヴィクトール・フランクルの言葉や考え方が紹介されていました。

 特に印象に残っているのは、「どんなときでも人生には意味がある。あなたを待っている"何か"があり、あなたを待っている"誰か"がいる。そして、その"何か"や"誰か"のために、あなたにもできることがある」「自分に与えられた運命に対して、どういう態度をとるのか。どんな生き方を選ぶのか」というメッセージです。

 その言葉たちは、当時の私にとってとても力強く、温かく響きました。

 諸富さんの『生きる意味』では、そうしたフランクルの思想が、やさしくわかりやすい言葉で綴られており、読み進めるうちに心が落ち着いていくのを感じました。

 この出会いをきっかけに、大学の図書館で『夜と霧』や『意味による癒し』なども読むようになり、「自分はどう生きたいのか」という問いに、少しずつ向き合えるようになっていきました。

 そして、「前向きに生きたい」と願う気持ちは、誰かに許されるものではなく、自分自身が持っていていいのだと感じるようになっていきました。

 もちろん、本だけでなく、安心して話せる人との出会いや、気持ちを言葉にして受けとめてもらう経験、アルバイトを通して得た社会とのつながりも、大きな支えとなりました。

 それでも、あのときの「一冊の本との出会い」が、私にとって大切なきっかけになったのは確かです。

 学生の皆さんの中にも、「心に響く何か」との出会いが、きっとどこかで待っているはずです。

 そんな"何か"に出会えることを楽しみにしてほしいですし、ぜひ、自分から探してみてほしいなと思います。

 本を手に取ってみたり、誰かと話してみたり、少しだけ立ち止まって、自分の心に耳をすませてみる。そんな時間が、きっとあなたにとって意味のあるものになるはずです。

<参考図書> 

146.8/Mo77f 『生きる意味:ビクトール・フランクル22の言葉』諸富祥彦著,KKベストセラーズ,2020年発行

946/F44 『新版 夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル[著],池田香代子訳,みすず書房,2002年発行

146.8/Mo77c 『意味による癒し:ロゴセラピー入門』V.E.フランクル著,山田邦男監訳,春秋社,2004年発行

※これらの図書は図書館で所蔵しています。冒頭に記載しているのは、図書館の請求記号です。また、著者名等の書き方は、原本に準拠しています。

非常勤カウンセラー 沼田大介