学生生活学生相談室
学生相談室コラム Vol.54 - 推薦図書『裁判員17人の声』
『裁判員17人の声:ある日突然「人を裁け」と言われたら?』
牧野茂, 大城聡, 裁判員経験者ネットワーク 編著 / 旬報社
みなさん、夏休みにはいりました。酷暑続きですが、お元気でしょうか。
今回は、興味深い本をご紹介します。
少年法の改正により、2021年に裁判員の年齢を18歳以上に引き下げることが決まり、2023年から施行されています。つまり、大学生は年齢的に裁判員制度による裁判員にいつ指名されてもおかしくないのです。毎秋にくじ引きで作成される「裁判員候補者名簿」から裁判員候補に選ばれると、「名簿記載通知」が送られてくるといいます。裁判の対象となる事件ごとに、名簿のなかから「呼出状」を送る候補が選ばれ、そのなかから抽選で裁判を担当する裁判員が選ばれると、この本では紹介されています。ただし、合理的な辞退理由があれば、辞退は可能なようです。
この本は、裁判員に選ばれ、実際の裁判に向き合った人に質問項目に答えてもらうことで、制約なく自由に語ってもらう形で作られていて、17名分の経験談が集約されています。「名簿記載通知」や「呼出状」が届いたときに、どのような気持ちになったか。どういった事件を担当することになり、裁判の審理について、裁判員と裁判官が話し合う評議について、判決言い渡しについて、といった一連のことを経験しての感想などが、それぞれの言葉で語られています。裁判終了後は守秘義務が課されます。
扱う事件は、傷害罪、危険運転致死傷罪、強盗傷害罪、殺人未遂罪、殺人罪、など、ちょっと聞くと気後れしそうな重要犯罪が多いです。それでも、裁判員を経験した方々からは、「裁判員を経験したことで、裁判に関する関心が高まった」、「日常で事件のニュースの見方が変わった」、などポジティブな感想が多くあげられています。また、知的障害者が殺人を犯した際の量刑を考えるというケースなどでは、読み手としても、考えさせられるものがありました。「私だったら」と置き換えて想像してみると、どういった結論を導き出すでしょうか。
日常から一歩踏み出た裁判員裁判という非日常での、緊張や、やる気、時に不満や達成感、感情の様々な揺れ動き、飾らない言葉の力を感じとれます。守秘義務によって知られにくい裁判員経験者の生の声が集められています。
もしかしたら、今後、裁判員に選出される日が来るかもしれません。そうでなくても、日本の法制度に関心を持つことは、大変有意義なことと感じます。この本は、図書館にも所蔵されています(請求記号:327.67/Ma35)。一度、手に取って読んでみることをお勧めします。
学生相談室受付 寺本敬子