比較文明文化研究センター インフォメーション

【開催報告】編集工学研究所所長の松岡正剛氏による講演

平成24年2月23日、平成23年度比文研セミナー『文明シリーズ』の第5回目が、麗澤大学生涯教育プラザにて開催されました。株式会社松岡正剛事務所体表取締役、編集工学研究所所長の松岡正剛氏をお招きし、「編集工学から見た文明」をテーマに講演が行われました。「編集工学」という言葉の発案者でもある松岡氏自らが本日はその編集工学的な考え方に則り、現在我々を取り囲んでいる世界の成り立ちを考えてみた本日の講演には約40名の方々が参加し、熱心に聴講しました。

身近なニュースとしてはTPPへの参加が取り沙汰されるなど、何かとかけて「国際化」、「グローバライゼーション」と叫ばれている昨今ですが、我々が耳にしているこれらの国際化とは、乱暴な言い方をすると、これからはグロバールスタンダード≒アメリカンスタンダードに合わせていこうということにするという動きに他なりません。資本主義経済をベースに敷いている現代の世界では致し方ない選択かも知れませんが、なぜ彼らの基準はスタンダードになり得て、日本のそれはスタンダードに成り得なかったのでしょうか。完成品を分解し、その仕組みを探っていく工法を「リバースエンジニアリング」と言いますが、今回の講演では「一神教」と「多神教」という二つのキーワードを使い、2012年現在の世界という完成品から時間を遡る文化のリバースエンジニアリングを試みました。

「一神教」と「多神教」、つまり宗教は、一見経済とはなんの関係も無さそうに思えるものですが、東洋と西洋の、それぞれの文化の基盤となる考え方という意味では大変重要な要素であり、これらの成り立ちと特徴を理解することで、現在の世界の仕組みもまた自ずと理解できるはずです。人間の宗教はそもそも多神教に始まり、キリスト教に代表される一神教は、古代エジプトをその発祥とするようですが、当のエジプトでは栄えることなく、その考え方はバイブルにも登場するモーゼにより中東の地にもたらされ、その基礎が築かれた後西洋の世界へ広まっていきました。

一神教が育った土地は生か死の2択しか存在し得ない灼熱の砂漠であり、このような厳しい環境で生き残るために、力は自然と強力なリーダーシップを持つ一人のリーダーに集中され、素早い決断とリーダーへの絶対服従が求められました。それに対し、日本をはじめとする東洋は、いわゆる森の文明であり、幾多の選択肢が存在し、多くの専門家(リーダー)が求められる環境であったという決定的な違いが存在します。教理の面でも、全知全能の神にいつも全てを見守られる人間が、その神と契約関係にある一神教とは異なり、日本の神々は年に数回、正月などの限られた時期にしか訪ねてこない「客神」という全く違う存在であり、そもそも契約関係などは存在しないという、またもや大きな違いが存在します。

数千年の時が流れ、「法」と「契約」を根幹とし、「神と人間」、「混沌と秩序」、「公と私」、「罪と罰」、「聖と俗」...のように物事をきれいに両分する、二元法的な考え方が発達することになった西洋から資本主義システムが発明され、今や現代社会の普遍思想に成り得たのも、このような、そもそもの世界に対する考え方の違いを理解すれば、成るべくしてこうなったという感じがします。なかなか物事が決まらない日本の政治も同じ理屈で考えてみたら案外許せるものかも知れません。

(麗澤大学 大学院生 記)

司会の松本先生
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講師の松岡正剛氏
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時間を遡り世界を考えてみよう
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東洋と西洋の考え方の違いは?
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質疑応答①
質疑応答①
質疑応答②
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