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学生相談室コラムVol.32 - マンガビブリオバトル2021③ / ニンテンドーDSのソフトにもなったノスタルジックな名作
このコラムVol.32は、学生相談室夏休みイベント「マンガビブリオバトル」参加作で、9月に行うアンケートの対象です。
おススメマンガ:『蟲師(むしし)』漆原友紀 著,講談社(月刊アフタヌーン不定期掲載)
-共に生きる、とは。
およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群を、ヒトは古くから畏れを含み、
いつしか総じて「蟲(むし)」と呼んだ。
冒頭、この作品を象徴する「蟲」なるものの存在について語られた一節です。
私たちの知る命のありようとは、まったく異なる存在である、蟲。
作品世界には、この蟲が見えるヒトと、見えないヒトがいます。
幽遠の山々、月の光届かぬ深海の底、深雪に埋もれた静寂の里...。
おいそれと、立ち入ってはならぬ。だれに教えられずとも、肌から湧き上がる畏怖の念。
圧倒的な自然が存在する世界。蟲の存在を感じさせる幻想的光景が、淡く艶やかに描かれています。
蟲とヒトとの不意の遭遇は、ときに摩訶不思議な現象を引き起こします。
患い、惑い、命を失うことさえある。
「蟲師」とは、先人から受け継いだ知恵と技をもって、ときに医者のように人々を癒し、理(ことわり)を知るものとして諭し、あるいは巻き込まれ圧倒される当事者として、そこに立ち合います。
物語の主人公は、その蟲師である青年ギンコ。
蟲をその身に引き寄せる体質ゆえに、一つところに留まることが許されぬ身。道々で「蟲患い」の相談に乗ったり、蟲由来の珍品や薬を売ったりして日銭を稼ぎながら、渡り歩いています。
安定とは、ほど遠い日々。でも悲愴な様子はありません。ある種の軽やかさをまとっています。
なぜなのでしょう?
第三巻「眇(すがめ)の魚」に、彼が幼年時代に出会った師、「ぬい」との物語が描かれています。命を救ってくれた恩人であり、ともに過ごすうち、母とも思える代えがたい存在となったぬいが、蟲に影響され、ほどなく命を失おうとしていることに気づいたとき、「こんな恐ろしい蟲、どうして生かしておくんだよ」と息を巻く彼に、ぬいがそっと返した言葉。
「恐れや怒りに、目をくらまされるな。みな、ただそれぞれが、あるようにあるだけ。逃げられるものからは、知恵ある我々が逃げればいい」
これは、ギンコの物語に響いている通奏低音のように感じます。彼は、一つひとつの命と丁寧に向き合い、機敏を感じ取ろうとする人として描かれています。蟲とヒトとの出会いによって起きる出来事は、ときに不条理で、辛苦にまみれています。巻き込まれ、悲しみに打ちひしがれても、そこにとどまらず、それぞれのあるがままに立ち返り、手放そうとする。
ぬいの言葉はギンコに、異なる命、存在を尊ぶ懐を持ちながら、理不尽に倒れることなく生きる知恵を与えてくれたのでしょう。
ひるがえって、私たちの物語です。
生きている以上、私たちは常に自分と異なる存在と共にあります。
家族、恋人、友人、他人。あまたの動物や植物、無生物...ウイルスもその一つでしょう。
こうした異とともにある私たちの日々の暮らしは、思うようにならないことの方が多いかもしれません。
そんなとき、己の感情を受け止める。
目の前のものは、ただ、あるようにあるだけ。
生き残る知恵を身につけよう。
自らを癒せる人になれるように。
「蟲師」は、こころの休憩室に所蔵されています。
みなさん、よかったら手に取ってみてください。
教職員 A.S.さん
※下線注※
"こころの休憩室"は、学生相談室が運営する休憩室で、校舎あすなろ1階にあります。
平日9:00~17:30までオープンしていて、オンライン授業期間も開室しており、自由に出入りして、ご利用いただけます。本棚に、マンガや本(絵本含む)があり、飲食OKです。
なお、コロナ対策で、入室時には、来学時に計測した体温を設置されている用紙にご記入いただき、退室時はアルコールのウエットティッシュで使用箇所を拭いていただくように、ご協力をお願いしています。